私の存在とは
第9話 私の存在とは
彼にすべてのことを話した。
勝手に外で働こうとしたこと。そして面接を受けたどこの会社も身分証明が確認できないという理由で不採用だったこと。役所に行っても確認できないといわれたこと。その全部だ。
「俺さ…駄目だっていったよな」
静かに問う次郎。
「…ごめんなさい。でも次郎の負担を少しでも減らしたくて…」
「余計なことするなって言ってるだろ!」
びくっ
怒られるのは分かっていた。でも余計なことって…
「余計なことって…いつもいつも!私をお荷物みたいに!私だって次郎の助けになりたいのよ!なんで分かってくれないの!」
今までずっと言わないで我慢していたことが溢れ出た。
彼はいつも何かを一人で抱え込む癖がある。その負担の原因を妻である私にすら話してくれない。いつも大丈夫だの一言で済ませてしまう。
「私が頼りないから?信用できないから?だから何でも一人で抱え込んで!少しは私にも協力させてよ!」
久しぶりにこんなに怒りをあらわにした気がする。
「ごめん。別にお前を信用してないわけじゃないんだ。お荷物だなんて思ってない」
深刻な顏で私を見つめる次郎。
「体を心配していたからって理由で反対していたのは本当だ。でもさっきお前がいっていたようにお前には身分を証明するものがないんだ。それも理由の一つだった」
「身分を証明するものが…ない?」
「そう。お前には戸籍がないんだ。生まれてからずっと」
生まれてからずっと…?え…?
「こ…戸籍がないの?…えっ!でも結婚は?私たち役所で婚姻届を出したじゃない!」
「俺たちが出したのは時間外受付だった。後日、役所から受理されたってお前には話してたけど本当は確認できず、不備があるとして連絡がきた。だから受理されてない」
「な…なによそれ…」
裏切られた。何でそんな嘘を…。何で話してくれなかったの…
もう言葉もでない。放心状態だった。悔しくて涙がこぼれた。
「黙っていてごめん。嘘ついてごめん。でも国が俺とお前の関係を認めなくても俺はお前を俺の妻だって、そう思ってるから」
怒りがまた沸いてきた。
「そういう問題じゃないでしょ!!!いつもいつも私には大事なことを話してくれない!私のことバカにしているの!!?」
「違う!そんなこと思ってな」
「思ってるの!だからこんな酷いことできるのよ!」
もう彼が信じられなくなりそうだった。
「…何をいっても許してもらえないと思う。当然だ。本当にごめん」
それから、彼との関係はどんどん冷えていった。
戸籍がないなら今からでも作ればいい。そう思って両親の元に連絡を入れたのだが、なぜか連絡がつかなかった。実家にも行ったのだが、もう両親はその家に住んでおらず、別の知らない家族が住んでいた。
結局、戸籍を作ることはかなわなかった。
私は彼と事実婚の関係を続けることにした。
第9話です。
芽衣は戸籍がなかったんですね。
ここにきて彼と婚姻関係が法的にないという真実が明らかになりましたね。
そしてまだ記憶がもどらない芽衣…
いつになったら戻るのでしょうか…。
いつもお読みいただきありがとうございます。