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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【肆章】造られた殺意
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不幸中の幸い

意識が飛ぶ寸前、灯蛾の手からいきなり力が抜けた。

何事かと、目を開ける蒼。すると、灯蛾の顔から先程までの笑みが消えていて、何故か苦しそうな顔をしている。

 灯蛾は蒼の首から手を引くと、腹をマントごしに押さえた。地面に少量の血液が垂れ始めていた。


「死にはしねぇよ。この手袋のせいでな」


そう言って灯蛾の後ろから姿を現したのは伊吹だった。シャンデリアの下敷きになっていた伊吹…蒼は嬉し

さと驚きでごちゃごちゃになった顔で伊吹に駆け寄る。


「生きていたんだね…もうダメかと思った」


「勝手に俺を殺すな」


伊吹は冗談じゃねぇぞと、蒼の肩を軽く叩いた。


しかし、伊吹の髪をよく見ると…実験に失敗した博士の髪型そのものになっていた。


一体、彼に何があったのかは分からないが、蒼はその髪型を見るなり、吹き出してしまた。さっき斬られ

た右足の痛みも一瞬どっかに飛んでしまうくらいだ。


「ぷっ…はははははっ」


腹を抑えながら、人差し指を伊吹の頭に向けている蒼を見た伊吹は首を傾げながら、ゆっくり手を頭部に

持っていく。


「……嘘だろ…なんだよこれ…チリチリじゃねぇか」


「残念ながら色も…」


伊吹の髪の色は緑掛かった銀髪であったはずが、今では金たわしそのもの…黒がかった銀髪となってしまっ

ている。服もボロボロである。よくこれで命が助かったな…この男は不死身人間なのか?と、蒼は本気で考

え始める。


「お前、それでよく生きていたな…」


すると、伊吹ははめている手袋を前に突き出して来た。


「どうやら、落下してきたシャンデリアにこの手袋が触れたらしいな」


成程、その手袋をした手で触れたモノで人が殺せないということは自分も殺せないということか…伊吹の不

死身疑惑がそこで解決した。


すると、伊吹はチリチリの体を見ながら、


「いや、それとも…この強力な電流のショックによって、心臓が復活したのかも」


彼の言う通り、伊吹はどう見ても雷を落とされた後のようになっている。何があったか知らないが、蒼は

伊吹の幸運度を賞賛する。


「お前ほど運の良い奴、初めてだよ」


「それより、身の安全を考えた方が良いんじゃないかな?」


ふと後ろから灯蛾の声が聞こえたので、二人は慌てて向きを変えて構える。


灯蛾は空を仰ぐように見上げると、


「残念だな、太陽が登ってきてしまったようだ…」


そう言うと、灯蛾は一瞬で蒼の目の前に移動してきて、耳元でこう囁いた。


「新月の夜、真雛とお前を殺しに行く…それまで待っていろ」


「……ちょ…」


蒼は慌てて灯蛾を掴もうと手を伸ばすが、手が触れる前に彼の姿は消えてしまっていた。


ほんの少し、顔を出し始めた太陽に照らされた二人は、茫然と立ち尽くす。空に瞬く星は薄くなり、明る

くなっていく空とは裏腹に嫌な予感が頭を駆け巡る。


「さっき、あいつなんて言った?」


無表情で立ち尽くす蒼の肩を揺さぶりながら聞いてくる伊吹に、彼は小さく言った。


「新月の夜に、また奴が来る…」


蒼の言葉に眉を顰めた伊吹の肌は段々蒼白していく…


「新月って、あと半月もねぇぞ」


今、満月にほぼ近いくらい丸い月が空に浮かんでいる。ということは、新月になるまで約半月といったと

ころだ。


「でも、奴は来る。真雛様と俺たちを殺しに」


「そうはさせねぇよ」


右の拳を強く握り締めると、伊吹は歯を食いしばった。


「そう言えば、柏木はどうした?」


伊吹の言葉で、柏木が居ないことに気がついた蒼は、辺りを見回す。


「柏木…確か…灯蛾の仲間と戦って…」


柏木?もしかして…と蒼は心配になり、走り出す。しかし、傷を負った右足に痛みが走り前のめりになって

しまった。しかし、歯を食いしばって片足で掛けていく。その後に続いて伊吹も走り出す。


「柏木!」


もはや廃虚のようになった店内の床に倒れている柏木を見つけた蒼は急いで柏木のもとへ駆け寄る。肩を

起こして、揺さぶっても目覚める様子がない。一方、ジャノメの方は既に何処かへ消え去っていた。


「大丈夫か?おい、柏木っ!」


すると、閉じている彼女の目蓋の奥で眼球が動いた。その後、ゆっくり目を開けた柏木は蒼を一瞥すると

涙を流しながら叫んだ。


「死んじゃった!」


え、誰が?と蒼は伊吹と顔を合わせる。隣に伊吹がいることに気がついた柏木は、わなわな震えだした。


「な…なっ…なんで…ゆ、ゆ、ゆ、ゆうれい…」


ガクガクで言葉にもなっていない声を出しながら柏木は後ずさる。


「だから、俺を勝手に殺すなってんの!」


伊吹の声を聞いた柏木は目を細めて、今度はじりじりと近づいていった。


「生きていたの?本当に…」


柏木は大きな目を見開いて、伊吹を見る。二人の距離わずか数ミリ…


「近いっ!」


伊吹は柏木から慌てて離れると、頭を掻きはじめた。


「あ、ごめんごめん。偽物か本物か見分けようと思ってさ」


「偽物?はぁ?」


呆れ声でそう言った伊吹は、その場に腰を下ろした。


柏木はそれからずっと鼻を啜っていた。


(/・ω・)/

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