稲妻と血
(ダメだ、体が動かないや)
失われていく意識の中で、伊吹は蒼と柏木を見る。
(痛みも感じないや)
ここで終わるのか…
次に目覚めるときは何年後なんだろうか…
二人に会えるのか…
伊吹の目は小刻みに泳ぐ。
しかし、直に動きは小さくなり、一点を見据え停止した。
※ ※
「ちょっとお姉さん?私がお相手するわ」
短く金色に輝く髪を持つジャノメは柏木の肩に手を置く。
「どきなさいよ」
そう言って、肩から手を振り払う柏木。
ジャノメはにやりと笑を浮かべ、コートの裏に隠されたポケットから棒状の武器を取り出した。
「ふふふ、何分持つかしらね」
その瞬間、持っていた武器が変形し、五本の放射状になり、表面に静電気のようなものが帯び始めた。
「それは」
ジャノメが持っていた武器は『ブーメラン』変形が自由自在に出来るそれは、コンパクトに持ち運べ、相手にばれずに持ち込める。さらに、変形するだけでなく、全て銀でできたこのブーメランは、電気を通し
やすく、中心部にある核から発生する電気によって常に帯電している状態となっている。
「ブーメランよ。あ!気をつけてね。この子帯電しているから、当たったら相当ヤバイよ」
口元を歪めさせながら不気味に笑うジャノメ…
「なんなのよっ」
先手を奪い、柏木はジャノメの顔に向けて鎖を振り回した。しかし、自分の顔を隠すように持ってきた
ブーメランによって、阻止されてしまった。
「うっ」
鎖に当たったブーメランから伝わってきた僅かな電気が柏木の手に流れ込み、顔をしかめる。
幸い、彼女の持つ鎖はチタン製のため、電気伝導性は極めて低いからそこまでの衝撃は伝わってこなかっ
た。仮に、銀製や鉄製だったりしたら完璧にアウトだった。
「ふん、面白いじゃない。でもこれはどうかしら」
ジャノメの手からブーメランが消えた。柏木は慌てて周囲を見渡す。
しかし、なかなかブーメランが見当たらない…
とその時、走りながら逃げる柏木の後方から僅かに風を切る音がした。その瞬間、彼女はハイジャンプを
してブーメランを避ける。
その直後、床に深く突き刺さったブーメランは、その場で止まった。
「手間がかかる娘ね。でも楽しいかも」
さらに懐から2本のブーメランを取り出したジャノメは、瞬時に武器を変形させた。今度は先ほどよりも
長く、八本の放射状に伸びた羽は鋭く尖っている。
「腸からえぐって黒焦げにしてあげるわ」
「あの女ヤバ…」
柏木は身の危険を改めて感じ、鎖を構える。
「行くわよっ!」
ご丁寧に発動の合図を言ったジャノメの手から、ブーメランが順次に消えた。まず右手から消え、その三
秒後に左手のブーメランが消え去った。
天井の壁を突き破って一旦外に出たブーメランはいつ戻ってくるか予想がつかない…
「なんなのよ」
柏木は天井を見つめながら後ずさる。
「見えないでしょ?さぁ…いつ戻ってくるのかしらねぇ…」
柏木はジャノメを見る。今の彼女はブーメランを持っていない。つまり手ぶらだ。
「その前に、あんたを捕まえる」
足に力を入れて、全力で走る。もうイチかバチかに賭けるしか手段がない。武器を持っていない『今』な
らもしかしたら…
ジャノメはそんな柏木の考えを読んだらしく、再び懐に手を入れ始めた。
「そうはさせないわ」
武器を取り出す前に、彼女の腕を掴んだ柏木は掴んだ指に思いっきり力を入れてひねり上げた。
「ぬぁっ!」
ひねり上げられた腕から走る激痛に思わずジャノメは悲鳴を上げる。
「もう終わりにしましょう」
柏木は持っていた鎖をジャノメに向けて放つ。至近距離から放たれた鎖は当然のように彼女の体を捉え、
グルグルに巻き付き、見事に捕獲した。
しかし、鎖に捕まえられたジャノメは動揺せずに、余裕がある表情をしている。
「何かお忘れでは?」
「え…」
その直後、柏木の背後で僅かな音が聞こえた。慌てて横へ滑り込む柏木…
「ああああっ!」
何とか直撃は防げた柏木であったが、肩に僅かにブーメランの刃がかすめた。しかし、ただのブーメラン
ではなく帯電しているその刃は柏木の体に電流を放つ。
「きゃはははは。バカな女ね。その子は私の思い通りに動くのよぉ?例えば…」
鎖に自由を奪われているままのジャノメは鎖の中で指を動かし、何やら呪文を唱え始めた。すると、天井
が砕け散る音がし、空中をものすごい勢いで駆け抜ける物体が見え、ジャノメがいる場所にそれはぶつ
かった。
その直後に体に巻き着いていた鎖が解け、床に音を立てて崩れ落ちてしまった。
「こんなふうに」
「嘘でしょ…」
電流にやられた肩を抑えながら、柏木は目を丸くする。
「あとね…」
床に落ちているブーメランを拾ったジャノメは、再び構える。
「ちょと、何する気…」
ジャノメが構えた先にあるのは、シャンデリアの塊。勿論、その下には伊吹がいるはずだ。
「とどめを刺さなくちゃね、もう死んでいるかもだけど」
そう言うと体を反らせて、ブーメランを放つ。
「だめ…」
「もう遅いわ」
低空飛行をし始めたブーメランは周囲の机や椅子の残骸を切り刻みながら直進する。
まるで、光線のように…
あっという間に、シャンデリアに辿りついたブーメランは膨大な電気を放ちながら突っ込む。
光が放たれた。シャンデリアの金属に流れ込む電流…
「これであなたのお仲間も丸焦げね」
柏木の目から一筋の涙がこぼれた。
「あんた…さ…」
「なによ、怖い顔しちゃって、まるで殺人鬼みたいよ?あなたも素質あるかもね」
顔を上げた柏木は、床に転がる鎖を持ち、それをまるでムチのように振り回しながらジャノメに向かって
突進した。
「ちょ…なんなの?」
「せいっ」
振り回された鎖はものすごい速さでジャノメを襲う。
「ちょっ…」
(なんなのこの速さ…これじゃあ武器が出せない…)
ジャノメは目にも止まらぬ速さで襲いかかってくる鎖を交わしながら、だんだん不安になっていく…
「当たれ、当たれ、当たれ」
何かに取り憑かれえたように鎖を打ち付ける柏木の目はとても人間とは思えなく、獣そのものであった。
ジャノメの息が上がる…とうとう交わしきれなくなった彼女の体に強く鎖は打ち付けられた。
「痛っ」
「まだまだ…」
その一発を引き金にして、柏木は次々に鎖を打ち付ける。
「まだまだ、足りない…」
「……、」
しばらく鎖を打ち付けていた柏木はジャノメの意識が無くなっていることに気がつくと、ようやくその手
を止めた。
ジャノメの黒いコートは引きちぎれ、顕になった皮膚には赤黒い痣ができていた。
「はっ…はっ…はっ…」
柏木はふらつきながら、その場を後にする。
しかし、2メートルも歩かない内に膝からガクリと崩れ落ちてしまった。そのまま意識を失った彼女はそ
の場に倒れ込んだ。
(/・ω・)/




