俺と仲間たち。
夕陽が傾きかけるこの時間、辺りは静寂に包まれていて、俺たちのいる食堂だけが、ぽっかりと切り離された気分だ。というか、そもそも俺のキャンパスは、都内にあるのに周辺が閑静な住宅街に囲まれていて、人が住んでいるはずなのに基本的には静かだ。かなり治安が良い街の中心に、緑が生い茂ったモダンな赤レンガの校舎がどっしりと構えている。由緒正しい名門大学なのだ。
体育会の野球部が、遠くの方でランニングしている声が聞こえる。俺は最悪な最終面接を終えて、いったん大学に寄ってみた。こうゆうときに一人になるべきではないのだ。
想像通り、カフェテリアにいつもの集団を見つけてほっとする。
とりあえず、俺は話を聞いてもらうことにした。
「それでお前、帰ってきたってわけ?」
頭を金髪に染めた航は、飲みかけの牛乳パックを勢いよく潰した。紺色のだぼっとしたパーカーに、白い液体が勢いよく飛んだのが見える。ラグビー部の主将だけあって、相変わらず肩幅が広い。体格だけでなく、態度と声とリアクションも常に人一倍大きい。そうゆう単純な所がなんとなく好ましい。
「ああっ!わったんのここ汚れたぁ~。こないだ買った新品のお揃いなのに。ひどいー!!!ゆっくんが驚かすこと急に言うからだよ!もう!!!」
航とおんなじパーカー(ピンク色)に身を包んだ愛理にとばっちりで怒られてしまった。今日は散々な日だ。
「笑える話ね。人一倍の内定キラーにそんな不幸が。だからちゃんと自己分析して面接行くべきって言ったじゃないの。数打ちゃ当たるじゃ意味ないって!!!大体、優は業界も職種もなんにも絞ってないでしょ?」
説教じみた言葉が似合う、品行方正の円香にそう諭されると、俺も何も言い返せない。俺たちの代の女生徒のなかで、いち早く有名商社からスカウトを受けたのだから、大したものだ。現に円香は、就活スタートが早まるとか、遅くなるとか関係なしに、入学した時から商社で働くことを目標に、英会話教室に通っていたのだから、その結果は当然ともいえる。
「円香は絶対に就活生相談室の先生がお似合いだよな。てか、今日の面接練習出るの俺だけだったから、優もスーツで安心だわ。」
確かに、いつもの面子の中でスーツを着ていたのは大輔と俺だけだった。
「ごめん、大輔。俺今日疲れたからパス。」
苦笑いすると、裏切り者~という大輔は俺の首に腕を回して締め落としにかかる。いつの間にか面白がってカウントをはじめた航。小学生みたいな遊びに呆れている円香と愛梨はいつものように近くで笑っている。俺たちはまだまだ学生気分で、こんな生活がいつか終わるなんて、誰もまだ思えないでいる。