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甘恋ひ -雨ときどき霊-  作者: 水屋七宝
小雨【序章】
5/67

ピースピース

今回はちょっぴり文章多め。とか言う割には倍ぐらいの量がございまする。頑張って読んでくだされ。

「・・・もしかしたら俺、お人好しなのかも・・・・」


己の甘さに頭を抱えるが、時既に遅しというか、あとのまつり。

あの狐神の少女の話を聞いてしまったがゆえに心に抱いた同情心は、思った以上に大きなものだった。生まれてこのかた野宿しかしてないと言われては、固かったはずの決心も揺らいでしまった。

散々悩んだ挙句、蓬があの少女に与えたチャンスはじゃんけんに勝ったら少しの間だけ泊めてやるというものだった。


そして、このようにして情けをかけてしまった結果が敗戦である。


「最初はぐー」と俺が言う。

同時に狐神の少女がパーを出す。


「勝った!」と言うや否やのウィニングラン

      ↓

リビングのソファへダイビング

      ↓

テレビのリモコンを手に取りドヤ顔



どう見ても不動の構えである。



開いた口が塞がらないまま狐神の少女見ていたが、少女の再び発した「勝ったからな!」の一言でようやく我に返る俺。


「・・・はぁ・・・・・。いいよ、どーぞ。好きにしなよ」


仕方がない。作戦負けだ。そういうことにしておいた。

というか、割り切らないとどうにもこの先やっていける自信がない。それに・・・・


「やたっ!ちょっと憧れてたんだよなー、屋根の下の生活って!」


狐神の少女は嬉しそうに笑い、ソファの上を存分にゴロゴロしているのをちらと見やり、蓬は思った。


(・・・・・この笑顔を崩してしまうのは、なんか男としてやっちゃいけない気がするし)


人のことはお構いなしに、この狐は言った。


「ふふふ、屋根の下で女が二人っきりでもうドキドキしっぱなしなのがよく分かるぞ」


ただ、調子に乗らせるのはマズいと蓬の直感は囁いた。


「そっすね。いやそうじゃないっすね。俺男です。まぁ?これからエンゲル係数が倍以上に膨れ上がると思うともうドキドキしっぱなしではあるけどさぁ」


「くっくっく。その係数がたとえマックスに至っても許可無く私に触れることは許されんから覚えとけ」


(・・・・間違いなくエンゲル係数の意味理解してねーわ。たぶんなにかドキドキ指数的なものとか思ってるわー)


「で、エンゲル係数って何?ドキドキ指数的な何かか?」


「うわスカッとするほど、ディスインテリジェンス」


さて、仕切り直して狐を飼育することを決めた蓬は、とりあえず気になることから片していくことにした。


「つーか、聞きたいんだけどさ。お前、今まで野外生活なんだろ。その間風呂はどうしてたんだ?」


「え、入ってないけど。」


ビシッと蓬は音速で風呂場の方向を指差した。


「行ってこい」


道理でやたら獣臭いと思った。いや、狐だから仕方ないのかと思っていたら、決してそんなことはなかった。


「あ、でもちゃんと川で水浴びしてr」


「行ってこい」


「毎日入っt」


「口答えせずにとっとと行きなさーい。湯は沸かしてあるから。・・・・・あーあ、どうして俺がこんな母親みたいなこと・・・・」


そしてさらば1番風呂。

2番風呂なんて何年ぶりだろうな。


「・・・・はーい・・・・」


狐神の少女は超しぶしぶといった面持ちで風呂場を目指す。菜丘家にて預かると決定したのはいいが、あくまでルールは主人にあると、それだけは肝に銘じさせなければならない。


「風呂の位置はそこの廊下を突き当りまで行って右ね。タオルは脱衣所に置いてあるから。着替えはあとで持ってくけど、男物しかないのは我慢してね他人がどう言おうと俺男だから」


「ん、わかった」


少女は今度は素直に頷いた。


少女が廊下の奥へ歩いて行くのを見送ると、なんかどっと疲れが出てきた気がしてソファに座り込んだ。ただ買い物にでかけただけなのに面倒を拾っただけである。


いつものように街へと出向き


変な男たちにナンパに遭い、


狐神に遭遇し、


「・・・・・・はぁー・・・」


落ち着いたら、文句ばかりがこみ上げてきた。


バラエティ番組にできそうなくらいめちゃくちゃ突飛な出会いだ。星占いの神様は強引なのがお好きなのだろうか?やっぱり次回は3位くらいでお願いします。


というか新たな出会いがなんとかっていい加減にもほどがある。誰も未知との遭遇なんて望んじゃいないというのに、しかも出会いの直後に同居に発展するとか運命とはこれいかに。


ついには、蓬は自分がこんな見た目をしていなければこうはならなかったんじゃないかと、根本的なところから難癖をつけ始めた。


この歳になってまで髪の毛なんて伸ばすのは悪手だったかもしれない。

切ってしまってもいいのだけど、古い習慣に慣れすぎて短くするのはいささか気が引ける。この髪が一番影響して、自分を女に仕立ててしまっているのはわかりきっているのだが、猫のひげが如くこの長さがなんともバランスが良くてどうにも美容院へ行く足を渋ってしまう。



果たして切るか、切らざるか。


(・・・やめとこ・・・髪で悩むとか乙女か俺は)


そろそろ風呂場に着替えを置きに行くことにしようと思い、蓬はその場を立った。

狐の少女ももう浴室の向こうにいることだろう。蓬の直感が正しいなら、そろそろ悲鳴が聞こえてくるはずだった。


蓬はのんびり寝室に向かい、そこのタンスの中から自分の服を取り出していた。


蓬の今の身長は165cm。男にしては低めの身長だが、対して狐神の少女は頭のてっぺんが俺の鼻に届くくらいの身長だ。推定150cmと見た。多少ダボダボだろうが致し方ない。


適当に選んだのは白いTシャツと至って普通のジーンズ。ブラとパンティーは、諸事情につき一応あるにはあるが・・・・おそらくサイズが合わないと思われるので選択肢に入らない。


「これでいいだろ」


そう呟いた瞬間だった。


『ひゃああああああああああああああああああああああつめたつめたつめたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


「やってるやってる」


ウチのシャワーはバルブを開くと最初は確実に冷水が出てくる。あの様子だとシャワーを使った経験もなさそうだったので、存分に冷水を堪能するだろうとは予想がついていた。


『ア゛っ!ゔぇっ!あづっあ゛っづぅううううううううううう!』


どんがらがっしゃーーーーーん!と愉快な音。


「見事にフルコンボ食らってやんの」


冷水から突然熱水に変わるので一粒で二度美味しい。まるでグリコのキャッチフレーズのようである。


悲鳴が聞こえたということは間違い無く狐神の少女は浴槽にいるということ。脱衣所で鉢合わせ、なんてことにならずに済むのだ。かりんとうの恨みは一矢報いたか。すでに反撃は食らわせているが物足りなかったのでお茶目な一撃おかわりである。


ひとまず蓬は狐神の少女のことなど気にせずに脱衣所へ侵入。着替えだけ置いて、さっさとその場を後にしようとした時だ。


「・・・・・・・」


ガラリと背後で戸の開く音がした。


「・・・・・・おい、先に言えよこういうの」


背後から怨嗟の声。おう、おっかねぇ。


「悪い。そういう仕様なんだ。ちょっと待てばいい感じの温度にになるからいでででででででででで!!」


ガブリと後頭部に噛み付かれた。

蓬はこのとき、憎しみが何を生むのかを肌で理解した。


ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


「悪かったから、機嫌直せって。ほら、コーヒー牛乳あげるから」


「・・・・・・・・・・・・・・ん。」


そんなこんなでお互い風呂を済ませ、リビングのソファに座ってコーヒー牛乳を飲んでいた。

ソファは3人がけできる大きさのもので、二人並んで腰掛けている。


片方はものすごく不機嫌そうな顔で、もう片方は特に何事もなかったかのような無表情。勿論不機嫌そうなのが狐神の少女の方。無表情なのが蓬の方。


風呂あがりの狐娘は髪を乾かしておらず未だ湿っていて、ふさふさだった尻尾も水に濡れてなんだかみすぼらしい様子になっていた。頭にタオルを乗っけてあぐらをかいて座っているが、頭に狐耳が生えているものだからそのシルエットが浮き彫りになっている。

着替えの俺の当り障りのない普段着をちゃんと着てくれている辺り、その辺の言うことにはちゃんと従ってくれる模様だ。



機嫌を損ねた狐神の少女にはそれ以上話しかけづらい雰囲気だったので、今はお互い目の前のテレビをぼーっと見つめていた。


ミステリ・サスペンス物のドラマだった。最近急展開を迎えて人気を博しているとか何とか。

タイトルは『廻天下の星』。


蓬もたまに見る程度だからおおまかな内容しか把握していない。

この物語には男女二人の主人公がいて、互いに面識はないが存在は把握しており、この二人の行動がお互いの行動に影響し、すれ違い交錯していくという展開がこれまた巧妙であることが人気の秘密のようだ。似たようなテーマの映画にバタフライエフェクトというのがあったなと、なんとなく蓬は思い出す。


画面内ではその主人公らしき二人の男女の視点が入れ替わり立ち代りでストーリーが進んでいく。


主人公たちのセリフの中にも多くのオブジェクトに関する説明が含まれていて、話の途中から見ててもなんとなくその内容は把握できる。


セリフ選びも展開も、人を引き付けるには十分すぎる。そこに更にカメラロールも加わって、更に臨場感が溢れる作品となっている。


ちら、と隣を見やると既に身を乗り出してまでテレビにかじりつく狐神の少女がいた。

他人のこういう反応を見ると、改めてこの作品って面白いんだなということを実感させられる。

それと同時に、やはり物書きを目指す身の上としてはこんな作品を書いてみたいなと思ってしまう。


そうこうしているうちに既にエンディングに入ってしまった。時間が経つのは早いというか、ちゃっかり蓬ものめり込んでいたらしい。


ふぅ、と小さく息を吐いてソファの背もたれに倒れこむ。その時に蓬は自分の口が乾いていることに気づいて、コーヒー牛乳を飲もうとしたがマグカップの中はとっくに飲み干していたようだった。すると、目を輝かせた狐神の少女が声をかけてきた。


「なぁ、なぁ。これすげーな!ちょーおもしれーな!」


すっかりご機嫌を取り戻しているようだ。


(というか、こいつアホっぽいからなぁ・・・・怒ってたの明後日にポイしてそうっぽい)


そう思うと、なんとも単純で思わず笑いが込みあげた。


くす、と笑って、「そうだね」と簡単に返事だけした。


「これ来週もやるよな?えっと・・・・タイトルなんだっけ」


「廻天下の星だってさ」


「そっか、覚えとかなきゃな!」


そう言って狐神の少女は立ち上がり、その場でぐ~っと伸びをした。


その様子を見て、蓬は壁掛けの時計に目線を移す。時刻は11時を指していた。そろそろいい時間だ。


「・・・ん・・・なんか俺も眠くなってきた・・・」


となると、こいつに布団を用意してやらなきゃな。そう思って蓬は立ち上がる。それとほぼ同時に、狐神の少女が「あっ」と言って蓬を見た。


「もうひとつ覚えとかなきゃいけないことあった」


「・・・・?なんかあったか?」


「名前だよ名前。お前の」


「・・・・・あー、そだね」


割と大事なことだ。別に忘れてたわけではない。蓬としてはこいつとはすぐに家を追い出す予定だったから特に興味を持たなかっただけで、必要性を感じなかったのだ。


「私は『織上おりがみ 芙蓉ふよう』お前は?」


「『菜丘なおか よもぎ』」


「ヨモギか。お前らしい名前だ」


芙蓉と名乗った少女はくっくと笑った。


「え、人の名前笑われると軽く凹むんだけど。いやどうでもいいけど」


「や、わりーわりー。なにせ花言葉は、平和と静穏だからな。物静かなお前にピッタリだ」


「ふーん。・・・そういうフヨウは、ちっとも名前通りじゃないね」


芙蓉は笑うのを止め、「え、」と固まった。


「お前がお淑やかって、どの面下げて言う気なの?母の日にハイビスカスの代わりに白菊あげるくらい不可能。ま、その日が葬式とかなら話は別だけど」


「ひどっ!?酷くない!?お前そんな可愛いツラしてすげえ毒持ってるね!?ヨモギと見せかけてトリカブトだろお前」


「そーね。あ、お前もさ、芙蓉と見せかけてなくても紅菊とかだろ」


「その心は?」


「ダイナミック」


「う、うがーーーー!名前なんて関係ねーんだよ!悪かったなそそっかしくて!うるさくて!線が太くて!」


「んなこと言ってねぇしいだだだだだ!頭皮が!逃避を!」


実際、黙ってれば絶対可愛いのに。絶対余計に痛い目に遭うから決して口には出さないけれど。




--------------------------------------夜は深くなりつつあった。


空は晴れていた。

月はもう見えなくなったけど

そのかわり星は多くまたたいていた。


これは別に大した話じゃない。至って小さな物語だ。蓬と芙蓉のちょっとした生活の物語というのも少しはばかられるくらいのほんの、小さな。

言うなれば、日記のようなものだろう。

あとから読んでおもうんだけど主人公の心情描写がダサくて目があてらんねえわ文章がみみっちいなおい。しにてえ

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