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妹と甘いもの

 私の家を燃やした犯人はどこで何をしているのだろう。

 ここへ来る前、私が家から出ていた短い時間の間に全焼されてしまった。

 ひょっとしたら、まだ同じ過ちを繰り返しているのかもしれない。

「私のようにならなければいい・・・・・・」

「何が?」

「ケ、ケヴィン!」

 びっくりして壁に背中を打った。

「フローラ、どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ、気配を消して背後に立たないで!」

 本当は驚かすことを目的としているくせに!

「ごめんね、それで深刻な顔をして何を考えていたの?」

 ちょっと言いづらいことを考えていた。

 放火のことを言うことができない。

 ここは内緒にしておくべきよね。

「な、何もない」

「目が泳いでいるよ?」

 私の様子を見て、きっと確信しているに決まっている。

 これ以上隠しても仕方がないので、正直に言った。

「家のこと・・・・・・」

 そう言うと、明らかに怒りをあらわにした。

「本当にふざけているよね、まだ誰だかわかっていないんだ」

「犯人を捜してくれているの?」

「うん。だけど、目撃した人が一人もいないから、正直難しい」

 ただの放火犯か、それとも私に何か恨みを抱いての行為か、どちらにせよ許される行為でないことに変わりはない。

 それはどの犯罪だって同じこと。

 こういうことをされて傷つく人間だっている。

「俺の力が足りないばかりに・・・・・・」

 溜息を吐きながら顔を伏せていた。

「そんなことないよ!」

 本当にそんなことない。だって、ケヴィンはいつだって私を大切にしてくれている。それは私にとって、どれほどの支えになってきたことか。

「ケヴィンは私よりずっと力があって、強い人だって思うよ」

 人の強さは剣術や魔法だけではない。そういったものも強さの一つだが、内面の強さも重要と考える。

「フローラ、そう言ってくれて嬉しい」

「そう?」

「でも、もっと強さが欲しいよ」

 ケヴィンもそういうことを思うんだ。私だけだと思っていたが、身近な人も思っている。

 私だけだと思っていたから。

 それが不思議な感じがした。

「フローラ、今日は二人きりで外へ行かない?」

 ケヴィンと仲良くなるのに、それほど時間はかからなかった。

 だから今では警戒心を解いている。

「いいよ、どこへ行くの?」

「フローラが行きたいところなら、喜んで」

「だったらあそこがいい」

 そう言って、ケヴィンを連れて行った場所は以前、三人で行った王都。

 久しぶりだけど、あまり変わっていなかった。

「フローラさん?」

 女の子が小さな声で私の名前を呼んだ。

 この声、前にも聞いたことがある。

「ん?あ!ステラ!」

「お久しぶりです!ケヴィンさんも!」

「久しぶり、ステラ」

「買い物へ行くの?」

「はい!頼まれているのです」

「そっか、私達、外の空気を吸うために」

「どこに住んでいるのですか?」

「あの先にある真っ白な城よ」

 指で方向を示しながら伝えると、ステラは表情が輝いた。

「あそこに住んでいるなんて羨ましい!フローラさんはお嬢様だったんですか?」

「ううん、一般人よ。今はちょっと理由があって、住まわせてもらっているの」

「いいな、憧れる」

 ステラは顔をうっとりとさせていた。

「最初はびっくりした。あまりにも広くて綺麗だから」

 金持ちでも何でもない私があんなところにいるなんて誰も思わないだろう。

 知れば驚くことしかできないと思う。

「私も住んでみたい。料理も食べてみたいな」

「そんなことを言われると、小腹が空いちゃうよ」

「それでしたら、目の前の店はどうですか?デザートがとても美味しいのです!」

「ステラの店は?」

「今日は定休日なのです」

「なるほどね、行ってもいい?」

「もちろんいいよ」

「ステラ、教えてくれてありがとう!何かお返しをさせて?」

「私、そんなつもりじゃ・・・・・・」

「いいの、何か私にできることはない?」

 ステラは少し考えてから、ほんのりと顔を赤く染めた。

「もし、よかったら、私の姉になってくれませんか?」

「お姉ちゃん?」

「私、一人っ子だからずっと姉妹に憧れていて、でも、お姉ちゃんのような存在でいて欲しいだけなんです」

「いいよ。でも、私は性格が悪いから逃げ出すかもしれないよ?」

「が、頑張ってついていきます!」

 ステラは両手で拳を作り、ガッツポーズを見せた。

「なんか妹っていうより、先生と生徒みたい」

 ケヴィンがそう言うと、私達は顔を見合わせて笑った。

「じゃあ、今日からお姉ちゃんだから、そう呼んでね。くだけた話し方にしていいから」

「うん、フローラお姉ちゃん。これからもよろしくね!」

 私、やっぱりステラが好き。笑顔に癒しの効果が高い。

「よろしく」

「じゃあ、あとは二人で楽しんで。またね!」

 小さな鞄を抱えて、風のように走っていった。

「行っちゃった」

「本当にフローラは周囲の人達に好かれるね」

「ケヴィン?」

 あれ?なんだか様子が変?

「店に入ろう」

「う、うん」

 私の気のせいかな?

 この店はカフェで中に入ると、ゆったりとした音楽が流れている。

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 何人か女の子がケヴィンを見ている。本当に目立っているな。

 案内されたあと、メニューを見て、私もケヴィンもホットケーキにして、飲み物は別々のものを頼んだ。

 本当はケーキセットを頼みたかったが、時間が遅いので、やめておいた。

「私ね、ケヴィンは甘いものをあまり好まない人だと、初めは思っていた」

「どうして?」

「薄味のものが好みかなって、勝手に想像していた」

「薄味のものは好きだよ。けど実際は違っていたね。甘いものもいつも食べるわけではないけど、好きだよ」

「あとから知った」

「フローラと同じだね」

「う、うん」

「こうして好きなものが同じだと、仲のいい恋人に見られるね」

「またそういう恥ずかしいことを言う」

 何人か女の子が振り向いたが、私はできるだけ平静を装った。

 先にドリンクが来た。私はアイスミルク、ケヴィンはアイスカプチーノ。

 飲んだら喉の奥がひんやりと冷たくなった。

 ぎゅっと目を瞑ると、ケヴィンは笑っていた。

「そんなに冷たかった?」

「うん、ケヴィンはどうもしないの?」

「まあね」

 あとから店員が二人分のホットケーキを持ってきた。

「以上でよろしいでしょうか?」

 さっきの店員と別の店員が来た。彼女はケヴィンにだけ話しかけている。

 ちょっと、それは客に失礼じゃない?

 媚びた笑顔が目立っているけれど、本人は無表情でいる。

「うん、いいよ」

 笑みを浮かべたまま頭を下げ、後ろを向いた瞬間に不満げな表情になった。

 その表情はどうかと思う。

 先ほどの店員のことはこれ以上考えず、目の前のものに目を向けた。

 ホットケーキには小さなバニラアイスが添えられている。

 嫌なことは甘いものと一緒に消してしまおう。

 蜂蜜がたっぷりとかかっていてとても甘い。

「頬が緩んでいる」

「だって美味しいから」

「城に戻ってから、少ししたら食事だからね」

「いつも部屋まで持ってきてくれるからね。イーディにもシェフにも感謝だね」

 もちろんこの二人だけじゃない。多くの人達に支えられている。

「それを聞いたら喜ぶだろうな」

 店をあとにして、城に戻ったのはそれから一時間後のこと。

「いつも贅沢なものばかり食べているから太っちゃうね」

「何言っているの?細いくせに」

「そうかな?」

「食べても太らない体質だよね、フローラ」

「でも食べ過ぎには気をつける。油断していたら、あとが恐ろしい」

 いきなりケヴィンは鼻にキスをしてきた。

「な、何!?」

「きちんと考えているからいい子だなって、鼻は嫌だった?」

 そういうことじゃない!

 年頃の娘にこんなたくさんキスをするのはどうかと思うの!

 いつかおかしな病気になってしまいそう。

「ケヴィンなんて知らない!」

「照れを隠すために怒っていても、俺を気分良くさせるだけだよ?」

 この人にかなわないと思ったことは何度もあるけど、それでもいつか逆の立場にしたい!



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