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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【弐章】浄罪師と使徒
19/70

魂の在庫

「君は…もしかして…」


「わたくしは白羽。自己紹介が遅れてしまいましたが、黒羽さんと同じで真雛様の遣いの鳥ですの」


 まるでお嬢様のような口調である。黒羽の年寄り口調とは大違いであった。白羽が舞い降りてきた途端、柏木が、


「白羽、来てくれたんだ」


 と、嬉しそうに言った。どうやら柏木は既に白羽を知っているようだ。


「だって、心配ですもの」

 白羽は柏木の右肩に留まった。


「これで、Sランクの使徒が三人集まったんじゃな」


 黒羽は柏木をまじまじと見た後、そう言った。どうやら柏木も蒼と同じで真雛直属の使徒らしい。


「柏木もSランクだったのか」


 驚いた蒼は柏木に聞く。彼女は当たり前だというように鼻を高くした。


「そうだよ?ところで蒼くんって、誰だったの?」


 突然、『誰だったの』なんて聞かれた蒼は、頭の中が真っ白になった。意味不明なんですけど、柏木さん?


「誰って?どういう意味ですか」


「え?だから、浄罪師の使徒だった時の呼び名だよ。Sランクなんて五人しか居ないんだからさ」


ってことは、柏木は全部思い出したのか?


「ごめん、俺たち…まだ使徒だった頃の記憶を取り戻してないんだ…」


「は?」


 唖然とする柏木は伊吹に顔を向ける…しかし、伊吹も首を縦に振るばかりである。

そんな柏木に黒羽が、


「この二人はまだ使徒だった頃の記憶だけ戻ってないんじゃよ、残念ながら」


「えっ、マジで!」


 声を張り上げる柏木に、黒羽は蒼と伊吹の正体を明かし始めた。


「因みに、吾輩は知っているから教えてやる。蒼は『孤白』で伊吹は『大河』じゃ」


「蒼くんがあの孤白で、伊吹くんが大河なの!全然面影ないし(笑)」


「じゃろう?吾輩もびっくりじゃ」


ゲラゲラと笑う柏木と黒羽…蒼は会話が全く飲み込めなかった。孤白?大河?誰ですかそれ…




「ところで、その子はどうされたのです?」


ゲラゲラ笑っている黒羽たちを無視して、白羽は柏木に抱えられている千恵を指した。


「これは…」


「これは伊吹の妹じゃ、今回の任務に関わっていた少女じゃよ」


 黒羽は興味無さそうに言うと、


「蒼、伊吹、朱音、三人とも今すぐ神社に来い、真雛様がお呼びじゃ」


「おい、黒羽。俺の妹が今大変なんだよ、ほっとけるか!」


 伊吹はそんな黒羽に向かって叫んだ。蒼も千恵を見捨てられない。


「千恵ちゃんの回復ができたら、行きます」


「蒼、おぬしまで…そんな小娘より真雛様が優先じゃ」


そんな小娘…黒羽はどうしてそんな風に言うのか、蒼は訳がわからなかった。ただ、無性に腹が立った。


「黒羽、どうしてそんなことを言うんだよ。酷いじゃないか、もし千恵ちゃんがこの後、自殺でもしたらどうするんだよ」


「そんな事、吾輩が知ったことではない」


「テメェ…」


 伊吹は黒羽に殴りかかった。しかし、翼のある黒羽は間一髪で逃げ切った。


「自殺も他殺も魂が汚れるって言ったのは黒羽じゃないか」


 蒼は黒羽の矛盾に気がついた。確か、黒羽は自殺も人殺しに入ると言っていた。だとしたら、自殺しようが関係ないはずがない。


 すると、黒羽は蒼の目の前で着地した。


「吾輩が言ったのは、『綺麗な魂』の持ち主がそうなっては困るといったのじゃ」


 綺麗な魂の持ち主だけ…要するに今までに人殺しをしていない魂を持っている人間だけが彼の対象。蒼は急に不安になった。黒羽が言っていることを整理すると、千恵は…


―汚れた魂の持ち主だということになるじゃないか。


「おい、じゃあ…俺の妹の魂は前世に人殺しをした魂だっていうのかよ?」


 伊吹は声を震わせながら、恐る恐る黒羽に尋ねた。


「……、そうじゃ」


 数秒間、静寂だった。誰も口を開かなかった。いや、開けなかった。伊吹は膝から地面に崩れ落ち、柏木は千恵の耳を手でずっと塞いでいた。彼女は千恵に黒羽の言葉が聞こえないようにしていたらしい。蒼はその場にずっと立ち尽くしていた。


「辛いのは良く分かりますわ。でも、汚れた魂を持つその子はわたくし達の敵なのです」


 沈黙を破ったのは、白羽であった。敵…その言葉が蒼たちの頭を巡った。蒼は伊吹の顔を直視することができなかった。彼は今、どんな気持ちなのだろうか…


「どうして…俺の妹が…」


「実は、3割近くの魂が汚れた魂なんじゃ…」


 黒羽は伊吹の言葉を遮るように言った。しかし、3割の魂が汚れた魂だとは…


「それじゃあ…これから先どうなるんだよ…」


蒼は黒羽に掴みかかった。


「まだ、魂の在庫は少しある。おぬしらが頑張ってくれさえすれば在庫は足りるんじゃ」


「在庫って…」


「在庫とはな、まだ世に一度も出てない新品の魂のことじゃよ」


 確か、黒羽は初めに、『魂は減っていく』と言っていた。だから当然、魂に限りがあったということである。世に出たことのない綺麗な魂、その在庫が無くなったら一体どうなってしまうのか…


「在庫が無くなる前におぬしら達には任務を遂行してもらわなければならん、これ以上新しく汚れた魂が

増えなければ、数十年後にはほとんど綺麗な魂と入れ替えられるんじゃ」


 黒羽は簡単に言うが、素直にその言葉を受け入れることの出来ない伊吹は、


「何が浄罪師だよ、俺は知らねぇぞ、勝手にしろ」


 覚束無い足取りで去っていこうとする伊吹を黒羽は追いかけた。


「伊吹、おぬしは妹と世界のどっちが優先か分からないのか?」


 伊吹は下を向いて歯を食いしばっていた。彼の肩は小刻みに震えていた。雨でよく分からなかったが、彼は泣いているようにも見えた。


「千恵は…これからどうなるんだよ」


「殺人者になり果てるか、自殺をするか、その前に誰かに殺されるか…そのどれかじゃな」


伊吹は大きく深呼吸をして、


「死んだ後は?」


 と、黒羽に聞いた。声は死んでいた。


「真雛様によって処分される」


 伊吹はそれ以上黒羽に何も聞かなかった。蒼も柏木も、白羽も何も言わなかった。ただ、雨音だけが周囲に響いていた。涙といった類のものは雨水によって、綺麗に洗い流されていった。



その後、しばらくするとパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。



そろそろ武器が欲しいところですね。。。

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