月に照らされない者達
「ねえ、灯蛾様?あの男、全部信じているようね。私たちが『白豹組』だって」
丸山が帰った後、女と灯蛾は煙草を吹かしながら話していた。二人の年齢は共に十七。未成年喫煙である。
「ふん、まあな。明日が楽しみだな…さて、どう動くか…」
灯蛾の口元から白い煙が漏れる。女はもう一本の煙草に火を付ける。
「まぁ、あの様子じゃあ明日に自殺かしら…それとも、自首…」
その時、灯蛾の目が女を睨みつけた。
「そうはさせない。自首はしないはずだ。あいつは自分が殺人者になることを恐れている。いや、世間に
バレるを強く嫌っているのだ」
「ふうん、既に家族構成とか調べ済みってことね」
「当たり前だ。あいつは幼い頃から警察官である両親の下で育ってきたんだ。嫌という程、正義とやらを
見せつけさせられ、嫌という程、殺人者が歩む道のりを知っている」
「確か、この国の法律だと、殺人は一人でも死刑だったかしら…」
「いや、二人で死刑だ。だが、一人でも禁固五十年以上だ。法律は昔と比べて随分と変わった。今や、刑
務所の面積は計り知れない。噂だと、地下の殆んどは務所らしい」
「あらま…」
「だから、務所内での殺人や自殺も耐えないらしい。どうせ出られないのなら死んでやるって考えだ」
「じゃああの男は、明日自殺するか、町田を殺すしか考えられないってことね」
灰皿に吸殻を擦りつけた灯蛾は澄ました声で言う。
「そうだ」
暴力団『白豹組』―一年前までは確かに多大なる勢力だった。しかし、一年前、灯蛾の率いるヘレティック
の力によって、あっさり白豹組は負けた。当時、団長であった白豹は、今やこの倉庫の外にある庭の下、
約五メートルの深さに眠って居る。
灯蛾は自分が欲しい地位を難なく手に入れることが出来るのだ。
その後、倉庫のドアがノックされ、一人、中に入ってきた。それは拝島であった。
「拝島、今日の任務は順調か」
「はい、一人の女性が自身の友達を殺害しました」
「よろしい、そうやってお前は動機づくりに励め、場合によってはお前が殺しを直接的に手伝ってもいい
んだぞ、間接ばかりだと飽きるだろう」
「いえ…それは…」
「ふん、まあ良い、それよりその黒い袋は何だ?」
灯蛾は拝島が両手で抱える黒い袋を指差した。
「灯蛾様。遂に捕らえました」
そう言うと、拝島は袋の中から白い物体を取り出した。
その物体を見た灯蛾と女は目を丸くした。
白くて、大きな一匹の鳥。いや、これは鴉だろうか。まだ息はあるようで、薄らと瞳が開かれている。
「お前…これは…白羽じゃないか!」
「きゃ!白羽だわ!美味しそう!今晩の夜食にしましょうよ!ね、灯蛾様?」
「この鳥さえ、捕獲しておけば、浄罪師の勢力も半分になったようなものですよ」
はしゃぐ女と自慢げに話す拝島を無視して、灯蛾は白羽を奪うと、
「この鴉は、俺が保管しておく、それと、ジャノメ…この鳥は食ってはダメだ」
ジャノメと呼ばれた女は、不満そうな顔で灯蛾を見つめる。
「これは、貴重で危険な存在だ。殺したところで生まれ変わってまたこの世に帰ってくる。この鴉は死な
ないんだよ」
「そうだったわね、今までの私たちと同じ」
「こいつは生かしておかなければ意味が無い。勿論自殺なんて出来ないだろうから、俺たちが危害を加え
なければ良い話だ…それと…」
灯蛾はその紅い瞳を見開く。
「今までじゃなくて、これから先も永遠に生きていくんだ」
「あら、灯蛾様。そろそろ本気だすのかしら」
「手下の鴉が一匹手に入ったからな、こいつを利用して真雛を外へ誘き寄せる…それと…」
「それと…?」
首を傾げて見つめてくるジャノメと、大人しく起立している拝島に向けて灯蛾は言い放った。
「あの鞍月蒼とかいう使徒…あいつが例の孤白に違いない…」
ジャノメは『孤白』という名前を耳にした途端、思わず身を乗り出す。拝島は特に驚いた様子はなく、目
を細めただけだった。表情には出ないが、拝島も相当衝撃を受けているに違いない。
「何ですって?孤白があの少年?」
「ああ、そうだ。だから鞍月蒼と白羽を利用して、真雛に近づく…」
そう言って、灯蛾は倉庫のドアを開け、外へ出ていった。
夜空を見上げた灯蛾は、懐かしむように月を見つめていた。その赤い瞳に反射していた月は満月に近かっ
た。
「俺は生きなければならない…絶対に」
灯蛾はそう言うと、地面に仰向けになった。
しかし、その後すぐに周囲にあった厚い雲に月が隠れてしまった。周囲があっという間に暗くなる。
「もう俺を照らしてくれないのか…」
灯蛾は悲しげにそう呟くと、そのまま瞳を閉じた。
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