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無題アフター

一方その頃。蓬はというと。


「・・・ふぅ。あー焦った」


 嘘泣きに加え、あのハッタリ。ここまでしたのは初めてだ。

 洗濯カゴを抱え、逃げるようにリビングを出たトコまではいいが、それでもどうにも心は落ち着かなかった。かごの中身をしまいに行くでもなく、どうしようと考えれば考えるほど頭は真っ白になっていき、結局リビングの扉の前にへたり込んでしまった。


 『家族』

なんて言ってしまったのは本当に無意識だった。そのくらい芙蓉は生活の一部として馴染んでしまったのだろうか。そんなに芙蓉という存在は、自分にとって身近なところにまで来てしまったのだろうか。

 たぶん、俺と一番仲の良い友人であろう甘夏にだって、こんなふうに感じたことはない。


・・・・・っていやいや、それじゃあまるで芙蓉のこと、ホントに家族みたいに思ってるってことになるじゃんか。


 ぶんぶんとかぶりをふって「ナイナイ、アリエナイカラ」と呪文のように繰り返す。しかし、結局ため息を付いて膝を抱えてしまった。


「・・・・・・かぞく、か・・・。」


考えても見れば、家族のことを考えるのはいつぶりだろう。物心ついた時から、俺は一人だ。そう望んだわけでもなく、そういう運命だったのだ。

 両親は死んだ。兄妹も死んだ。みんな一緒に事故で逝ってしまった。俺がずっとちっちゃい頃に家族はいなくなってしまった。唯一俺を引き取ってくれた爺さんも、少し前に寿命で逝ってしまった。

 俺の身近な誰かが死んだ時、どの時も俺は泣かなかった。あっさりその現実を受け入れてしまったのか、それとも信じられなかったせいか。どちらにせよ、家族のために泣いたりはしなかった。両親の記憶は希薄だ。しかし、俺のことを愛してくれた。そういう記憶は残っている。写真に残った家族の顔は、俺も含めみんな笑顔だった。だから、きっと幸せな家庭だったんだと思う。

 けど、芙蓉は違う。会って間もない、人間ですらない超常的な存在。成り行きで一緒にいるだけの、つかの間の、俺という人生の中の通行人みたいな存在にすぎないはずだ。もとからあいつに興味なんて持っていないはずだった。


 でも、だったらどうして、あいつに家事なんて教えようとしたんだろう。


 のんびり生きられればそれで満足だったんだ。騒がしいのは好きでなかったはずだ。だから、今まで何も求めて来なかった。与えられるだけのものは拒絶してきた。何でも自分でこなそうとして今までそれができていた。だから、何かを失うことになっても、決して自分は失わない自信があった。それが当然だと、運命だと受け入れる自信があった。なのに。


 なのに、いつか。芙蓉と別れる日が来る。そう思うとなんだか____。


「・・・・・・おかしいな。俺って、こんなに弱かったっけか」


 一人が当たり前だった。その頃を思い出して、肩を抱く。すると、さっき芙蓉が触れたところにぬくもりが残っているような気がした。


『オレたちもう、家族みたいなものだもんなぁ』


 耳元でそんな風に囁かれたのを思い出して、また顔が熱くなった。


「かぞく、か。」


さっきと同じことをまた呟いた。けれど、さっきとは少し違う実感が芽生えていた。口元が少し緩んでいることに、自分で気づくことはなかった。


 さて____と、気持ちが落ち着いたところで立ち上がる。


「ま、そういうのも痛゛っ!」


 立ち上がった、ところで急にドアが開き、後頭部を強打した。


「えっ、あ。・・・ゴメン」


「いや・・・・ダイジョブ・・・・」


ドアの前に座り込んでた自分も悪い。それがわからない俺ではないのだ。


「あ、よもぎ。一応残りの洗濯物畳んどいたんだけど」


言われて、後頭部を押さえながら芙蓉の手元を見る。確かに、一応教えたとおり畳まれた衣類がそこにあった。若干雑なのは変わらないが・・・俺はくすりと笑って、まあ及第点かとそれを受け取った。


「あのさ、よもぎ。」


さっきのことを気にしているか、なんだか芙蓉は俯いてもじもじしている。ひょっとしたら怒っているかな、と思っていたので、これは少し意外な反応だった。


「うん?」


「さっき、よもぎが言ったこと。あ、よもぎはそんなふうに思ってないかもしれないけれどさ。私、その、よもぎがさ、家族って言ってくれて、嬉しかったんだよ。」


・・・・・ちょっと、面食らってしまった。

俺はぽかんとしているので、芙蓉はなおも続けて言う。


「私さ、まぁ、神様こんなのじゃん?だからさ、姉さんみたいなのはいるけど、長いことずうっと一人ぼっちでさ。よもぎに会って短いけど一緒に過ごして、こんなに楽しいの、初めてなんだ。だから、・・・・だか、ら・・・さ。かぞくって言われて、うれしかった。よもぎにそう思ってもらえてたかと思って安心したんだ。わた、わたし、もうちょっとだけここにいてもいいかなぁ?」


後半、芙蓉は泣きそうだった。まるで、別れなきゃいけない時がすぐ迫ってきてるみたいな言い回しを感じた。少しでも長くここにいたいと、そう物乞うような願いだった。

 確かに、初めて会った時の話では少しの間だけ家においてやるって約束だっけ。


 そんなもの、俺はとっくに忘れていたというのに。


俺は芙蓉の頭に手を置いて。くしゃくしゃと撫でてやった。すると、芙蓉は不安そうな顔を上げた。目にはいっぱいの涙が蓄えられていた。


「ま、・・・・そういうのもアリかな」


照れくさくなって顔を背けると、芙蓉は胸に顔を埋めてきた。


「・・・・あ・・・・・あり゛がどう・・・・・・・・」


芙蓉の普段はピンと立った狐耳が、今はしおらしく垂れているのが妙に愛らしく感じた。


ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


「はあああぁぁぁぁ~~~~~~~しっかし、いっぺんにまとめて家事をすると疲れるもんだ」


ソファにバタッと倒れこんだ俺は、凝りに凝った肩をほぐすようにぐるぐると腕を回す。

 結局この日は掃除に洗濯、買い物に料理と専業主婦さながらの家事三昧だったわけだ。洗濯物は量が少ないとはいえ、この家の掃除は大変である。なにせ家内はともかく、境内ややしろの中まで掃除するとなると本当に骨が折れるのだ。神社とは神聖な場所。神様を祀り、神様と人と接するための場である。だから決して掃除を怠ってはいけない。この神社の管理人としてそう教えられてきた俺は特に神様に興味もなかったが縁起のこともあって掃除だけは欠かさずやっている。それゆえ、体の疲労も人より溜まっているのだ。


「お疲れさん。いつも頑張ってるんだな、よもぎ」


そう言って芙蓉は、頼んでいないのに俺にコーヒーを淹れてくれた。


「おお、さんきゅー。気が利くじゃない。」


「ううん、礼を言わなきゃいけないのはこっちだって思ったよ。ありがとね、よもぎ」


にっこり笑った芙蓉にどきりとしたのは、さて、今まであったかな。なんて苦笑いは、すぐに淹れてくれたコーヒーが濃すぎるからという理由に変わってしまったが。


「ところでさ、よもぎ。私、思ったんだけど、境内の掃除くらいなら私でも出来るよね?」


その申し出は、ある意味願ってもいないことだった。


「・・・・・お前、いきなりそんなにやる気になられるとかえって怖いんだけど・・・」


「私だって、よもぎの手伝いしたい時だってあるさ」


頬を膨らます芙蓉は、自分なりに礼がしたいと思ってるんだということを察した。せっかくの申し出だ、無下にするわけにいかないし、それ以上に人手が増えるのは助かるし嬉しかった。


「じゃあ、頼むよ」


「おう!」


嬉しそうに芙蓉は頷く。雨が降ったわけでもないのに、地が固まったようでなんともフクザツな気分だが良い傾向なので文句はない。悪くない一日だ。そう思ってまた一口苦すぎるコーヒーを啜った。


「つうか、肩こりも結構つらそうだな、若いのに」


「それはほっとけ」


どうせ運動不足ですよ-だと愚痴ると芙蓉はここぞとばかりに提案した。


「よし、私が揉んでやろう」


「それは遠慮しときます。」


「なんでだよ!」


「だってお前、結構怪力だろ・・・?イヤな予感が・・・」


出会った初日、チンピラをばったばったとなぎ倒した記憶を思い出して若干血の気が引く。


「おいおい、そこまで不器用じゃねえって。まぁ任せてみなさい」


「あっちょっとこら!わわ!わぁあ!」






そしてひとつ前の話の冒頭へ至る。

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