喫茶店にて
三時間後
近くの喫茶店に入りながら、時間を潰していた三人はとうとう限界に達していた。
「俺ら、そろそろ店出なくちゃヤバくね?」
三時間も同じ店に居座っている三人を先程から迷惑そうにチラチラと眺める店員。さすがにドリンクバー
を頼んだが、客の数が多くなってきた今、四人掛けの席を占領している蒼たちに向けられる視線は痛い…
「しょうがないでしょう?ここしかあの会社が見られる場所はないんだから」
柏木の言う通り、他に行く店がない。うっかりしていると、会社から出てきた丸山を見逃してしまうかも
しれないのだ。ここまで来て見逃す訳にはいかない。
「なぁ…蒼?お前はどう思う?」
突然伊吹に話を振られた蒼は、ビックとして、飲んでいたコーラを器官に入れてしまった。急遽訪れる咳
の連鎖攻撃…
「グッ、ゲハッ!ハァハァ…俺は…別に、どっちでも…ゲホッ!」
正直、居られるもんならここにずっと居たかった。外は暑いし、立ってるなんて論外だ。それに比べてこ
こだったら、冷房完備で、椅子はあるし…
と、迫り来る咳の波に身を構えていた蒼の視線の先に、とんでもないものが見えてきた。
―あいつは…
目を凝らして良く見る。ガラス張りの壁の先に見える男…黒いフードを身につけてはいたが、顔がうっすら
と見えたのだ。少し伸びたこげ茶のクセ毛…メガネは外しているが、見覚えのある輪郭と細めの黒い瞳…
間違いなく拝島だった。二ヶ月以上も姿を現さなかった拝島が何故今頃…
「拝島っ!」
大声で叫んだ蒼は、まっしぐらに店の外へ駆け出す。蒼の声に気がついた拝島は、こちらを見るなり、慌
てて逃げ去ろうとする。
突然の事態に、慌てふためく伊吹と柏木は蒼の後を追う。
と、その時。
店員が柏木の細い腕をがっしりと掴んだ。
「え…」
屈強な体型で、今にも従業服がはち切れそうなその女は、低い声で言う。
「四千九百円…」
代金の事をすっかり忘れていた柏木は、にっこりと微笑むと、
「ごめんなさい!この人に聞いて下さい!」
そう言って、伊吹を差し出し、蒼の後を追いかけて行く…
今までに無いほど、超高速で走っていく柏木を伊吹は感心しながら眺めていた。
「あいつ、あんなに足速かったっけ…」
(/・ω・)/




