第一章 魔物の国3
何度か獣に襲われる事はあるものの、障害らしいこともなく数年の月日が流れた。
何歳になったかは不明だが今では俺の身長は両親の肩までに至る程の成長をとげた。
そして、これだけ生活してきて気付いた事がある。
「食べなさい」
父親が獣を焼いた物を俺に差し出す。
「これは、何の肉?」
「肉だ」
そう、学習して言語はわかるようになったのだが、両親はほとんど何も知らないのだ。
だから、この二人に武器を持たないのか、と聞きたいのだが、”武器”をこの世界の言葉に置き換えることができない。
「お前も狩りを覚える」
父親が立ち上がる。
意志疎通が極端に短い。
そもそも、俺達以外の人間に会ったことがないのが不気味に思う。
俺も父親から渡された焼けた不明な肉を口に放り込むと立ち上がる。
母親が火を消した。
いくつか、聞いてわかったことがある。
火は獣を遠ざける、という俺の認識はこの世界では通用しないようだ。
火におびき寄せられて獣ではない何かが来る、という。
それを見たことがないので、どんなものが襲ってくるのかわからないが父親が「お前、死ぬ」と言っていたので、きっと父親でもギリギリのなにかだろう。
驚いたのは、俺に名前はない。
最初、オマエという名前なのかとも考えたが、母親が父親にもオマエ、父親が母親にもオマエだったのでどうやら認識としては自分以外はオマエらしい。
そうこうしているうちに父親の狩り場へとやってきたようだ。
今日の寝る場所もこの辺りになるようだ。
両親は言葉より身ぶり手ぶりで行動を伝える事が多い。
獣が逃げる、という意味も少しあるみたいだが、獣以外の何かを警戒しているようだ。
「シュ……!」
父親が突然、人間とは思えない動きをする。
父親の戦う姿は初めてみる。
何事かととっさに索敵の魔法を発動させた。
近くに赤い点。敵対生物がいるのがわかった。
ん!?
俺、この体でも魔法が使えるのか!!
今まで、生活を送るのがやっとで魔法の存在が頭から抜け落ちていた。
戦闘に入り無意識で経験に従って魔法を発動させた事で思い出した。
驚きに身を固めていると父親が地面に跳ねていた白い毛のふさふさな生き物を片手に現れる。
耳の長い生き物で、前歯が自分の指程の長さまである奇妙な生き物だ。
足が6本ある。
「それは?」
「肉だ」
結局、この生き物の名前はわからなかった。