選択死
暗闇を歩くこと、約三十分。ようやく男の足が止まった。
そこは、この辺で有名な暴力団『白豹組』の陣地であった。
「ここは危険です…暴力団で有名な…」
「お前は大人しく待っていろ」
男は丸山を連れて『白豹組』の陣地である。大きな倉庫へ入っていく。
鉄の錆びた匂いが鼻につく…恐怖と不安で丸山の精神状態は既に限界であった。
大きな鉄製ドアをこじ開けた男は、堂々と中へ入って行った。
「灯蛾様。帰ってきたのですね」
倉庫の中に入ると、入り口付近の椅子にお座っていた金色で短髪の女が入って来た男と丸山に向かって笑顔で話しかけた。どうやら、この男の名前は灯蛾というらしい。
「まあな」
女は丸山の顔をまじまじと見ると、
「この人は…」
「ちょっと色々あってな」
「あの…これはどういう…」
状況が掴めない丸山はおどおどとしている。
「見ての通り、俺は『白豹組』の団長だ」
「は…」
意味が分からない…この男があの暴力団の団長…
「お前、白豹組については知っているな」
「まぁ…そうですけど…」
「ってことで、俺は既に犯罪者だ。殺人は数え切れない程している…」
「………」
「だから、俺が警察に通報出来るはずもないんだよ、だから勿論、金の請求もしない」
「………」
丸山は情報の整理で精一杯だった。つまり、自分の秘密を知っているこの男も殺人者…
―俺と同じ…
―では、この男は何がしたい…
―何故、俺を拘束した…
「だから、お前が生き残る方法は、町田を殺して、俺たちの仲間に入るしか成す術がないんだよ」
「……っ」
しまった…そう言うことか…俺を自分達の仲間に入れる為に…丸山は騙されたことに絶望する。
「さあ、どうする?」
男は被っていたフードを脱いで顕になった顔をこちらに向ける。想像以上に整った顔立ち。彫りが深い顔は西洋人だろうか。茶色い髪は長めで、ストレート。所々に金色が散りばめられていた。瞳の色は息を呑むほど美しい紅。まるで鮮血の色である。目だけアルビノ体質なのだろうかと思ってしまう程だ。
「お前はもうここから逃げられない。刑務所に入るか、俺たちと手を組むか…」
「……」
結局、幸せな時間は訪れないということか…
「返事は明日の朝、聞かしてもらう。もし、俺たちの仲間に入るんだったら、町田の処分を少し手伝って
やる」
―明日までに全て決めないといけないのか…務所行きか暴力団行きか…
やはり、隠し通せなかった…
殺人の罪は一生消えない…何処かで必ず『その時』が来る。それなのに幸せになろうだなんて思っている俺が浅はかだった…
丸山は絶望に浸った。到底即決出来るはずもなく、その後あっさり釈放された彼は、一人で夜道をフラ フラと彷徨いながら歩いていく…
いっそのこと、ここで誰かに襲われて…
そんな考えばかりが丸山の頭を埋め尽くす。
夜空を見上げると、分厚い雲が空を埋め尽くしていた。月はもはや雲に隠れていて見えない。モヤモヤする…
「どうして、誰も俺を殺してくれないんだよ!」
虚空に響き渡る声―
結局、誰にも襲われず、無事に家に着いてしまった。この治安が悪い世の中で、夜中に出歩いて無事に帰れるなんて、奇跡としか言い様がない。
それとも神様は丸山を見捨てたのだろうか。
(/・ω・)/




