任務完了(仮)
「ねぇ、ひとつ提案なんだけど。亜美ちゃんの気分転換のために皆で買い物でもしに行こうよ」
蒼は場の雰囲気が悪くなっていくのに耐えられず、思い切って提案した。少女の気持ちを少しでも和らげてあげれば、きっと自殺なんか二度と考えないと思ったのだ。
しかし、蒼が話しかけた瞬間、少女はぎょっとして蒼を睨んだ。
「なんで私の名前を知っているの?」
その後、『いや、実は君の知り合いの知り合いでして…』的なことを言って、誤魔化した蒼だが、何とか少女に納得してもらえ、幸い、変な誤解は免れた。
そんな訳で、少女の気分転換に五人は商店街やゲームセンターなど、様々な所へ足を運んだ。初めは、口数の少なかった少女であったが、時間が経つに連れて笑顔も増えていき、普通の女子中学生と同じくらい明るくなった。話していると、案外面白く、お茶目な部分のある少女は、数時間前まで自殺しそうだったとは思えない程であった。
そして、拝島が少女と積極的に話していたのが驚きだ。普段、学校でほとんど人と会話をしなく、大体、蒼あたりと少し話す程度だった彼が今日は少女と楽しそうに話しているのだ。一体、どんな風の吹き回しなのだろうか、と蒼は真剣に考えた。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕方の四時となっていた。まだ周囲は明るいが、太陽が沈み始めていた。
「もう、こんな時間だ。そろそろ家に帰えらないと…」
蒼が腕時計を見ながらそう言うと、少女は残念そうな顔をした。
「家…そうだね…」
俯きながら、立ち尽くしている少女。そんな少女に言葉を掛けたのは、意外にも、あの拝島だった。
「心配だから、僕が家まで送るよ」
ぎごちない口調だったが、拝島は優しく少女にそう言った。
「いいの?」
「うん」
そうして、拝島は少女を家まで送りに行くことになった。
拝島がいなくなった後、三人は拝島の変貌ぶりに驚いていた。なんだって、あの拝島が少女を家まで送
るのである。あの内気な拝島が…
「拝島も変わったな…」
呆然と立ち尽くしながら蒼は言葉を漏らす。
「だな、あいつ、お前としかまともに話せなかったのによ」
「拝島くんって、案外良い人みたいね」
柏木は笑顔でそう言うと、
「よし、これで任務も終わったことだし、そろそろ帰りますか」
という、柏木の一声で三人は駅へと向かった。
ただこの時、三人はまだ任務が完全に終わっていない事に気づいていなかった。
現実は甘くありません。(´・ω・`)