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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【伍章】光に向かう蛾と闇に向かう真実
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消えない罪

季節は春の初め、空は晴天である。家の畑に被っていた雪も溶け始め、茶色い土が顔を覗かしていた。

大きく深呼吸をした少年は、畑の隅にある大きな石の上に腰を下ろした。すると、少年の目に一匹の雀が映った。雀は地面にうつ伏せになったまま体を動かそうとしない…

少年はその雀の様子がおかしいことに気がつき、近づく…

雀の羽は外側に折れ曲がり、骨が外に見えていた。薄茶色い羽毛には赤い汁が滲んでいる。


「可哀想に。イタチか何かにヤられたのか?」


少年は両手で優しく雀を持ち上げ、そのまま家に持ち帰った。


―数ヶ月後


少年の手当により、雀の羽は治り、もう空を飛べるようになっていた。羽が元に戻った雀は嬉しそうに空を飛び回っている。


畑の近くに腰掛けている少年の肩に留まった雀は、嬉しそうに頬を少年の頬にすり寄せた。


「もうすっかり怪我も治ったね」


雀は元気よく鳴いて、少年の会話に応答する。


すると、少年は持っていた手提げの中から、一つのおにぎりを取り出して、少しちぎると、雀に与えた。


「君もお腹がすいただろう?ほらお食べ。僕が作ったんだ」


少年が与えたおにぎりは塩むすびだった。口いっぱいに広がる塩と米の味を雀は堪能した。


それからも、雀は少年と生活を共にした。羽は完全に治り、もう独り立ちできる状態であったが、雀は少

年のもとから離れようとはしなかった。


 少年も、自分に懐いている雀を家族のように大切に育てた。


雀は少年の純粋な瞳が大好きであった。


―時は流れ


少年の住む平和な村に、ある日危機が迫った。


長年付き合っていた村同士で諍いができ、やがて戦争に発展し、この村が相手側の支配下にされてしまっ

たのだ。


戦争に出陣した父親は戦死し、少年は母親と2つ違いの姉と密かに暮らしていた。


しかし戦争によって食糧難が続き、母親は体調を崩した。


雀は日々追い込まれていく少年をただ見守ることしか出来なかった。


そんなある日、突然家に兵隊が入って来た。


母親は頭を下げて命乞いをするが、聞き入れてはもらえず、一瞬にして脳天を銃で貫かれた。血だらけで

倒れこむ母親を見て姉は泣き叫ぶ。少年は恐怖で怯え、雀を抱き寄せた。兵隊はゆっくりと少年と姉へ近

づく…


「こ汚い餓鬼が…このボロい家がお前らの墓にぴったりだな」


少年は、兵士を睨みつける。


「この家は父さんが作ってくれた家なんだ!」


普段は大人しい少年は今までにない程の強面口調でそう叫んだ。しかし、兵隊の一人が姉の首元を掴み、

銃口を頬に突き付けた。姉の顔から血の気が引いていく。


「まずはこの女から殺すか、それとも半殺しにして売りさばくか」


そう言って兵隊達はけらけらと笑い始めた。少年はそんな兵隊達を睨みつけた。


姉の頬に向けられた銃のコッキング音が耳に響いた瞬間、姉の『助けて』という声を聴いた少年は咄嗟に

横に立てかけてあった猟銃に手を伸ばした。


 雀はその動作を見て絶望した。


「お前ら全員殺してやる…」


その声と同時に、猟銃の引き金が引かれ、周囲に爆音が走った。


兵士はその凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、床に倒れ込んだ。


少年の瞳には母親の流した血、兵士の体から溢れ出す血が写っていた。


雀は透明な一筋の涙をこぼし、静かに少年の家を後にした。


もうそこには雀の大好きだった少年の瞳は存在しなく、ただ人間の血を映す愚か者の瞳しかなかった。

(/・ω・)/

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