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そして……

王族との繋がりが密だった商人が、現在も国で活動をしているという情報は手にいれていた。


とりあえず、彼に匿ってもらうことにするため、扉を叩いた。


王子は10年経ち、大人になったとはいえ現在も指名手配の身であるからボロいフード付きのマントで顔が見えないようにしてもらい、俺の後ろを歩く下男げなんのふりをしていただいている。


この10年、ずっとしていただいているのだ。


言いたいことは沢山あるだろうが、俺を困らせまいと、小さい子供ながらなにも言わず付いてきていただいた忠誠を捧げるべきお方だ。


この商人に匿ってもらえれば、王子を下男げなんのようなふりをしていただく必要もなくなる。


中から身なりのよさそうな服を着た初老の男性が出てきた。


俺と王子に一瞥いちべつをくれると、さげすむような目になる。



「ここはお前たちのような傭兵崩れが戸を叩いてよい場所ではない。消え失せなさい」



俺は自分の服を見る。


火の魔法で肩当てが溶けていたり、胸当ても刃物傷で酷い有り様だ。


服も戦闘に参加するたびにダメになるので、ボロいものを着ている。


確かに、こんな奴が国と密だった商人の家を訪ねていいわけがない。



「王子」



俺は王子を前に出した。


王子はフードを取ると手の甲に刻まれた模様を見せた。



「私はこの国の王子だ」


「そして、私が近衛のサイアスだ。商人のグレフトン・ザブラサフに会いに来た」


「し、少々お待ちくだされ!」



急いで男が屋敷の中へと入っていくと、直ぐに戻ってきた。


会ってくれるそうだ。


当たり前か。王子が生きていたのだから。


俺達は間違いなくあの夜逃げ切った。


だが、死亡報告がどこからともなく流れ、酒場にも俺達の指名手配の紙は無くなっていったのだから。


建物に入ってしばらく待っていると、肥えた男が歩いてくる。


彼がグレフトン・ザブラサフだ。



「これはこれは……これはこれはよくお越しくださいました」



商人特有なのか、少し大げさに手を広げながら近づいてきた。


俺はそれを手で制して王子を紹介する。


手の甲をまじまじと見たザブラサフは俺を見た。



「よく、生きていましたね」


「ああ、もう一度、王子をこの国の王に、という思いでな」


「王子もお疲れでしょう。どうぞ、我が屋敷でお休み下さい」



王子が使用人に連れていかれて部屋を後にした。


着替えや体を拭いたりと身なりを整えるために色々あるのだろう。



「それで、なぜ突然国へもどってこられたのですかな?」



ザブラサフが少し嫌な笑みを浮かべている。


商人として金になるとでも思っているのだろう。



「ああ、この国を解放できる目処が立った」


「そうですか! どのようにして?」



傭兵を大量に呼び寄せていることを伝え、全ての傭兵を雇うつもりであることを伝える。


実際、黒い仕事を引き受けるような奴を中心に声をかけた。


金で動いてくれるやつらだ。


どれだけ集まるかは未知数だが、普通に傭兵をしている面々もかなりの数が集まると予想している。



「なるほどなるほど。わかりました。では私がその資金を全てもちましょう」


「ありがたい。元々頼む予定で来ていたのだ」


「あなたもお疲れでしょう。部屋は用意しておりますのでどうぞ、旅の、いや、色々な疲れを癒していってください」


「助かる」



使用人に案内された部屋に入り、10年も味わうことができなかった布の寝床に横になる。


これで、俺の悲願は達成されるのだ。


――――――。


夜。


カチャリ、という音が近くでして目が覚めた。


腕に金属の輪がはめられている。



「なんだ、これは」


「おや、お目覚めですか、さすがですね」



ザブラサフが立っている。


さらに見知らぬ男が二人、ザブラサフの脇に立っている。


眠くなる頭を振って体を起こす。



「何が起きている」


「まだ、わかりませんか?」


「は?」


「私ですよ」


「は?」



まだ頭がはっきりしない。



「私が、この国を他国へ売ったのですよ。兵力情報から王族の方の住まい。逃走経路まで。いや、高く売れましたよ」


「なにを、言っているんだ?」


「王子に逃げられたのは大変予想外でしたが、いやいや、私の手元に10年ぶりに戻ってきていただいて――」



視界が怒りで赤く染まった。



「べらべらよくしゃべる豚が!!」



枕元に置いていた愛剣のロングソードがない。


格闘術もそれなりにできる。


素手で豚に殴りかかった。


ザブラサフの両脇の男が割り込んでくる。


まずはコイツらからか!


炎弾!!


左手に炎弾を作り出して敵にぶつける。


……炎弾が、出ない!



「ぐっ! ……ぐあっ!」



両脇に滑り込んできた男に両足を短剣で深く刺される。


な、何が?


後ろに転がりながら距離を取る。


足をやられて手元に武器はない。


魔法も使えない。


なぜ、魔法がつかえない!



「はっはっはっ! 魔封じの腕輪ですよ。残念ですが、あなたはもう無力化しています。王子もいまごろ公開処刑されているでしょう」


「なんだと!!」


「見てくださいよ!」



俺は辺りが暗かったので夜だと錯覚したが、ザブラサフが窓にかけた布を取り払うとすでに日が上まで登っていた。


その布に遮音効果があったのか、外が騒がしいのに気付いた。



「い、いったいなにが――」



そこで見たのは、はりつけにされた王子。


そして、王子に石を投げる住民たちの姿があった。



「ば、ばかな!」


「住民たちの暮らしを見てください」



10年前より明らかにいい暮らしをしているのは着ているものを見ればわかる。



「誰一人として、あなた方を求めている人は、いないんですよ」


「う、嘘だ! そんなバカな! ならなんのために俺は……」


「知りませんよ。民の事を考えると私の方が正しかった、という事実以外にはありませんな」


「嘘だぁああ!!」


「うるさいですね。もういいでしょう。死になさい」



両脇の男に首を刺された俺は床に倒れた。


こんな、こんな男の方が正しかったのか?


今まで国を育ててくれた王を売るような男が?



「ごぼっ……恩を……仇で返すか……商人が!」


「はっはっはっ! 王族の皆様に恩など感じた事は一度もありませんね!」



視界が自らの血で赤く染まる。


ああ、この手で奴の首を絞め殺してやりたかった。


俺は、命を手放した。

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