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甘恋ひ -雨ときどき霊-  作者: 水屋七宝
小雨【序章】
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異能と異形の自己紹介

「私は狐神きつねがみなんだ」


少女はそう言った。


向い合って座る台所に、一瞬の静寂が生まれた。




狐神。



なるほど。確かに狐だ。蓬は少女の姿を見て、すんなり納得した。

犬や猫にしては大きな尻尾をしているし、たまにテレビで見るような、狐によく似た二等辺三角形の耳。髪や尾の色もこれまた見事なきつね色。これだけで十分、狐と見るに足りる容姿だった。


まぁ、容姿だけ見れば。誰が見てもひと目で狐と気づくことだろう。

だが・・・・正直、蓬にはこの女が本当に狐なのかどうか、結論付けるのをためらう要素があった。


それは服装。


狐娘と言うと、蓬の知識の中ではどこぞの漫画やらアニメやら、たいていが和装をしている。

蓬も、こいつは和傘を持ってたものだからてっきり和装なんだろうと思っていた。

だが少し・・・・いや、かなり違った。


なんと例えるべきか、蓬は類似の衣類を知識にあるものと照らし合わせる。

敢えて命名するなら・・・・・ヨーロピアンチャイナ、とでも呼ぼうか。

トップスはよくある赤いチャイナドレス風のものなのだが、あの独特のスリットやタイトな感じがなく、中華風のジャケットに近い仕様になっている。


それとボトムス。何を思ったか、桃色のチェックのプリーツスカートだった。


兎にも角にも、そんな謎服装なものだから、やはりひょっとしたらコスプレか何かなのかも知れないと思ってたりしていた。そうか狐神かなるほど。と半ば自動的に納得した。


「えっと・・・・・で?」


「で?・・・・って、驚かねーの?目の前に人外がいるのに?」


「はっきり言ってどうでもいい」


「どっ・・・・」


「別にお前が何者かなんて聞いてないよ。俺が聞いてるのは、家まで送る必要があるかってことなんだけど。」


蓬としては早くお帰り願いたいのだ。

どうせこういうたぐいの人外娘にはろくでもないものがつきまとってるものだ。例えばどこかの組織に追われてるとか、そうでなくてもドラマチックひじょうしきてきな運命を抱えてるとか。参照はすべて絵巻物語マンガやら何やらではあるが。


・・・・蓬はどうあってものんびり生きたいと願っていた。それこそ隠居生活のような。そのためにはこんなトコロでフラグなんて立ててられないのだ。


「私はいいとして、寧ろ襲われる心配するのはお前のほうだろ」


「・・・・・それもそうだ。」


なにぶん、蓬自身もこんな容姿だ。


どこがいいのか蓬自身知れないが、あのスキンヘッドハゲの一味の反応からして、どうやら男ウケしやすい顔立ちであること請け合いである。

根が面倒くさがりな性格のためか、どうやら押しに弱い雰囲気をしているらしい。サカリの激しい男はこれみよがしに付け狙うという寸法だ。


「損な人生だな」


そのいわれように、蓬はかちんと来た。


「わぁ、キレそう~。何も知らねえやつになんか貶されてる~」


「分かるとも。お前の話や、その『匂い』は。お前は隠してるつもりはないんだろうけどな」


ニヤニヤしながら狐の少女は言った。


「お前、男だろ。ああ、お前からはオスの匂いがする」


まさに核心をついてやったぞ、と言ったしたり顔で狐の少女は蓬を見る。いやらしい笑みだが、蓬は口をつぐんだ。


「・・・・・む・・・・」


「ほら、図星だ。」


一層少女は得意げに言った。さっき蓬がどうでもいいといったことに対する仕返しのつもりかもしれない。


「・・・・・別に慣れたよ。こういう見た目で悪いことばっかりでもないし」


「健気なこった」


「わぁ、うぜぇ~。さすが女狐めぎつねうぜぇ」


まるで見透かしたような物言いがチクチク俺の心を突っつくみたいだ。これ以上話を続けると、こういうタイプの女はつけあがるものだ。そうなる前に、蓬は強引に話を切り上げることにした。


「・・・とにかく、帰るなら早く帰る。飯もやったし、もうこれで貸し借りなしだろ」


「え、」



「・・・・・・・?」


・・・・・・え、ってなんだ。

きょとんとする狐娘。蓬が言ったことを理解できてないということはないと思うが。


「だから・・・・もう用はないだろ?帰れよ」


「あ、いや、・・・・だからな?・・・・私、狐神なんだよ。」


自分を指さして少女は言う。

話が噛み合ってない気がするのはきっと気のせいじゃない。目をそらしてるあたり、言い難いことを言おうとしてるのは明白だが。


「だから、なんなんだよ。狐神だとなにか不都合でも・・・・」


そこまで言って、はっと蓬は気づく。まさかとは思うが・・・・・いや、十分ありえる。


なんか変な神様ちょしゃが妙なフラグを全力で立てようとしてるような気がする。

ここまで漫画みたいな展開が続くと、流石にその存在を疑いたくなる。


えっとだな、と目の前の狐神の少女は少し溜めてから、仰られた。


「私、家ないんだ」


家ないホームレスではなくて、言えないの聞き間違いだと信じたかった。

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