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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実
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灯蛾の記憶②

縄を解いて逃がしてやった時、油断している俺の懐深くに仲間の一人がナイフを差し込んだのだ。何が起きたか分からない俺はただ呆然と立ち尽くしているだけだった。


月影は俺の腹から大量に溢れ出る血液に気が動転してしまったようで、狂ったように、叫び始めた。

 彼女は血が嫌いなのだ。現にそのせいでなかなかランクが上がらなかった。


すると、気がおかしくなった彼女へ盗賊の一人が銃口を向けた。

彼女は自分に向けられた銃口を見て、さらに興奮し、盗賊に向けて突進していったのだ。


銃は発泡されたが、彼女には当たらず、もたもたしている盗賊の手から銃を奪おうとしたのか、彼女は震える手で銃を掴んだ。盗賊も銃を離すまいと踏ん張り、二人はしばらくもみ合いになった。

すると、俺の耳に劈くような爆音が響いた。


銃が発泡されたのだ。


音がした直後、月影の前にいた盗賊が崩れ落ちた。それは彼女が引き金を盗賊めがけて引いてしまったということを意味していた。


俺は腹部の痛みを忘れて、急いで月影の方へ向かった。

月影は自分が何をしたのか徐々に気づき始め、俺を見るなり泣き叫んだ。

俺は月影の小さな体を抱きしめ、何とか安心させようと努力した。しかし、彼女は自分が殺した人間の遺体を見るなり、血の気が引き、真っ青になった。彼女の目を両手で塞いだ俺はしきりに背中をさすって、彼女が正常に戻るのを待った。


涙が止まらなかった。もう、月影と一緒に居られなくなるのだと思うと胸が張り裂けそうだった。


「月影…大丈夫だ。俺が真雛様に頼んで…お前だけ特別にもう一度チャンスを、チャンスを…俺はSランク使

徒だぜ?真雛様だって分かって下さるはず…」


掠れた声しか出なかった。必死に涙を堪え、俺は彼女にそう言った。


「灯蛾、もう良いの。私のことは忘れて…」


「何言ってんだ!月影」


「ごめんなさ…」


月影の声を最後まで聞くことなく、銃声が周囲に響き渡った。彼女は自らの身に銃弾を打ち込んだのだ。


「月影っ!」


その後の記憶は定かではない。ただ、気がつくと俺は鴉ノ神社に向かって走っていた。休むことなく、俺

は走り続けた。


神社に着いた俺は息を切らせながら、真雛の元に辿り着くと土下座した。


「真雛様…どうか、どうか…月影をお助けください」


すると真雛は済ました顔でこう言った、


「月影の件ですが、残念です。しかし、我にはどうしようもできませぬ」


けど、俺は諦めなかった。


「何でもしますから、月影の魂を捨魂することだけは辞めて下さい…真雛様」


「灯蛾、お前は自分が何者だか知っていてそれを言うのですか?」


真雛は跪く俺の顔を覗き込んで問うた。


「分かっています。ですが今回だけは…彼女は事故で殺しただけなんです」


「殺人、自殺…二つの罪は二度と消えることはないでしょう」


「真雛様…どうか…」


結局、真雛様は俺の頼みを受け入れることはなかった。その後、月影の魂は真雛の手によって捨魂され、

彼女は二度と生まれ変わることが出来なくなった。


俺は月影の魂を消し去った真雛を恨み、その下で遣えることを辞めた。


月影のいない世界は味も素っ気も無かった。彼女の存在は俺にとってかけがえのない物だった…夜空に浮か

ぶ月のような存在。月影のいなくなった世界では、俺は何も見えない。人の心も分からない…相手の事情も

分からない…人を思いやる気持ちも分からない…人の命の大切も…俺は何もかも忘れてしまった。


まるで暗闇に閉じ込められたかのように。


良く分からないまま、世界を彷徨って、気が付くと人を殺してしまっていた。別に恨みがあった訳ではな

いが、喧嘩を吹っ掛けられて…むしゃくしゃしていたから殺した。


その後も、むしゃくしゃする度に人を殺した。いつしかそれが俺にとっての生きがいとなってしまってい

た。


しかし、年をとる度に怖くなった。自分が死んだら魂は真雛によって消されるのだと思うと身震いがし

た。月影と同じ運命を辿るのだと思えば、納得出来たが、消された魂は何処へ行く訳でも無く「無」に

なってしまうことを良く知っている俺は、せめて月影との思い出だけでも残そうと思い、この世に留まる

ことを決心した。


それから数年後だった。琥珀が暴走して真雛を刺したのは…


俺はこの上ないチャンスだと思い、弱っている真雛に近づいて彼女の能力を半分頂いた。そして、真雛を

封印することによって俺は延命した。真雛から奪った能力によって、俺の記憶は永遠と持続された。


上辺だけの仲間を作って、人を殺して…


いつしか、自分を見失っていた。


俺は完全に殺戮兵器となったのだろうか…


人間の苦しむ表情が好みとなってしまったのだろうか…


「悪」に染まったのだろうか…


こんな今でも時々、月影の笑顔を思い出す。


そうだ。俺が一番好きなのは…


人間の苦しむ顔ではなく、


月影の笑顔だった。


人を殺すことなんかじゃない…


彼女の眩く光るあの笑顔だったんだ。


それなのに俺は…人間の心を忘れてしまった。


バケモノになってしまった…


馬鹿だな…俺。


今更あいつに合わせる顔が無いや…


せめて人間で死にたかったな…


アクマになったオレは、トッテモミニクイナ…


ミニクイヨナ…ツキカゲ…


ゴメンナ…


※        ※


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