少女とレストラン
「次はここ」
小さなアクセサリー店だった。中に入ると、花やハートなどのモチーフを使用していて、可愛らしい商品がたくさんある。
女の子が喜びそうな店。
「フローラがつけている時計、可愛いわね。いつも思っていたの」
数年前からこのブレス時計をつけている。
時計もチェーンも金色で形は丸くなっていて、上品なデザインとなっている。
「私も気に入っている」
「似合っているよ」
「本当?嬉しい」
「他にも何かいいものがあればいいわね」
「そうだね」
店内を歩いていると、ネックレスが気になって、いくつか見ていた。
「どれかいいものがあった?」
横でケヴィンが私に話しかけた。
「うん、どれもいいけど、一番気になったのはこれかな」
一つのネックレスをケヴィンに見せた。
ティーカップとポットがセットになっているネックレス。
小さくてとても可愛い。
アクセサリーはあまり持っていないからちょうどいい。
「これも買うよ」
「そんなにたくさん買ってもらうわけにはいかないから」
これではさっきと同じことの繰り返しになる。
「今度は私に買わせて」
イーディが小さな香水を片手に持ってやってきた。
「いいでしょ?フローラ」
「自分のものを買いなよ。さっきの本も」
「あれはもう予約したの」
「予約?」
「そう。ケヴィンに買ってもらう予約」
嫌そうな顔をしていたケヴィンを横切り、私の持っている商品を見た。
「確かに可愛い。センスがいいね」
「そんなことないよ」
私は否定しながら、手を横に振った。
「本当に。すぐに買ってくるから待っていて」
「俺が買う予定だったのに・・・・・・」
「もうこっちを買ってもらったよ。ありがとう」
書店で買ったものを少し上に持ち上げた。
ケヴィンはふっと笑みを浮かべて、私の頭をそっと撫でた。それが嬉しくて私も微笑んだ。
すぐにケヴィンは表情をもとに戻した。
「ちょっと目を離すとすぐこれよ」
「これ?」
「すぐに手を出すこと」
イーディはケヴィンの手を指した。
「ネックレス、ありがとう」
「いいのよ。はい」
ネックレスを私の手の中に落とした。
「それを見ていると、本当にお茶をしたくなるわね」
「そうだね、楽しいティータイムができそう」
そんな話をしていたら、薔薇園が頭に思い浮かんだ。
前にケヴィンに連れて行ってもらったとき、お茶会をするときがあることを教えてくれた。
お茶会か。楽しそうだし、きっと華になるのだろうな。
「もうお昼だね。どこかで食べようか?」
「うん、賛成」
「私もケヴィンとフローラに賛成。早くしないと混雑するわ」
歩いていると、左右前後に飲食店がたくさんある。
「どこにしよう?」
「迷うよね」
東通りから西通りに入ろうとしたとき、女の子とぶつかってしまった。
「あ!大丈夫?」
「いたた、大丈夫です」
「あなた、血が出ているわよ?」
イーディが気づいて、心配そうな顔をしていた。
「本当だ。っつ!」
「ちょっと足を見せて?すぐに治してあげるから」
双眸を閉じて、傷口のところに手をかざし、神経を集中させて、白魔法を使った。
「あ!」
力によって、集まった光は傷を回復するとともに少しずつ小さくなっていき、やがて消えた。
「これでもう大丈夫」
「すごい!もう痛くない!」
「歩ける?」
「はい、ありがとうございます!」
「いえ」
後方から小さな拍手が聞こえた。
「やるね、フローラ」
「それほどでもないよ」
「だって、俺はできないから」
「あの!」
女の子が声を大きくして話しかけてきた。
「何?どうしたの?」
「何かお返しをさせてください!時間はありますか?」
「私達、これから昼食を食べに行くところなの。でも、ここは飲食店が多いから、どこにしようかまだ決めていないの」
「それでしたら、私の店に来ませんか?親が飲食店を経営しているから!」
「どうする?」
「いいんじゃない?そこで」
「じゃあ、案内をお願いね。えっと・・・・・・」
なんて呼ぼうかと考えていると、女の子はすぐに察してくれた。
「ステラ・ホワイトといいます。十六歳になったばかりです!」
「私はフローラ・モーガン。十八歳だよ。こっちがケヴィンで、こっちがイーディ」
「よろしくお願いします!それではついてきてください」
ステラに案内されたところはお洒落なレストランだった。
緑に囲まれていて、温かみがあって、居心地がよく、リラックスできる。
私達は窓際の席に座り、店内をじっくりと見た。
「広々としているね」
「本当だね。落ち着く」
「はい、メニュー」
ケヴィンにテーブルの上に置いてあったメニューを渡された。二冊置いてあり、私とイーディで一冊を見た。
「いろいろあるね」
「どれも美味しそう」
メニューがかなり豊富で、写真がついていたからとても見やすく、食欲をそそられる。
選ぶのに少しだけ時間がかかった。
「フローラ、決まった?」
「うん、魚介のクリームリゾットにする」
本当はいろいろなものを食べてみたいけど、それは機会があるときに。
「私は若鶏のソテー・小悪魔風にするわ」
ケヴィンはまだ少し迷っていた。
「ちょっとだけ待ってね。えっと、サーモンとトマトクリームパスタにしようかな」
「すいません」
店員が気づいたが、ステラが先にテーブルまで来た。頼むとステラは復唱して頭を下げて去って行った。
「イーディっていつも香水をつけているの?」
「いいえ。たまによ。今日買ったものはそれほど香りがきつくないの。ほら」
手首を私の鼻に近づけると、甘く優しい香りがした。
「いい香り」
「これなら周りを不愉快にしないでしょ?」
「うん」
「メイドの中できつい香水をつけている人がいるからやめてほしい」
「ケヴィン、注意をしないの?」
「相手にしていられない」
「一部の人間がたくさんつけているの」
「フローラはいつもいい香りがするね。香水をつけていないのに」
「いつも髪を鼻の近くに持っていくよね。この間だって、いきなり部屋に入ってきたと思ったら、抱きついて髪の匂いを嗅いでいたの」
「だってドアの外から香りが漂ってきたから」
そんな訳ないでしょう!?
どこまで香りが強いのよ!
「ケヴィン、どんな鼻をしているのよ」
イーディも私も呆れ顔になっていた。
「本当にね」
料理を待っている間は三人でお喋りをして楽しんでいた。