忍び寄る影
北門に着いた蒼たちは、門を塞ぐ様に立って灯蛾の到来を待ち構える。
蒼は改めてAランク使徒の顔を見回す。まだ会ってからお互い一週間程度しか経っていない為、名前と顔が一致しない…
「あの…」
後ろから声がしたので、振り向くと、そこには小さい体の少女が立っていた。瞳の色は綺麗なブルー。金
色の髪の毛は長くて軽くカールが掛かっていた。何処からどう見ても西洋人であることは一目で分かっ
た。
「君は…」
名前を思い出そうとするが、全く思い出せない蒼は困惑しながら苦笑いを浮かべる。
「サリーと申します」
「サリーさん…」
初めの日に真雛が一人ずつ紹介していっただけなので、サリーと聞いてもピンと来ない蒼。
「私…役に立てないかもしれないので、囮になります…」
少女が何を言ったのか良く分からなかった蒼は首を傾げる。
「囮になるので、灯蛾が来たら私が初めに向かって行きます。そして私が襲われている時に…」
「何言ってんだよ。囮なんかにならなくても…」
「いいんです。その方が絶対に効率が良いと思うので」
小さな少女の眼差しは誰よりも強く、蒼の目を捉えていた。
「でも…」
「良いんじゃない?彼女がそう言っているんだから…」
そう言って蒼の前に現れたのは先程のオカマであった。一切、動揺ぜずにきっぱりと言い放つオカマに対
して蒼は少々腹が立って、
「囮なんていりませんっ!皆で戦いましょう」
ムキになって言ったせいか声が少々裏返った。
「でも、戦いに犠牲は付き物でしょ?」
「じゃあ、俺が先に行きます」
震えながらそう言う蒼にオカマは言い放った。
「辞めときなさい。あんたは一応Sランクなんだから先に亡くなられたら困るでしょ」
それは弱い者から亡くなれと、そう言っているように聞こえた。
「……、」
もう返すのもバカバカしくなった蒼は、黙って門の外を眺めていた。
―絶対誰ひとりとして亡くさない…
蒼はそう誓った。
1時間経っても未だ灯蛾の気配がしない。もしかしたら他の門に襲撃している可能性がある…
そう考えている蒼の裾を誰かが引っ張った。
「……、」
下を向くとサリーが俯きながら、ぐいっと裾を引っ張っていた。
「大丈夫?」
心配気にそう聞くと、俯いたまま少女は首を縦に振った。
「うん…ちょっと怖いけど」
小さく震えている少女の手を握った蒼は笑顔で、
「誰も死なない。死なせないよ」
少女は涙目で蒼を見上げると、笑顔になった。
先程まで吹いていた風がピタリと止んだ。舞い落ちている木の葉が少なくなった時、目の前に黒い影が
映った。
「何か来たみたいだっ!」
周囲の使徒達が変化に気がつき、慌て始めると蒼は刀を素早く引き抜いた。
鼓動が速くなっていくのが分かる。
すると門の外に人影が現れた。それは全長200m程の大男だった。黒いフードで顔は見えなかった
が、日本人ではないであろう…
「じゃあ、私行きますね」
走っていく少女の背中を見た蒼は、しまったと、その後を急いで追う。
「待て!」
走り出そうとした時、腕を強く掴まれ、前に出て行くことが出来なかった。
「離せ!オカマ!」
蒼の腕を掴んだのは例のオカマであった。オカマは一瞬不快な顔をすると澄ました声でこう言った。
「まぁ、見てなさい」
小さい体からは想像できぬ程の速さで走った少女は武器である槍を構えながら大男に突進していく。
大男は少女に向けて、持っていた銃を向ける…
カチ、と銃のセットされた音が聞こえると、蒼は強く目を閉じた。
目を閉じた途端、銃声が周囲に響いた。久しく聞いていなかった銃声に蒼は反応して目を見開いた。
(/・ω・)/