黒い人影
「ちょっと、まだ掘れないの?」
人目に突かない場所に移動した蒼たち三人は、何とか学校内に侵入しようと、先程からずっと、鉄壁の下にある土を掘り続けていた。
「俺…もう疲れたよ、次、柏木やってくれよ…」
「え?まだ十分も経ってないじゃん。男なら頑張りなさいよ」
蒼は、ため息をつきながら、泥だらけの手を何度も何度も、硬い土に食い込ませた。爪を切るのを怠って
いたせいで、爪と肉の間に小石やら何やらが侵入する度に痛みを生じた。
掘っても、掘っても鉄壁は無くならず、無駄な時間が流れていく…蒼は、とうとう手を止めた。
「もう、無理…」
そう言って、振り返ると、伊吹と柏木の後ろに黒い人影が見えたので、蒼は叫んだ。
「う、後ろに誰かいるっ」
蒼の一声に、いち早く反応したのは柏木だった。彼女は数秒で腰から下げていた鎖の布を剥ぐって振り返
ると、目にも止まらない速さで鎖を放った。
「やっ、やめてくれ、僕だって…僕…」
放たれた鎖は、見事にそいつの体に巻きついていた。黒いパーカーにフードを被ったままのそいつは、何やら叫んでいる。
「あんた、誰?」
鎖を引っ張りながら柏木はそいつに近づくと、思いっきりフードをとって、顔をされけ出させた。そし
て、フードの下に隠された顔を目にした蒼と伊吹は、思わず声をあげた。
「はっ、拝島」
「ハイジンじゃねぇか!」
黒縁メガネに、焦げ茶色のクセ毛、どこか人付き合いが苦手そうなその男は、間違いなく二人のクラス
メイトである拝島廉太であった。
「た…助けてくれよぅ」
拝島は藁にでもすがりつくような顔で、二人に助けを求める。
「え?知り合いの人だったの」
罰が悪そうに柏木はそう言うと、急いで鎖を解いてやった。
鎖から開放された拝島は、再び深々とフードを被ると、
「いやぁ…びっくりしたな、急に鎖で襲われるとは思っていなかったよ…」
「ごめんなさい…本能で…」
草の生い茂る地面に頭をつけて、柏木は土下座を繰り返した。
「良いんだよ、最近物騒だし…それは護身用ですか?」
彼女は顔を赤らめながら鎖に布を被せると、笑顔でごまかして、
「ははは、そうなのこれは護身用でね」
「ところで、なんで拝島がここに居るんだよ。お前、学校はどうしたんだ?昨日も欠席だったよな」
蒼がそう言って、拝島に駆け寄ると、彼は不思議そうな顔でこう言った。
「鞍月くんこそ、ここで何しているの?」
一方、少女は。。。