さようなら。そしてはじめまして
死にたくない……
死にたくない?
なぜ死にたくないの?
死ぬと一人ぼっちになるから……
じゃあみんなで死んだらあなたは安心して死ねる?
……ううん。
他に理由があるの?
どんな理由?
死ぬのは苦しくて痛いから……
じゃあその2つも感じなくしてあげる。
これでどう?
……やだよ。
まだ理由があるの?
……まだこの世界をいっぱい感じていたいよ。
じゃあもう一度この世界に生き返らせてあげるわ!
それじゃだめだよ。
何がだめなの?
この世界をもう一度感じていけるんだよ?
その僕は僕じゃないから。
僕は僕のままでこの世界を感じていたいんだ。
そうなの?でもあなたの体はぼろぼろじゃない。
そんな体は捨てて新しい体で自由にこの世界を堪能したほうがよくないかしら?
たとえぼろぼろで動かない役立たずな体でもこの体は僕の物だ。
親がくれた大切な僕だけの体なんだ。
わからないわ。
生まれ変わればまた新しい親ができ、きっとあなたは親からもらったその体をまた愛していくはずよ?
それではいけないの?
だめだよ。
どうして?
僕は、育ててくれた今までの記憶を忘れていたくないんだ。
……あなたは、またその記憶を手放したくないのね。
だから死にたくないのね。
じゃあ記憶は消去しましょう。
……え?
記憶が人々を縛り付けるなら記憶なんてものはないほうがいいでしょう?
そんなことは……
いいえ。
あなたを見ていればわかるわ。
人々の転生に記憶なんてものはいらない。
きれいさっぱり忘れて次の生を堪能して?
……いやだ!いやだ!いやだ!
どうして?
人々はみんなそういう。
悪い記憶は消してほしい、でもいい思い出だけは残しておいてくれと。
でもそれであなた達は何を得たの?何を学んだの?
……それは。
人々の成長には、痛みが必要。
どうして痛みがいるのかわかるかしら?
……どうして?
そうしなかったらあなた達はそれを回避しなかったからよ。
痛みがあるから【嫌な記憶が残るから】あなた達は、それを糧として学ぶの。
痛みが……糧?
そう。
あなた達はよく私に聞くわ。
どうして悪い記憶も残すのですか?
それは、危険を回避するためよ。
長生きしてもらうためよ。
じゃあ……嫌な記憶は必要だったのか?
ええ。
死んでほしくないから死に痛みを与えました。
学んでほしいから学習にも痛みを与えました。
体を大事にしてほしいから痛みを与えました。
じゃあ、快楽はいらないのか?
いいえ。
快楽こそが生きる意味です。
……どういうーー
生とは快楽です。
快楽を知るために生き物は、痛みを知るのです。
じゃあどうして苦しいことが多いのですか?
生きているとき、苦しいことの方が多かったじゃないですか?
生きるには、学ぶことこそが重要。
そして学ぶには痛みこそが重要なのです。
快楽で学ぶこともありましたよ?
快楽で学ぶことも確かにあります。
しかしそれは、生きるための学習ではありません。
さらなる快楽を得るための学習です。
……よくわかりません。
わからなくてよいのです。
あなたにこれ以上話しても無駄ですから。
……記憶をけしてしまうのですか?
ええ。
人々の記憶を残しておくことで人は死に対しても寛容になってくれると思いましたが、むしろ拒絶される方が多くなりさらには何も学ばずここに来る方も出る始末。
このままではあなた達をダメにしてしまう。
……それは……少し寂しいですね。
なぜ?
貴方に会えるのを楽しみにしていた人間も多くいましたから。
……そう。
私も寂しいわ。
でも、あなた達の成長につながるなら仕方がないの。
……最後に1ついいですか?
あなたの快楽は何だったんですか?
私の快楽は……
ここに来てくれるすべての者達のお話を聞くことよ。