後悔
「なぁ、町田…俺、あの時、本当は刺していないんだ」
淡々と語りだす丸山を町田は驚きながら見つめる。
「おい、それどういうことだよ」
「あの時、藤崎は俺の手を使って自殺したんだ」
町田は目を見開いたまま硬直する。
「………、」
「今まで信じてもらいないと思って話さなかった…」
話しても信じてくれないだろう。けれど、もしかしたら俺を信じてくれるかもしれない。
丸山は最後の掛けに挑んだ。ここで信じてもらえれば、町田を殺さずに済む。
「どうして今頃になって…」
丸山は町田を見据えて言った。
「今日、お前は俺の罪を訴えるんだろう?」
何がなんだかさっぱり分からない町田はキョトンとしている。
「…はぁ?」
「だから俺のこと訴えるんだろ?」
丸山がそう言っても町田は理解していない様子で、
「何の話だ?俺がお前を訴える?助けてもらったのに?しかも今ごろ?」
嘘一つ見えない瞳で町田は話した。丸山はただ頭の中が真っ白だった。
―もしかして…俺は騙されたのか?
その時、店のドアが乱暴に開けられ、中へ二人の人影が押し入って来た。店内の客や店員が叫び出す。
まさかの事態に困惑する丸山と町田は慌てて席を立って隅へ逃げ込む。
「殺されたくなけりゃ、さっさと失せな」
ドスの聞いた女の声が店全体に響き渡る。二人の顔は黒いフードのせいで見えなかったが、丸山はそれが
昨日の男とあの女であると直ぐに分かった。
一斉に客たちが逃げていく中、丸山は動けずにいた。町田は急いで彼の腕を引っ張って逃げようとする
が、丸山はビクともしない。
―もう逃げられない。町田が殺される…
確か、店から出た後に合流して町田を殺る予定だったはずだ。いきなり店の中に入って来るとはどうい
うことだ。丸山は眉間に皺を寄せる。それに、町田は丸山のことを訴える気など無かった…
「ちょっと、待て!」
慌てて丸山は女に駆け寄り、肩を掴んだ。
「何よ、あんた?ビビってんの?」
蛇のような目つきで丸山を睨みつけた女は銃口を町田に向ける。
「俺を騙したんだろ!」
女は鼻で軽く笑い、
「はぁ~何言ってんのかしらぁ?灯蛾様?こいつ、もう使えませんよぉ?」
すると、灯蛾は腰から下げていた剣を引き抜き、丸山に近づいて来た。
殺される…と丸山は固く目を閉ざす。
「さっさと、これで町田を殺せ…」
男は丸山を殺すことなく、握っていた剣を無理やり丸山に握らせた。
「無理だ」
「どうしてだ。町田はとぼけているだけだぞ?お前を裏切ったんだ」
町田の方を見ると、彼は自分に向けられた銃と剣にただ恐れおののいていた。
「いや…そんなはずは無い…」
「お前に何が分かるんだ…」
「俺はあいつの性格くらい知っている。そんなことをする奴じゃない」
ふん、と灯蛾は呆れ、丸山の手から剣を取り戻すと、
「じゃあ、お前に用は無い。二人とも殺すまでだ」
慌てて灯蛾から離れ逃げようとする丸山の腕を女が掴んだ。
「逃がさないわよ」
「やめろ!」
店内に響く他人の声。丸山は声のする方向に目を向ける。
そこには、三人の人間が立っていた。恐らくそれは十代後半くらいの男女だと思われた。
「ちっ…邪魔が入ったか、真雛の手下、ハイエナ共が」
舌打ちした灯蛾と女は丸山を突き飛ばし、戦う体制をとった。
壁に頭を強く打ち付けた丸山はそのまま気絶する。
「わざわざ死に来たのかね?」
灯蛾は右手で剣をしっかりと握り、三人に向けた。研ぎ澄まされた刃は天井に吊るされたシャンデリア
の光を集めて美しく輝いている。
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