消えない痣
当然、真実を言えない蒼たちは、思い切って『散歩』ということにしておいた。咄嗟の考えだったので、正直信じてもらえるか分からなかったが、拝島は一応、信じてくれた。
拝島の方は、ただの『学校さぼり』だそうだ。好きなアニメを深夜まで見ていて、寝坊し、遅刻するぐらいなら学校をサボって、家にいようと考えたらしい。そして、今は気分転換のため、外にいたらしい。
さすがに拝島がいる中で、学校に無断侵入できないため、蒼たちはひとまず、彼と別れようとしたが、なかなか帰ってくれない…
仕方なく、そのまま学校を後にした四人は、近くにあった噴水のある公園へ向かうことにした。
公園に着くと、噴水の周りに座っている一人の少女がいた。
「あれ…あの子じゃない?」
近くに来てみると、確かにその子は清水麻里だった。でも彼女は、学校へ行ったはずだが…
「何?あの子って?」
何も知らない拝島は、蒼に耳打ちした。
「まぁ…ちょっとね」
拝島と話している蒼の横を通り過ぎた柏木は、そんな少女の隣に腰を降ろして、いきなり話しかけ始め
た。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「ちょ…柏木!何してんだよ」
伊吹は慌てて柏木の肩を掴んだ。何故なら、任務遂行にあたって、なるべく標的人物に話しかけるな、
と言われていたからだ。いきなり話しかけ始めた彼女に伊吹も蒼もドン引きである。しかし、柏木は無視
して少女と話を続ける。
「私たち、別に怪しい者じゃないんだけどさ。ひとつ聞いてもいいかな」
すると、少女はぎごちない言葉で答えた。
「何?」
それはまるで、何かに怯えているかのような口調であり、目線もずっと下を向いていた。
「学校はどうしたの?」
まぁ、学校をサボっている自分たちを棚に上げて言うのも、おかしかったが、そこは伏せて柏木は真面
目な顔で聞いた。
「学校は…もういいの…」
今にも泣きそうな顔で答えた少女。彼女は膝の上に乗せた拳を強く握り締めた。
「どうして…」
そう言って、少女の拳に手を掛けた柏木だったが、一瞬にして彼女の手は少女のか細い手によって叩か
れてしまった。
「触らないでっ」
これでは千恵の時と同じではないか、と蒼は心の中で思った。少女の心は何かに蝕まれているようにも
見える。とにかく、ほっとける状況ではなかった。柏木も動揺しつつ、冷静さを保ち続けていた。彼女は
興奮している少女を落ち着かせるかのように、ゆっくりと話し始めた。
「良い?どんなに学校が辛くても、他に居場所があるんだっていうことを忘れないで…」
柏木は少女がこのまま自殺をしようと考えているのではないか、と疑っているらしい。実際、蒼もそれ
は考えていた。少女の憔悴しきった瞳を見れば何となく予測出来る。
「私には居場所なんて無い…」
今にも消え入りそうな声で言うと、少女の頬に一筋の涙が流れた。
「何も、学校が全てじゃないよ?」
「じゃあ、私はどこに行けばいいの?」
突然声を張り上げた少女に驚いた蒼たちはしばらく硬直してしまった。彼女の目は溢れた涙で包まれて
いた。まるで飼い主に捨てられた犬のように悲しい顔をしていた。
「ねぇ…ちょっと、いい?」
柏木は、泣き叫ぶ少女の手首を掴むと、肩まで袖口を引っ張り上げた。
「ひっ」
少女は抵抗するが、か細い腕では柏木の力には到底及ばず、とうとう少女は抵抗を辞めた。
露になった少女の腕には見るも無惨な痣がいくつもあり、古いものもあれば、新しいものもあった。
「おい、誰にヤられたんだよ?」
伊吹は少女の痣を見るなり、怒りを顕にした。
「転んだの…」
「嘘だろっ!転んだだけでこんなになるかよ」
伊吹は少女の両肩を掴むと、左右に揺さぶった。
「あんた達には関係ないでしょ?ほっといてよ、もう生きている意味が分からないの…」
「関係あるんだよ!そんなことで死なれたら困るんだよ!」
少女の表情が一瞬、強ばった。さっきまで流れていた涙も止まり、彼女はただ伊吹を見ていた。
「どうして、私が死のうがどうだっていいじゃない!」
すると、パシッと頬を叩く音が聞こえた。少女の頬はほんのり赤くなっている。
「ふざけないで、自分の意志に反して死んじゃう人だっているの、だからもう二度と死のうだなんて言わ
ないで」
少女を叩いたのは柏木だった。彼女は顔を真っ赤にさせている。恐らく、殺された家族の事を思い出し
ているのだろう。生きたいのに生きられない人間は山ほどいる。そんな彼らを差し置いて、死にたいと
言った少女を柏木は許せないのだ。
すると、少女は叩かれた頬を抑えながら、泣き崩れた。
「ご、ごめんなさい…」
心の傷はなかなか消えません。




