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僕らにどうか青い鳥を!!!  作者: 汐音凛子
付き人① 秋野みすず編
8/15

Xファイルの大人たち

ドサドサと音を立てて、机の上からなだれ落ちる資料。聞こえてはいるが、拾い上げる気すら起こらず、自室のベッドに突っ伏している。



・・・なんなんだよ、あのおっさん!



つい先ほどの出来事に対する怒りがおさまらず、俺はシーツをぐしゃりと握りしめた。



結局、脅しともとれる発言にビビった俺は、しぶしぶインターンシップに参加することを決めたのだった。




「そうと決まれば話が早いね!君には、我が社で毎年恒例になっている、『付き人インターン』に参加してもらうよ。」



新聞社なのに付き人??よく意味を飲み込めずにいる俺を前に、意気揚々と慣れた様子で説明を続ける。



「私たちが貴重な情報を入手する時には、いつだって内側から攻めるのが鉄則なんだよ。ほら~敵には口を割らなくても、味方ならぽろっとね。」


話の合間に茶目っ気のあるジェスチャーを入れてくることも腹立たしい。睨み付けてやると、少しは俺の憤りが伝わったようだ。




「まあまあ、そんな怖い顔しなさんな!相手の懐にもぐりこむすばしっこさ、お宝情報を見落とすことなく拾い上げる収集力。それを身に付けられたら、君は一流記者のみならず、一流営業マン、一流検事にだってなれるはずだよ!!!」


「これは決して悪い話ではない。立派な社会人になるための良い勉強の機会さ。」



聞けば聞くほど胡散臭い台詞がどんどん出てくる。俺は思わず吹き出しそうになった。こんなの、ただ無料の労働力を手に入れるだけの口実じゃないか。



「給料とかもどうせ出ないんだし、毎年そうやってタダで働いてくれるバイト探してるだけなんじゃ・・・」



思わず心の声が漏れた。


やれやれという素振りでおっさんは俺の肩を叩いて慰める。



「もちろん、給料は出ないさ・・・ただ、君はこのインターンを利用して、かけがえのないものを手にする。それは君の人生にとっちゃ、仕事以上に重要になるかもしれんのだよ。」



・・・終始意味不明だ。


就活真っ只中の大学生に、就職先以上に大事なもんがあるもんか。良い企業に就職するために今の大学を受けた俺にとって、なおさら無縁の話だ。



「それにほーら!やってしかるべきだって運勢にまで出てる。」



先ほど若いOLが俺用に運んできた湯呑み茶碗を、おっさんは片手で握りしめ俺に向かって突き出した。


目を凝らしてのぞくと、珍しいことに、ど真ん中に茶柱がすっと立っている。




くだらなすぎて、ぐうの音も出ない。



「どうでもいいですけど、俺なんか頭痛くなってきたんで、本当に帰ります。」



おっさんに会釈して事務所から出ると、後ろからバタバタと追いかけられたが、構わずに進む。ちょうど降りるエレベーターを待つ間に追い付かれてしまった。


振り返ると、おっさんではなく秘書っぽい淡い水色の制服を来た女性が立っている。



「詳細はこちらにありますので、よくご覧になってくださいね。」



にこやかな営業スマイルをキープしたその女性は、俺がエレベーターに乗り込み扉を閉めきるまで、きちんとお辞儀をしたままだった。



扉がしまった後になって、やっと俺は解放された安心感からため息をついたのだった。




「・・・はぁーっ!!!!!!」


一連の流れを思い返しては、俺はまたため息をつく。あまりに大きな音で、隣の部屋まで聞こえているかもしれない。



うなだれたまま、作業用デスクからずり落ちた資料を指先で拾い上げる。


あの新聞社の名前が載っている大きな茶封筒は、しかしそれほど分厚くはなかった。鉛筆で薄くはしっこに、Xファイルと書かれている。まったくどこまでもふざけている。



中身を取り出してみると、A4の薄っぺらい紙が4枚だけ出てきた。



それぞれの紙のタイトルには、シンプルだが少し目立つ太文字で何かが書いてある。



・秋野 みすず 41才 (花屋勤務)

・井上 省吾 26才 (メーカー勤務)

・高梨 航平 52才 (建設会社勤務)

・宮城 純子 49才 (生命保険会社勤務)



よく見ると、名前の下にはそれぞれの写真と勤務先の住所、連絡先が記載してある。(読んだら破棄すること、と書かれた付箋までついている)



おいおい・・・⁉こんな個人情報まるまる渡していいと思ってんのか?このご時世に⁉


俺は手にした秘密の大きさに変な汗をかき始めた。



手伝う仕事の内容にさらっと目を通し、インターンの期間を全て自分の手帳に書き込むと、恐ろしい機密書類たちをシュレッダーで無きものにした。



ええぃ、もうこうなったらやけくそだ。


とうに内定はもらって、暇潰しがてらのバイトに復帰することも考えていたのだからちょうどいい。



気分転換にランニングでもしよう。もう夜の8時は過ぎているが、俺は部屋着から薄手のジャージに着替えた。



部屋を出る前に机のライトを消そうとすると、広げられたままの手帳が目に入る。



「付き人」


そう赤で何ヵ所か書きこまれているのを見ると、自分の字がなぜだか自分のものではないように見えて、少し気持ち悪かった。



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