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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【弐章】浄罪師と使徒
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柏木+パパラッチ

「あ…」


 廊下に行くと、そこには柏木が立っていた。その後ろには何故か数人の男子がくっついていた。この者たちは彼女の護衛か?いや、おそらく勝手について来ているだけだろう…


「蒼くん!これ、忘れ物」


 柏木は蒼を見るなり、にっこりと笑って彼にイソギンチャクのストラップを差し出した。それは蒼の鞄に付いていたストラップであった。どうやら蒼は今朝、下駄箱でこのイソギンチャクを落としてしまったようだ。でも確かあの時、彼女の方が先に教室へ行ったような…


「あ、ありがとう」


 柏木の手からストラップを受け取ると周りから、はっと息を呑む声が聞こえた。後ろの男子たちが物凄い形相で蒼を見ている。


「今朝、下駄箱に落としたみたい。体育の授業の時、下駄箱で発見してね。確かこのイソギンチャクは蒼くんの物だったかなって…」


 なんと、彼女は蒼が鞄に付けていたストラップを覚えていたらしい…


「……、」


 蒼は嬉しさと驚きのあまり、その場でボーっと立ち尽くしていた。そんな蒼に柏木は、


「そう言えば、蒼くんって、今日の放課後時間ある?」

 柏木の言っている意味がよく分からなかった。『放課後時間ある?』蒼の頭の中でその言葉が反芻した。


「えっ、その、今日はですね…」


 言葉がうまく話せず、しどろもどろになってしまった。


「ちょっと、話したいことがあってさ」


 え、えーっ!ちょ、ちょーっと!なんですって?話したいこと?俺に?柏木が?蒼の頭はさらに混乱して、思考回路が原型をとどめていなかった。


「話したいことって…なんですか…」


「ちょっと、ここでは言えないかな…」


 彼女は困った顔でそう言った。周りのパパラッチ(男子生徒数人)は先程から硬直状態である。真っ青な顔で、人生が終わった人のような顔をしている奴もいた。


「え…?」


「周りの人に聞かれたらちょっと困るんだよね?」


 周りに聞かれたら困る?蒼の頭はますます、ヒートアップした。


「今日は放課後に大事な用事があって…」

 

 蒼は何だか怖くなって、思わず今日の放課後は断ってしまった。まぁ、もともと今日の放課後は秋山先生監視という名の任務があるのだが。


「そう…じゃあ仕方が無いよね。ちょっと気になって…いや、何でもない」


 残念そうに彼女はそう言うと、数人のパパラッチを蹴散らしながら、行ってしまった。慌ててパパラッチは彼女の後を追っていく…

 すると、パパラッチの一人が蒼に向かって来た。蒼は恐怖で一歩下がる。


「有り得ない…柏木様のお誘いを断るなんて…俺なら絶対にしない」


憎しみ、妬み、怒り、様々な感情のこもった顔でそいつは吐き捨てた。


「すっ、すみません…」


良く分からないが、蒼はひとまず謝っておいた。


教室にフラフラの足取りで帰った蒼を伊吹は腕組をして迎えた。


「蒼?お前、一体何者だ?」


「……、」


 先ほどの会話の全てが伊吹に聞こえていたらしい…

ここは『お前と同じで、浄罪師の使徒ですよ』と言いたいところだが、蒼は頭の整理で精一杯であった。伊吹は蒼の席から立ち上がると、


「まぁ、どうでもいいけどよ、俺は別に柏木とか興味ねぇし…」


 伊吹の瞼は頻繁に開閉を繰り返していた。要するに、興味がないということは嘘っぽかった。嘘が下手だな伊吹は…と蒼は確信する。


「……、」


「でも、柏木の誘いをちゃんと断れたのはさすがお前だな」


「……、そりゃあ今日の放課後は任務があるからさ」


 その後、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきて授業が始まった。授業が始まっても、蒼の頭の中は先ほどの会話のことで一杯になっていた。割合的に考えると、柏木:秋山=7対3って感じだ。もはや浄罪師の使徒、失格である。


(明日、また柏木は来るのだろうか…いや、今日断っちゃったし…もう来ないかも…そもそも、柏木は俺に何を話そうとしているんだ?まさか…いや、それはない…こんな目立たない俺に気があるとは思えない…でも)


 そんな無意味な空想であっと言う間に放課後となった。


「蒼、ひとまずどうする?」


 伊吹は蒼の耳元でそう呟いた。他の生徒がぞろぞろと教室を出て行く中、二人は教室に残っていた。


「どうするか…」


 誰も人が居なくなった教室。外では雨が相変わらず降っていて、気のせいか、横なぐりの雨となっていた。

 しばらく沈黙が続いたが、教室の窓ガラスをコンコンと叩く音が耳に入って、蒼と伊吹は慌てて窓ガラスに近づいた。


「黒羽?」


「クソガラスじゃねぇか!」


 窓の向こうには黒羽が飛んでいて、ガラス窓をしきりに突っついていた。蒼は急いで鍵を外して、窓を開けた。


「うわっ」


 黒羽の黒く大きな体と共に入ってきたのは、強く降る雨だった。蒼の顔面に大量の雨粒が掛かった。


「ふぅ…全く急に雨が強くなって困ったもんじゃ…」

 

 黒羽は教室に入ってくるなり、羽をバサバサと振り始めた。その途端、伊吹に雨粒が掛かった。


「辞めろ、バカっ」


「おう、すまん」


 伊吹の怒鳴り声に一瞬、ビクッとした黒羽は羽を閉じた。蒼は黒羽に近寄った。


「あの…黒羽、もしかして手伝いに来てくれたの?」


「まぁ、そんなところじゃ、丁度、吾輩の仕事も終わったんでな」


「仕事って…」


「世界中の浄罪師の使徒に指示を出しに回っていたんじゃよ」


「世界中の浄罪師の使徒に?」


「そうじゃ」


 黒羽は当然だと言った目で二人を見た。確か、黒羽は世界中には浄罪師の使徒が300人はいると話していた。そんな大人数の使徒にたった一匹で?と蒼は不思議に思った。


「言っただろう、浄罪師の使徒は世界中に居ると」


「そうだけど…一匹で全員に?」


「正確には、吾輩と白羽の二匹でじゃ」


「白羽って、あの石像だった奴か?」

 

 伊吹が濡れた髪を整えながら黒羽に聞いた。


「そうじゃよ、白羽の奴は、まだ仕事中だがな」


 黒羽はそう言うと、辺りを見回して人が居ないことを確認すると、一息ついた。


「吾輩とて、人間の前では気安く喋れん…じゃから、ここで吾輩の指示に従ってお前たちには任務を遂行してもらう」



黒羽も加わって、調査本始動です。(/・ω・)/

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