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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【弐章】浄罪師と使徒
14/70

調査

千恵の教室を後にした二人は、職員室へ向かうことにした。


「失礼します」


 二人はそう言うと、辺りをキョロキョロしながら中へ入っていった。職員室に入って直ぐ側に各教員の座席表が貼ってあったので、さっそく秋山湊人という名前を探した。

 秋山先生の席は、入り口から若干遠かったが、奥まで行かなくても席が見えた。


「あいつか?」


「そのようだな」


 秋山先生と思われる人物はパソコンを打っている最中であった。三十代半ば程で、黒髪の真面目そうな感じの先生だ。席に座っている姿は背筋もピンとしていて、どこか堅苦しそうにも見えた。


「あの人が今日、本当に殺人なんか犯すのか?」


 伊吹の言う通り、秋山という男は人を殺すような人間には見えない。けれど、黒羽が指名したのはこの男だ。ここは黒羽を信じるべきなのか…それとも…


「取りあえず、あの先生の素性について他の生徒に聞いてみよう」


 二人は静かに職員室を出て行くと、ひとまず中学三年生の教室がある方へ向かった。というのも、三年生であったらこの先生についての情報もあると考えたからだ。


 中学三年生に知り合いの居ない二人は、仕方ないから、適当に廊下を歩いている生徒に話しかけた。


「あの、ちょっと良いかな?」


 蒼が話しかけたのは、ショートカットのさっぱりとした女子であった。いきなり話しかけられた彼女は、少し驚いた顔をした。


「何ですか?」


「あのさ、俺たち高等部二年なんだけど、君、秋山先生のことは知っているよね?」


 彼女は一切曇った表情をせずに、笑顔で答えた。


「秋山先生ですか!もちろん知っていますよ!」


「あの…秋山先生ってどんな先生なのか教えてくれる?」


 明るく答える彼女は、先ほどの千恵の様子と全く異なっていた。秋山先生はもしかしたらそんなに評判が悪い先生でもなさそうだ、と二人は思った。


「秋山先生は水泳部の顧問で担当は理科ですよ。三年二組の担任なんですけど正直、一組に来て欲しかったですよぉ…」


「え?秋山先生って、人気があるのか?」


 彼女の口調から、秋山先生は人気者のように聞こえてきた。


「もちろんですよ。まだ三十二歳だし、先生はとても優しいんです。あの真面目で紳士的な人はこの学校には秋山先生しかいませんよ」


「……、」


 二人とも想像を遥かに超えた秋山先生のイメージに言葉が出なかった。すると、後ろから三人組の女子がやって来た。


「亜紀?何やってんの?」


 亜紀と呼ばれた彼女は三人に笑顔でこう言った。


「丁度良かった。今秋山先生について色々聞かれているんだけどね」

 秋山先生、と聞いた彼女らは興味津々で蒼たちに近寄ってきた。


「えっ、何なにぃ?秋山先生がどうしたって?」


 きゃ、きゃ、と楽しそうに聞いてくる彼女らに蒼と伊吹は思わず三歩下がった。


「いや…秋山先生って、そんなに人気があるんだぁ…」


苦笑い気味で話す伊吹にその中でも髪の長い女子が、


「そうですよ!秋山先生は女子からも男子からも安定して人気があるんです!」


彼女に続いて、そうだ、そうだ、と周りも頷き始めた。


「…秋山先生って、独身なのか?」


しかし、何となく蒼がそう聞くと、彼女たちは一斉に表情を曇らせた。


「秋山先生はとっくに結婚していますよ。確か、今年で三年目だとか何とか…」


驚く程低い声で亜紀は答えた。


「へぇ…」


「でも、先生は素晴らしい人ですっ」


そう言うと、再び彼女らは笑顔で騒ぎ出した。


 その後も、何人かの生徒に秋山先生について聞いたが、やはり誰もが彼を賞賛していた。一人も秋山先生を悪く言う者は居なく、理想の教師というイメージが二人の頭に植えつけられた。

秋山湊人、真面目そうな外見をしていて、生徒達からの人気も高い。そんな彼が今日中に殺人者?そんな有り得ない話があるというのか…


 二人は自分たちの教室に戻ると、蒼の席の前でコソコソと話し始めた。


「どういうことだよ、あんなに人気な先生だったなんて…」


 蒼は頭を抱えて、大きくため息をついた。


「やっぱりあの鴉、嘘つきなんじゃねぇか?大体、怪しいのはあっちだろ?きっと変な魔法か何か使って、俺たちの記憶を操作したんじゃね?」


 伊吹はそう言うが、蒼はその点に関しては、黒羽は嘘をついていないような気がした。

 昨日見せられた記憶の数々、その全ては確かに自分が歩んできた道のりであった。自分の中にある記憶がふっと蘇った…それは真実。ただ、浄罪師の使徒をしていた頃の記憶が戻らないのは、気になる点ではある。


「それは無いと思う。伊吹だって、昨日見ただろ?あの記憶…間違えなく自分の記憶だった」


「……、確かにそうだけどよ」


「それに、真雛っていう浄罪師…あの人間離れした容姿、あれが偽物だって言うのか?」


 伊吹は下を向いて、ゆっくりと首を横に振った。


「そうだな…あれは偽物とは思えない。でも、秋山先生はみんなの人気者らしいし、殺人なんて…」


「人気者だとしても、それは表面上の顔なのかもしれないだろ?」


 表面上の顔、偽装されたイメージ、作られた性格…本当の自分をそのまま外に曝け出す者なんて果たしているのか?人間は動物と違って理性がある。一目を気にして、本当の自分、醜い自分は隠す習性があるのだ。

 蒼は窓から外を見渡した。伊吹もそれを真似て窓際に近寄る。

 外はしきりに雨が降っている。まだ十二時半過ぎだというのに、外は薄暗くなっていた。


「放課後…」


蒼は窓を睨みつけて、口を開いた。


「放課後が勝負だな」


「ああ」


 伊吹は低い声で答えると、教室側へ向き直って蒼の席に座った。


「お~い、蒼ィ~、お客様がいらっしゃっていますよ~ぉ?」


と、その時。クラスメートの青島という男子から声を掛けられた。ふざけた声で呼ばれた蒼は何事かと、青島に尋ねる。


「どうしたんだよ、青島?」


「姫様がお呼びですぞぉ?あ、お、い、ど、の!」


 日頃からふざけた奴だが、さすがに今回は様子がおかしかった。とうとう頭のネジが全て吹っ飛んだか?と蒼は哀れみの目で青島を見つめる。

 青島は蒼の背中を押して廊下へ連れていった。蒼は訳が分からず、呆れ顔で仕方なくそのまま廊下へ向かった。


 伊吹は蒼の席から、そんな二人の背中を口を開けながらポカンと見ていた。


(/・ω・)/

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