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1000年の安寧は少しの転機で覆った

小さな国だった。


元々、資源もなく、土地も痩せ、世界の果てに存在した我が国は、兵力も他国に比べて圧倒的に少なかった。


ただ、だからこそ、他国に攻められることもなく、建国より1000年あまりの時を、生き残ることができだのだ。


だがそれも、我が国で発掘された……いや、発掘してしまった鉱石により、1000年以上の安寧あんねいを覆されたのだ。


それまでの国の営みは一変した。


鉱石の採掘により、それまではあまりの高価さゆえに一般市民では触れることさえできなかった金属が出回り始め、肉などは鳥や魚が中心であったのが獣類が増えることになり、国が豊かになり始める。


王都に在中する少ない兵士たちも木製の鎧や兜から金属性に変化していった。


何より変化したのは、魔法の有無である。


鉱石には魔法を覚えるための属性が宿る。


魔法には様々なものがあり、出土する鉱山によりそれらの効果は著しく変わった。


火や水、風といった3原素が基本であり大半の鉱石の割合を占める。


年月が経った鉱石ほど、土中の魔素を吸収して強大な力を秘める事が大きく、特殊な原素を宿すようになるのだ。


人間が鉱石より魔法を覚える事ができるのは一つの鉱石より一つだけ。


人間の頭より小さな鉱石からは魔法を覚える事ができないため、採掘職人は無駄がないように採掘する技術も存在した。


魔法の宿った鉱石はほんのりと光り、魔法を人間に宿した鉱石は光りを失い、ただの金属になってしまう。


この国より出土した鉱石に宿った原素は多岐に渡った。


1000年あまり採掘されず、多量の魔素を含んだことによるものなのだろう。


兵士たちも珍しい魔法を覚えて戦力が格段に上がった。


だが、国は滅んだ。


鉱石が出土したことを秘匿にする技術も、交渉できる程の外交術も、弱小だった我が国は持ち合わせてなどいなかったのだ。


友好関係にある国もなく、ただ、強大な国によく分からない理由をつけて攻め込まれて滅ぼされたのだ。


馬を走らせながら、隣を走る馬車を見る。


中にはこの国の王子が敵の攻撃に怯えて入っているのだろう。


王は死んだ。


その血族も、今いる王子を除いて亡きものになっただろう。


怒りでどうにかなりそうだった。


いくら特殊な魔法を操れるようになったといえど、これまでに操ったことがない力だ。


敵国との技術差は歴然としていた。


そもそもの人口差があり、兵士の数も第一陣の敵兵の数が既に我が国の兵士の数の2倍にもなっていた。


王は降伏を訴えていたが、聞き入れられるはずがなかった。


国として残す意味がなかったのだ。


反乱分子である王族はもちろん、俺のような魔法を覚えた兵士も一人残らず命を奪うつもりなのだろう。


馬の上で、背にしたロングソードを構える。



「敵だ!! 前方、30!! 扇形!」



魔法による索敵で敵が近づいてきている事を察知した俺は、王子の護衛に聞こえる声で叫ぶ。


こちらの数は王子を除いて12。


敵は手練れが30。絶望的だ。


俺の索敵でここまで逃げてこれたが、ここまでなのかもしれない。


扇形に散開した敵は、こちらを逃がさないための陣形だろう。



「反転!!」



違う場所から声が上がった。


ここには、軍師がいる。


剣や魔法での戦いには向かないが、機転が利くため王子脱出隊に編成された一人だ。


馬の足を止めると、今走ってきた道を戻る。



「ダメだ! さらに前方、50! 横陣!!」



そうだ、後ろから来ていたから俺達はあっちへ馬を走らせていたのだ。



「た、盾ぇえええ!!!」



馬車を挟んで反対側から叫び声が上がる。


見ると、青白い光が敵の矢を防いでいるところだった。


馬車だけを狙い、光る魔法で作られた矢が遠くから射出されている。


捕捉ほそくされたか!



「左方!!」



すぐさま左へ馬を向ける。


その時、馬車を操作している御者が操作を誤り、道の大きな窪みに車輪を落として大きく馬車が揺れる。


衝撃で車輪が破損し、馬車と繋がれた馬が地面に投げ出された。



「も、申し訳、ございません……」


「謝罪はいらん! 王子をすぐに出せ!」



御者が頭を地面に擦り付けながら王子が馬車から出てくるのを待っている。


そんな事をしている暇がどこにあるんだ!


俺は馬を降りると馬車に取り付けられた頑丈な扉を乱暴に開け放った。


味方が防いでくれているが、矢の精度が明らかに上がっている。


敵は近い。



「ど、どうした! なにがあったのだ!」


「王子、こちらへ」


「馬車はどうするのだ?」


「車輪が破損しました。馬車はもう使えないでしょう時間がありません。どうぞこちらへ」



自身の馬へ王子を乗せ、走らせる。


近くの兵へ目線だけ送った。


時間稼ぎを、してくれと。


俺の索敵魔法があれば、単騎なら抜けられるかもしれない。


俺は羽織っていたマントを外すと、王子の頭から被せた。



「な、なにを――」


「見ないほうが、よろしいかと」



馬は二人乗せたことで早く潰れるだろう。


本来なら今までの速度より遅く走らせるべきだが、そうもいかない状況だ。


どこをどう走らせたのか、俺は覚えていない。


ただ、馬がその体を地面へ横たえた時、俺の索敵にかかる敵兵はいなくなっていた。


逃げ切ったのだ。

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