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魔術師と魔法

 今日はどうしようかな。またあの薔薇園の近くまで行ってみようかな。近くまでにする理由は午後からお茶会が開かれると小耳に挟んだから。

 邪魔をしないように見るだけならいいよね?

 薔薇園の辺りまで歩いていけば、賑やかな笑い声が響き渡っていた。

「あれ?時間が少しずれている?」

 一時間ずれているけれど、とくに気にしていないようだった。

 準備だってあるから、こうなることは予想ができていたのかな。

 薔薇園にいるのは貴族のお嬢様やメイド達だった。その中にイーディもいた。

 真っ白なテーブルの上には花柄のティーポットにティーカップ、スコーンやサンドイッチ、プティ・デザートが置いてある。

 まるで夢の世界にいるみたい。

 新たな世界の一部を発見することができて満足したので、その場から離れた。

「ケヴィンも仕事にいるからどうしよう?」

 うろうろと城の中を歩き続けていてもしょうがない。お茶会のことを日記に書こうかな。

「何をしている?」

 驚いて振り向くと、若い男性が立っていた。

 ここの騎士様?いや、服装が違うから他所の人?

「部屋に戻ろうとしていました」

「前にも見かけたな。俺はアンディ。名前は?」

「フローラです」

「俺は魔術師だ」

「魔術師ですか」

 城の中にいる魔術師と格好が違っていたから、わからないのは当然。

「部屋に戻っても退屈なだけだろう?」

「それはそうですが・・・・・・」

 他に行くところは思いつかない。

「なら、少し俺に付き合え」

「はい?」

 アンディさんが歩き出したので、ついていくべきか考えていると。足音は止まった。

「早くしろ」

 偉そうな人。それが彼の第一印象。

 考えた結果、距離を置きながらついていくことにした。

 着いた先は外で一度もいったことがないところだった。彼について行くと、綺麗な湖が一面に広がっていた。

 なぜここへ私を連れてきたの?

「最近、ケヴィンの客がここに住むようになったと聞いたが、お前か?」

「そうです」

 助けてもらったことは言わないでおこう。

 あのときのショックはまだ拭いきれていない。

「お前も魔法を使うんだな?」

「は、はい」

「これはできるか?」

 目の前に真っ白な鳥達が空を高く飛んでいった。

「あ!」

 次は水面に魚達が見えたと思ったら、跳ね上がってきた。

「綺麗」

 最後に見せてくれたものは可愛い花だった。

 花壇に咲いている花や薔薇園の花も綺麗だけど、こうして湖の上で踊るように咲いている花も見ていて癒される。

「すごい、こういう魔法が使えるなんて!」

「楽しかったか?」

「はい!ありがとうございます!」

 アンディさんは無表情だったが、少しだけ顔を緩めて小さく笑った。

「退屈が紛れたし、戻るか」

 湖を離れようとしたとき、黒い影が前を通った。

「魔獣!」 

 複数の魔獣が現れた。鋭い目つきをしていて、今にも飛び込んでこようとしていた。

「ここでは見かけないのに」

 私はすぐに手の上で炎をつくり、敵に投げつけた。敵はすぐに炎に包まれて消えた。

「もういないな」

「はい」

「行くぞ」

 城へ戻ると、イーディがこちらに向かって歩いてきた。

「部屋にいなかったからどこへ行ったのかと心配しましたよ。フローラ様」

 部屋の中、ケヴィンを合わせて三人あるいは私と二人きり以外ではこうして丁寧な話し方をして、うまく使い分けている。

 話し方にギャップがあり、笑みをこぼした。

「どうかしましたか?」

「いえ」

「お久しぶりですね」

「イーディ、元気そうだな」

「はい、おかげさまで」

「こいつを連れ出していたのは俺だ。もう行く」

 イーディはとても驚いている。

 そんなに珍しいことなのかな?

「そうだったのですか」

「またな」

 踵を返して去って行ってしまった。

 その夜、仕事から戻ってきたケヴィンとイーディに今日の出来事について話した。

「本当に?彼がそんなことを?」

「意外なことなの?」

「彼は自分から人に近づかないからね。近づいても短い会話で終わる」

 あまりお喋りが得意そうな感じではなかった。

 だけど意外とそうでもないのかなと思った。

「素敵だった」

「何が?」

「アンディさんの魔法。とても綺麗だったから」

 暇つぶしに見せてくれたとはいえ、自分ではできない魔法だったから少し羨ましい。

 ただならぬオーラを感じて見てみると、ケヴィンが私を睨みつけていた。

 こんな表情はあまり見たことがない。

「な、何?」

 私、何か失礼なことを言いましたか?

「仕事で疲れて帰ってきて、フローラが話があるって言うから何かと思えば、その男のことを話してばっかり」

「だめだった?」

「何、もしかして俺に妬いてほしくて話しているの?」

「違う!」

「そんなに強く否定しなくてもいいじゃない」

 だって、本当のことだから。

「私は楽しかったから」

「俺はそんな話を聞いても楽しくないな」

「ちょっとケヴィン」

「イーディ、邪魔をしないで」

 ケヴィンはピシャリと言い放った。

 すっかり怒りモードにしてしまった。

 どうしよう、どうすればいいの?

「機嫌を直して、ケヴィン」

 いつもなら抱きしめたりするのに、今日はそれがない。

 ケヴィンはそっぽを向いたままでこっちを見ようとしない。

 何考えているのよ、それって、そうしてくれることを願っているみたいじゃない!

 もう一度呼びかけてみたが、やはり返事はない。

「ケヴィン、いい大人がみっともないわよ。フローラを困らせないで」

「フローラ」

「何?」

「俺のことが好き?」

 私もイーディも一瞬、キョトンとした。

「うん、好きだよ。ケヴィンは私のことを嫌いになった?」

「いや・・・・・・」

「私、どうすればいい?」

「俺が言うことをちゃんとしてくれるならいいよ」

 言うこと?何を言い出すつもりなんだろう?

 イーディを見てみると、少し険しい顔に変化している。

「わかった、言う通りにする。それで何?」

「俺と一緒にいる時間を増やして」

「増やしてって、どういうこと?睡眠時間を少し削ってほしいの?」

「そういうことじゃない。俺が一緒にいる間は俺のことを考えていて」

「独占欲がこんなに強いとは思わなかったわ」

「イーディは口を挟まないで」

「もっと俺と一緒にいて、約束だよ」

「うん、約束する」

「フローラ、意味をわかっている?この会話、まるで恋人同士がするようなものよ?」

「そうなの!?えっと、あの・・・・・・」

「イーディの言葉に惑わされないで、ね?」

 いや、そんなことを言われても、混乱するばかりだよ。

「本当はいつも二人きりでいたいのに、どこかの誰かさんが邪魔をするから」

「それ、私のことを言っているの?」

「さあね」

「本当に腹立たしいわね」

「イーディが怖い、フローラ、助けて」

 怖がるふりをして抱きついてきている。

 本気で怖がっていないのに、私はよしよしと頭を撫でてしまう。

 これ、癖になってきていないかな。

「私もフローラと二人で出かけるから」

 その前に二人とも、早く仲直りをしようよ。



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