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望まない再会

カーテンの隙間から煌々と差し込む月明かりをぼーっと見ている俺は、早く眠りに落ちることを待ち望んでいた。



カーテンを指先でずらして、出窓に置いてある時計に目をやる。すでに2時半を過ぎている。


はーっと深くため息を吐き、ベッドに仰向けになった体勢のまま、右手の甲で自分の額を押さえた。




大輔からの告白が脳内にこだまして、なんだかぐるぐるする。


『このまま社会に出るほうがよっぽどこえーなって。』



自分と同じで、少し冷めた考えをもっていると思っていた大輔が、大多数の人間が歩む道に、突然背を向けたのだ。


大人たちが口をそろえて俺たちに強要してくる「安定」を捨て去る。


その決意を秘めたあの目を思い出すだけで、俺はなんともいえない気持ちが胸にこみ上げてきた。



叶わない夢なんて一生みない。



そう固く心に誓ったあの日を思い出しそうになったところで、俺はやっとまどろみのなかに沈んでいった。





『ピピピピ!!!!!!』





うるさい小鳥のさえずりみたいな音で叩き起こされる。


いつの間にかうつ伏せに寝返りをうっていた俺は、枕に沈みこむ頭をなかなかあげられないでいた。


やっとの思いで起き上がると、ガンガンと重い痛みがこめかみにはしる。



携帯のアラームを止めてもなり続けている音が着信音であることに、そこでようやく気がついた。


光る文字で【母親】と記されている。



「・・・あー、もしもし。僕ですが。」


かすれた声を取り繕って言うと、聞き慣れた華奢な声が応える。


「あなた。大丈夫なの?今起きたみたいな声して。今日は講義は?」



「今出ようとしてたとこ。それより、何かあったの?」



聞くまでもなく大体想像できるのだが聞いてやると、もごもごと言いづらそうな雰囲気で話し出した。


「いえ、ほら、あのね・・・就職活動のほうはどうかしらと思って。色々受けたところの結果って・・・」


「問題ないですよ。父さんに薦めていただいた企業にも、すでにいくつか内定をいただいていますから。」



母親が言い終える前に、きっぱりと伝えてやると、電話越しに胸を撫で下ろしたのが伝わった。


「なら良かったわ!私からお父さんにも伝えておきますね。身体に気をつけてやりなさい。せっかく実家が近いのだから、たまには帰ってきなさいね。」



小声だった問いかけが途端に意気揚々となったことで、母親の後ろにはあの人がいることがすぐ理解できた。



電話が終わって時計を見ると、まだ十分に就活セミナーに間に合う時間だ。


しかし、憂鬱な気分から抜けられない俺は、どうしても大学に足が向かなかった。


航は部活の練習試合で、愛理もきっとその付き添いに行っている。円香は今日もインターンに違いない。


唯一、暇潰しに話しかけられる大輔も、今日は来ないだろうし。いや、というか今後就活の場であいつに会うことはもうないだろう。


とりあえず家を出ると、俺はなんともなしに歩き出した。


大学とは逆方向の緩い坂道を登り、学生たちがよく集うカフェの小道を横切り、緑が増えてきた所につくと、目の前にはこっそりと公園がたたずんでいた。



ジャングルジムの頂上に腰掛け、小学生が三人ほど一台のゲーム機をのぞきこんでいるのが見える。



はしっこにあるベンチに腰掛けていると、誰かが公園のフェンスの入り口から入ってくるのがわかった。


何の気なしにその人を見ていると、ブランコにゆっくりと腰掛けようとしている。


疲労の色が見える中年は、その位置から小学生三人のいるジャングルジムをじっと見つめているようだ。


かと思えば、ふいにジャケットの内側から野球ボールを取り出し、わざと小学生達のいる方向に転がしたのがわかった。


危ないおっさんだな。不審者だろうか?



面倒に巻き込まれるのはご免だが、見てしまったものは仕方がない。


紺色の半ズボンの少年がボールに気づいて地面に降りようとしている瞬間に、俺はおっさんの背後から声をかけた。



「何をしてるんですか?」



振り返ったその顔は、見覚えのあるものだった。



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