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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【参章】とある少女の魂
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慈悲刀

 固く目を閉じる蒼、しかし、刀で何かを斬ったような感触は一切感じられず、不思議に思った彼は、目を開けて刃先を見てみた。

 すると驚くことに、刃先には何も付着していなかった。先程斬った幹の木屑が少し残っている程度であった。斬られていたのは伊吹の服だけ…

伊吹は恐る恐る自分の腹に目をやる…服は三十センチ程度すっぱりと斬られていたが、その下にある皮膚は傷一つ負っていなかった。


「あれ?痛くない?」


間違い無く斬られたはずの腹…伊吹は首を傾げる。


「斬れていない…」


蒼は刀を伊吹から離して、斬れていない皮膚を見る。


しかし、伊吹はご自慢の服が台無しになってしまった事に気がつくと、いきなり憤慨し始めた。どうやら

生きていることが確認された後、直ぐに服の安否に意識が向いたらしい。


「俺の服がぁあああああああああああ」


目を真っ赤に充血さて伊吹は蒼の両肩を掴んで叫ぶ。まるで獣である。


「だ、だから俺じゃなくて…真雛様が…」


「この服…高かったんだぞ…せっかく学校に内緒でバイトして買ったのによ…」


「伊吹…バイトなんかしていたのか?」


すると伊吹は、肩を落として頷いた。


「三ヶ月くらい…でも夜七時までだぜ…」


この物騒な世の中、当然、高校生が放課後にバイトすることは禁止である。しかも七時って…蒼は今まで殺

されずに生きてきた伊吹が信じられなかった。道理でお洒落な服とかブーツを履いてこられた訳だ。蒼

は、呆れて全身から力が抜けた。


「お前、今まで良く生きてこられたな」


「まあな」


すると、柏木がノリノリで近寄ってきた。


「バイトか…私もしようかなって思っていたんだけどね」


まさか―柏木まで?お前ら命が惜しくないのか…


「今からでも遅くないぜ、柏木」


「そうだよね!」


伊吹と柏木の意味不明な会話はもはや蒼の耳には届いていなかった。


そんなことより、派手に斬られた服をそのままにして平然と話す伊吹が滑稽だった。柏木も何の違和感無

く話し続けている…ネジが緩んでいるのか?頭の…


「ところで真雛様。何故この刀で伊吹を斬れないんですか?」


蒼はバイトの話で盛り上がっている二人を差し置いて、真雛に聞いた。


「実はその刀は、刀を持つ者と同じ種の生き物を斬る事が出来ないのです」


「同じ種…」


「然様、それは『慈悲刀』といって、特別な呪いが掛けられている刀です。今、刀を持っている蒼は人間

だから、人間を斬ることが出来ないのです」


「だから、人間である伊吹を斬ることが出来なかったのか…」


『慈悲刀』それは、真雛が呪いを掛けた、同種間による殺生の出来ない刀。つまり、人はこの刀で魚や鳥

を斬ることが出来ても、人を斬ることは出来ない。よって、この刀で戦えば魂が汚れる事はない。


「成程、だったら安心して戦えますね。でも、斬れないと意味がないのでは…?」


「斬れずとも、人の足を止めるくらいは出来ます。プラスティック位の威力は持っていますから。それに

人以外の物は良く斬れますよ」


それで伊吹の服だけが斬られたのか…にしても、プラスティックの威力なんて…あまり期待で来そうにない

な、と蒼は肩を落とした。


すると突然伊吹がとんでもない事を言いだした。


「服だけ斬れるからって、それを悪用すんじゃねぇぞ?蒼くん?」


全身の血液が一気に顔に集中してくる。蒼の顔はものの数秒で真っ赤に変色した。と同時に、蒼の脳内で

何かが爆発した。


「んな事………するかっ!」


蒼はへらへら笑っている伊吹の左肩から下までバッサリと刀を振り下ろした。


「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああ」


「きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ」


その後、伊吹と柏木の悲鳴が神社中に響き渡った。





人が斬れない刀ということは、ヘレティックも斬れませんね。※人間なので

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