日常
第3話 日常
「なぁ。結婚式したいか?」
私がキッチンで夕飯の支度をしているとき、急に彼がそう言ってきた。びっくりした。
結婚式は挙げないつもりなのだと私は思っていた。お金がかかるし、それに私には式に呼べる友達がいなかった。覚えてもいない友達に連絡をとることが、とてもこわかったからだ。
「急にどうしたの?」
「いや…前にテレビで結婚式を挙げるのは多くの女性の憧れであり、最大の夢だって言ってたから…。やっぱ芽衣もウエディングドレスとか着たいんじゃないかなぁと思ったからさ。」
確かに多くの女性にとって結婚式は特別なものだ。でも私は彼と夫婦としてずっとそばにいれるだけで、十分に幸せだと思っている。
「ありがとう。でもお金がたくさんかかったり、大変なことも多いし。私は大丈夫だよ」
「…俺が芽衣のウエディングドレス姿見たいっていっても?」
「!」
いきなりそんなことを言い出すから更にびっくりした。私のことをいつも気にかけている彼は、遠慮してなのか、普段あまり私に何かを頼むことをしないからだ。
「金のことは心配しなくていいよ。俺、ちゃんと貯金あるし。それに実は芽衣の両親からも芽衣の花嫁姿がみたいって言われててさ。だから挙げよう。」
自分の中では結婚式を完全に諦めていたはずだった。なのに彼の強い希望を聞き、私も式を挙げたい。そう思った。自分でもビックリするほどに。
「…ごめん。ほんとはちょっと結婚式いいなぁって思ってた。ありがとう次郎」
「良かった。でも本当、芽衣ってさ、何だか俺に遠慮してる感じあるよな」
「えっ?そんなこと…むしろいつも迷惑ばっかかけてて…」
「あのなぁ…俺は芽衣の旦那なんだぜ。迷惑でもなんでも俺が全部受け止めるから。
だから遠慮するなよ。な。」
「うん。ありがとう。…でもさ次郎だっていつも私に遠慮してるじゃない。私にだって少しくらい甘えてくれてもいいんだから…」
口を少しとがらせて意地悪く彼にいった。
そしたら彼もいたずらっぽい笑みを浮かべながら
「何?俺が最近、仕事忙しくて帰り遅いし、ラブラブできないからさみしがってるの?」
「!」
意地悪だ。でも実はちょっとさみしいなと思っていたときもあったので否定できない。
気持ちを見透かされたようで恥ずかしくて顔が熱くなる。
「だからもっと俺に甘えてほしいと。そういうことだろ?」
私の反応に満足気にニヤニヤしながら次郎が言った。
「もう。からかわないでよ!次郎。…その…全くさみしくなかったといえば嘘になるけど、別にそういった意味でもっと甘えてって言った訳じゃないんだから」
分かってるくせに…分かっていて私のことからかって面白がっているんだから…。
機嫌を損ねたような素振りで夕飯の準備を終える。
「もう、意地悪だから次郎の分の夕飯も、私が全部食べちゃうんだから!」
そう言いながら自分の席の近くに二人分の夕飯を並べる。
「ごめんごめん!からかいすぎた!分かった。もっと芽衣に頼るからさ!俺も」
慌てながら私に謝ってくる彼。
「しょうがないなぁ~。うん。許す!」
そういいながら、こんな風にふざけ合ったり、本音で話し合えるのが、嬉しくて楽しいなぁと、そう改めて感じた日だった。
第3話です。結婚式…いいですねぇ。憧れます(^^)
この話の芽衣と次郎のやり取り、作者自身、結構好きなんです。
皆さんにもほほえましいシーンだなぁ…と思っていただけたら嬉しいです。
いつもお読みいただきありがとうございます。