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浄罪師 -present generation-  作者: 弓月斜
【弐章】浄罪師と使徒
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二人の作戦

「みんな、おはよう」


教室の前のドアが開く音と共に、山下先生が入ってきた。山下先生は三十代前半のやや若めの先生である。担当教科は体育。彼の肌は健康的に焼けていて、常に額に汗が輝いている。まぁ、一言で表現すると、『熱血教師』だろうか。

 

「あれま?ハイジはお休みか?」


先生お得意の『パッと見、出欠確認!』で、休み一人を認識したようだ。先生は普段、生徒の名前を一人一人呼ばずに出欠を確認するのである。パッと見て、席が空いていたら即座に誰が休んでいるのか当てるらしい。しかし、時々間違っている時もあるから要注意だ。


 今回欠席しているのは、拝島廉太、先生はいつもハイジと呼んでいる。如何にも、女性らしい名前だが、拝島自身は案外気に入っているそうだ。


 拝島は、蒼と同様、『目立たない人』である。いや、蒼よりも影が薄いかもしれない。黒縁メガネで、若干クセ毛でこげ茶の髪、趣味はおそらく、ネットか漫画か何かだろう…といった風貌である。要するに、オタクである。一部の生徒はそんな彼を『ハイジン』と呼んでいる。


 因みに拝島と蒼は『目立たない人』同士、結構気が合い、時々話したりしている。


「そうか…ハイジは今日お休みか…」


残念そうな声でそう言うと、先生はショートホームルームを続けた。


その後、いつも通りに授業が始まった。一時間目の教科は数学。蒼は頬杖をついて、顔を黒板に向ける。やっているのは数学Ⅱ。


しかし、先生が黒板に書いている数式を眺めていると、今までとは違った感覚がした。


―何だ?この簡単な計算は?


 しかも、勝手に頭の中に流れる微分方程式や二次関数の公式…まだ習ってもいない公式が次々と蘇ってくる…そこで蒼は生まれ変わる前の自分が数学の先生をしていたことを思い出した。五回も人生を歩んできた蒼は、普通の人間よりも頭が良いのは当たり前のことである。蒼は少し気分が良くなった。

 

―このままだと、いい大学に入れるぞ!


 簡単な授業は、あっという間に終わり、それからしばらくしてチャイムが鳴ると、教室中が騒がしくなった。


「おい、蒼。行くぞ」


後ろから、伊吹がやって来た。とうとう、例の監視のお時間がやってきたようである。蒼は目を閉じて息を小さく吐いた。


「分かったよ」


  入江学園の高等部、中等部は渡り廊下で繋がっている為、中等部の校舎への移動は容易かった。


「まずは、生徒に聞き取り調査だな」


  伊吹はそう言うと、二年三組の教室へ向かって行った。そこは確か、伊吹の妹、千恵がいるクラスである。伊吹は兄妹揃って、同じ学校に入学したという訳だ。

 さっそく、教室のドアから妹の名を呼び出した。


「あ?お兄ちゃんじゃん、どうしたの?」


数人の友達と話していた彼女は兄の大声に顔をしかめながらこちらに来た。千恵は伊吹に似て、髪の色が、ピンク掛かった金であった。長く伸ばした、ストレートヘアはアイスクリームの様にも見えた。制服のスカートの丈は勿論、短かった。


「実はよ、千恵に一つ聞きたいことがあってさ。お前、秋山先生って知っているよな?」


それまで、陽気だった彼女の顔がガラッと変わって、顔からどんどん血の気が引いていった。これは何かあるに違いない、と蒼は確信した。


「あっ…秋山先生?知っているけどぉ?それがどうかしたのぉー?」


明からさまに様子がおかしかった。声は裏返っていた。


「大したことは無いんだけどよ、どんな感じの先生なのか、ちょっと気になっていてさ。コイツが」


と、伊吹は蒼を指した。一瞬、ムッとしたが、蒼はにこやかに答えた。


「あははは、俺の友達がさ、秋山先生のファンでさ…」


我ながらグッドアイデア、と蒼は自分で感動していた。着せられた濡れ衣を他の誰かに着せるという手法である。


「え…それは…辞めた方がいいかも…」


「なんでだ?」


「だって…」


「千恵ちゃーん」


千恵が何か言おうとした時、教室の中から彼女の友達が彼女を呼んだ。


「あ、私行かなくちゃ…じゃあね」


千恵は逃げるように教室の中へと姿を消してしまった。彼女は確実に何か隠しているような気がした。秋山先生とは、そこまで生徒から嫌われている人間なのか?それとも、ただ単に千恵が嫌いなだけなのだろうか…と蒼たちは頭の中で秋山湊人について様々な考えを巡らせた。


※       ※


「ねぇ、千恵ちゃん?今日のこと家族に説得できた?」


教室に戻った後、千恵は友人の紗香に小声でそう聞かれた。


「…うん、まぁ…」


苦笑いの千恵に、紗香は話を続ける。


「なんて説明したの?」


「キャンプに行くって…言っといた」


紗香は少々驚いた顔をした。


「キャンプ?よく許してもらえたね…」


「私が強引に納得させたんだよ」


「へぇ…」


「それよりさ、学校に無断で夜まで居て大丈夫かな?」


「大丈夫だよ、大人しくしてればバレないって」


自信ありげに言う紗香を不安そうな目で千恵は見た。


「でも、私…確信を持ったわけじゃないし…」


「何言ってんの?私たちが証拠を見つけないと、あの子達が可愛そうよ」


「うん、そうだね」


(/・ω・)/

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