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春筍

「おおい、蓬!何してる!さっさと行くぞ!」


玄関先で声を張るのは我が家に突然住み着いた狐こと、織上芙蓉。そんなに急かす必要などないだろうに。と、溜息をこぼすは菜丘蓬。


「月並みなセリフだけども、そんなに急いだってデパートは逃げないって。あ、商品は随時逃げるとかいうツッコミはナシね」


「デパートって何?」


「お前それわざとだよね。デパート知らないわけないよね」


「うん!あ、あとデザートも知ってる!」


「胸はって言うことじゃないぞ」


「デザート食おう!」


(あ、だめだこいつ。当初の目的を忘れて食欲全開になってる)


蓬は出発前からあらゆる意味で不安を隠せなかった。



(まいいけど・・・とりあえず、今日の目的を再確認しておこう)


まずは、食材の調達。

結局昨日は騒動のせいで食材の調達には至らなかったので、第一にこれを目的とする。芙蓉がいつまでウチに居座るつもりかは知らないが、まぁ間違いなくしばらくはうちで暮らすことになるだろう。それを踏まえて今日は多めに買い物をすることにする。


その次に芙蓉の服を見繕う。

あくまで二の次に設定しているのは、必ずしも生活面で必須となるわけではないからだ。

だがやはり、芙蓉も女であることを考えると、いつまでも俺のお下がりを着せておくわけにも行かないだろう。初めて出会った時に着ていた服しか持っていなかったようなので、多少は女物の服を見繕わなくては、ということだ。


(まぁ・・・・何よりの問題は、主に下着とかだったりするのだけど)


せめて下着くらいは複数持たせておきたい。でなければ、芙蓉は今後ズボンの下はノーパンか、今みたいに俺のトランクスで過ごす生活を続けなきゃならなくなる。それはさすがにあんまりだろう。当の本人は別にノーパンでも構わないと言っていたが・・・・それは蓬の道徳を試されているのか。とにかく、モラル的に却下された。


服装以前に、蓬としてはもう芙蓉が町中を歩くというだけでもだいぶ不安なわけだが。


神様あるいは妖怪か、よくは理解がないものの芙蓉は少なからず、普通の人間にも姿が見えるらしい。昨日のスキンヘッド一味の反応がそれを証明している。漫画のように普通の人間には見えないなんてことはないようである。つまり一般人にこいつの狐耳やら尻尾を見られたら、騒動になりかねないことを懸念しなくてはならないということだった。


蓬は靴を履きながら、念のためもう一度芙蓉に確認した。


「・・・・なぁ、やっぱりその耳と尻尾って消したりできない?そのビジュアル素敵アクセサリってごまかすのも無茶だし問答無用で変人確定すけど」


「変人とは不届きな。神様の身体的特徴をディスるとか呪ってくれようか。けど無理なもんは無理だ。私は霊術そういうのは苦手なんだ」


「狐なのにか」


「狐差別だ」


なんとも漫才みたいなやり取りだった。そういうわけで、しょうがないので芙蓉には耳を隠すためにキャップをかぶってもらっている。


・・・・・ただし、どうしてもあの大きくてもふもふな尻尾を隠す手段がないので、キャップの方も気休め程度だったりする。なんであれ、何もないよりはマシだろうくらいの感覚だった。なので尻尾は諦めてそのままである。


尾てい骨あたりに生えているようなのでデニムを押し下げて半分白い桃が姿をちらつかせているが、力不足ゆえどうしようもない。


「さあ、そんなことより早く行くぞ。準備に時間かけやがって、女かお前は」


「このツラ見て女に見えるか?」


「はっ。冗談は顔だけにしろ」


「急に辛辣になるのなんなの?泣くよ?俺」


蓬が靴を履き終えるや否や、芙蓉はその腕をグイグイと引っ張る。


芙蓉に連れられるがままに家を飛び出すと、その先の長い階段を駆け下りた。

天輝神社は山の中腹付近に建つ神社であるがゆえに、石階段を登り降りしなくてはならない。蓬は芙蓉に引かれて危うく転けそうになりながらも、街を目指して歩を進めていった。


今日は天気がいい。それに比例するように芙蓉の機嫌も良かった。

燦々と照る太陽のように、芙蓉もまた笑顔が輝いていた。


「で、今日はどこ行くんだ?」


「わかんないくせにどーして先頭歩くの。自主的な迷子希望なの?はぁー・・・まったく・・・海藍町。俺らが会ったとこ」



まぁ、一応そこ以外にも店はあるが、海藍町が何かと物を揃えるには都合がよかったりする。商業区なだけあって、ありとあらゆる店がところ狭しと密集しているがゆえに、目的さえはっきりしていれば必要以上に足を伸ばす必要がなくなるのだ。何より近いし。特に理由がない限りはほとんど海藍町で決まりである。


「あれ、あっちってよくわかんない男がいるとこじゃんか。いいの?」


「あーゆーのは夜に出没するもんだ。昼間からほっつき歩くほどあいつらも暇じゃないだろ」


芙蓉が警戒するのも当然かもしれないが、そういう見立てもあってそれほど遭遇する危険性は視野に入れてないかった。会ってもたぶん何とかなるし。というか、今までだって案外何とかなってきたし。


(ま、昨日は芙蓉が来なかったらどうなってたか・・・。ボコられてたか構わずヤられてたか・・・だから・・・・まぁ、感謝してるけど)


そんなことを正面切って言うような蓬ではなかった。


「ふうん、おまえがいいならいいけどさ。」


そう言って芙蓉はまた早足に歩き出した。


毎度2500字程度を目安に投稿してるんですけど、もう少し多めに文章を書いての投稿のほうがいいんでしょうか。

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