自撮り勇者ウツル
異世界から、魔王を倒す為に召喚された勇者。
強く・優しく、どんな困難にも挫けない、人々の憧れと尊敬の的。
その筈なのだが……。
「すげえ! インスタ映えする!」
今回召喚された勇者ウツルは、おもむろにスマホを取り出した。
「いえ~い! モンスターと自撮り~!」
「勇者様?!」
襲い来るモンスターに背を向けてそんな事を言うウツルに、同行しているヒーラ姫は驚愕の声を上げた。
カシャッと言う音がした直後、ウツルはモンスターに殺された。
全滅した勇者一行は、勇者召喚を司るセーブロード神の力で教会に転移し、蘇生した。
勇者、及び一緒に戦う仲間は、セーブロード神の力によって、死が無かった事になるのだ。
「何を考えているのですか、勇者様!」
「い~じゃん。生き返るんだし」
反省する様子の無い返事に、ヒーラ姫の怒りが増す。
「そういう問題ではありません! 真面目に戦ってくださいませ!」
「へ~い」
ウツルは、いかにもやる気の無い返事を返した。
それから、彼等は何度も、ウツルのモンスターとの自撮りによる全滅を繰り返した。
「好い加減にしてください! 貴方は、私達仲間の命を何だと思っているのです!?」
「……そう言うの、カッコ悪くない?」
「格好悪くなどありません!」
ヒーラ姫は、ウツルの手の中にあるスマホとやらに手を伸ばした。
「これは没収です!」
ヒーラ姫はスマホを掴んで奪おうとしたが、スマホはウツルの手から離れない。
「どういう事ですの?!」
「姫。勇者様の装備は、勇者様にしか外せません」
「これも、装備品ですの?!」
驚くヒーラ姫を尻目に、ウツルは手の中のスマホを見た。
<ウツル専用神器。ウツルの魔力で動く>
「勇者様! 貴方が改めてくれないのでしたら、一緒に旅をするのは御免です! 独りでどうぞ!」
ヒーラ姫は従者を連れて、足音も荒く去って行った。
それから、数日。
ウツルは旅に出る事無く、王都でダラダラしていた。
宿の食堂でアプリゲームをしながら食事をしていると、ヒーラ姫がやって来た。
「勇者様! 何故、旅に出ないのです!? 今は理由は良いです! ××の街が襲われたそうですわ!」
「ふ~ん」
ウツルはスマホから目を離さず、気の無い返事を返した。
「早く、助けに行ってくださいませ!」
「今更、無駄だろう」
その返事を聞いたヒーラ姫は、ウツルの頬を平手で打った。
「最低ですわ! どうして、貴方の様な人が勇者なの!」
ウツルは打たれた所に手を当て回復魔法を使うと、立ち上がった。
「ウゼ~。……行けば良いんだろ。行けば!」
初めて怒りを露わにしたウツルは、そのまま王都を出て言った。
その数時間後。
王都は魔王軍の襲撃を受けていた。
無力な人々は瞬く間に数を減らし、助けを呼ぶ声は空しく響く。
それは、王族と言えど例外では無く、ヒーラ姫も今正に命を奪われようとしていた。
「どうして、こんな事に……」
嘆いたヒーラ姫は、最期にウツルを恨んだ。
勇者様が真面目に魔王軍の数を減らしていれば、こんな事にはならなかったのに、と。
『良いですか。ヒーラ』
かつて、母は娘に語った。
『神様は、この世界が脅威に曝された時、私達の求めに応じて勇者様を遣わせてくださるわ』
『じゃあ、安心ね!』
『でもね。勇者様に任せきりにしてはいけないの。それが、神様との契約だから』
『解りました。お母様』
王都が襲撃されている丁度その頃。
ウツルは、先程届いたばかりのメールに目を通していた。
それには、こう書かれている。
『魔王軍による王都襲撃確率:100%』
今頃王都は、阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。
だが、ウツルの知った事では無い。
襲撃確率のメールは、数日前から届いていた。
ずっと、50%前後だったが、それは、勇者が王都にいたからどうするか迷っていたのだろう。
しかし、ウツルが王都を出なくとも、遅かれ早かれ痺れを切らして襲って来たのではないだろうか?
だが、ウツルが王都に居れば、救えた命もあっただろう。
因みに、ウツルは勇者として召喚されたが、自分を勇者だと思った事は無いし・今後思う気も無い。
数日、王都から出なかったのは、勇者として王都を救う為では無く、向こうから来るなら楽で良いと思ったからだった。
勿論、その場合、助けられる人は助けただろう。魔王軍との戦いに支障が無い限りは。
ウツルの目の前に、大きな狼型モンスターが現れた。
ウツルが写真を取ると、モンスターは一時的に弱体化した。
神器の力だ。
「さて。××の街は、あっちか」
モンスターを一刀両断したウツルは、地図を確認して、王都に連絡が届いた時点で既に手遅れの街へと向かった。
モンスター弱体化は、写真を取ると魂が抜けると言う迷信から思い付きました。
普通の人は生き返りませんので、危険な自撮りはしないでください。