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僕らにどうか青い鳥を!!!  作者: 汐音凛子
付き人① 秋野みすず編
14/15

伝わったコトバ


その日、久しぶりに愛理から電話があった。航の手術が無事終わり、状況も以前に比べ少し落ち着いたらしい。また顔を見に来てくれない?という内容だったが、俺はギリギリまで答えにつまって、やっとうんとだけ答えた。



航本人とは、あの後一切連絡を取り合っていない。



前回の気まず過ぎる訪問を思い出すと、顔を合わせるのが怖かった。仕方がないので、俺はダメ元で大輔も誘うことにした。



お見舞いの当日、予定の時間より多少早くに大輔と待ち合わせることになった。病院前の小さなカフェに先に着いた俺は、外の景色を見ながらコーヒーをすすっていた。



「よぉ!待たしちまって悪いね!」



カランカランと景気よく、入り口のドアに取りつけられている鈴が鳴ったかと思うと、懐かしい顔がそこにあった。



少し痩せたように見える大輔は、それでも嬉しそうにこちらに気づいて手をあげる。例の告白以降、なんとなく会う機会が減っていたのだが、慣れ親しんだ友人関係には、会わない時間などそれほど関係ないものだ。



大輔も俺と同じブラックを頼み、注文を待っているあいだに、今回の状況を俺は簡単に話した。



「へぇ。怪我のことは愛理に聞いて知ってたけど、やっぱ結構こたえてるんだな、航。」



しんみりした顔をしてうつむく大輔。いつの間にか店内には俺たち以外誰もいない。古めかしい店内には、流行遅れのスターのポスターが張ってあり、小さくjazzだけが流れている。



話題を変えるために、俺は最近調子どうなんだ?とふってみた。



大輔は就活を辞めてから大学に行っておらず(俺と同じく、必修単位はもうほとんど取っている)、暇さえあれば漫画を書いているそうだ。



「冬に少年漫画の新人賞があってさ、それに間に合わせたいんだ。最近は、バイトを通して知り合った漫画の大先生のとこお邪魔して、背景の書き方とか単純な基礎から学び直してるとこ。」



生き生きとした表情の大輔は、なんだか前より楽しそうだ。ただ、やはり親は急に進路を変えようとしている息子に戸惑いを隠せないようで、言い争いは絶えないらしい。



コーヒーを飲み終わると、俺たちはそそくさと病院に向かった。



病室のドアをあける瞬間、俺だけが躊躇していたが、大輔が先陣を切って中に入っていったので、後に続くしかなかった。



真っ先に航と目が合ったが、思わずそらしてしまう。



そんな気まずい雰囲気を知ってか、大輔は愛理と何気ない会話を続けている。話が途切れる頃になって、やっと航がぼそっと言葉を発した。



「優、こないだはつっかかってわりぃな。」



「わりぃ、じゃなくて、ごめんなさいでしょ!!!」



すかさず愛理が渇を飛ばすと、続けざまにこんな話をした。



「ゆっくんが、こないだお見舞いに持ってきてくれたお花あるでしょう?偶然にも、ダイヤモンドリリーだったから・・・」



彼岸花みたいな形なのに、淡いピンク色の女性らしいシルエットをしたその花束を、俺に渡してくれた秋野さん・・・

愛理のおかけで、初めて俺もあの花の名を知ることができた。



「それにあたし、航に教えてあげたんだ。あの花の花言葉。『また会う日を楽しみに』っていうんだよって・・・大切な人の再生を願う、素敵なお花なんだよって!」



照れ臭そうに苦笑いする航の枕元には、まだ枯れていないダイヤモンドリリーが飾られている。美しい花瓶に包まれて、うっとりと佇んでいるようだ。



「時期外れなのに、わざわざあれを選ぶあたり、実はゆっくん、航のこと本当に大事に想ってるんだなぁって、ね~?」



恥ずかしさを煽るような愛理の発言に、ほとほと困った顔の航は、それでも何度も俺に悪かった、と潔く謝罪した。



怪我について、まだまだアイツが解決すべき問題は山積みだが、こうして俺たちに心を開いてくれただけで十分嬉しい。全部を一緒に背負うことは出来なくても、話を聞くことだけでも支えになれるのならそれで俺は満足だ。



俺と航の仲直りの様子を脇でじっと見ていた大輔は、なんだ痴話喧嘩だったか、と呟いた。それを聞いて嫉妬する愛理がギャーギャーうるさい。そんな愛理の頭を撫でる航。こうして、いつもの平和な空気感が俺たちのなかに戻ってきた。




それにしても・・・今思えば、秋野さんは俺に秘密のままあの花を業者から特別に取り寄せてくれていたんだっけ。(カーネーションを仕入れてくれるおじさんの便で一緒に運ばれてきたのを、俺は見かけて知っていた。)



明日のバイトで、花の言葉をちゃんと受けとってもらえたことを早く伝えたい。

またにっこり微笑んでくれるだろうか?あの人は。



そんなことを思って、俺もついうっかり笑みをこぼした。



「おい!何一人で笑ってんだよー優!やっぱ俺お前ちょっと怖いわぁ。」



あまりに賑やかな俺たちの病室に、看護婦が駆けつけるのもおそらく時間の問題だろう。




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