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香りと入浴

「フローラのことを城の人達に伝えたからね」

 食事を終え、お茶を飲んでいるときに聞かされた。

「伝えた?」

 それって、私が突然やってきたことを言っているのよね?

「何を言っていたの?」

「君は俺の客人として、ここに住むことを許可してくれたよ。城の中も自由に動き回れるから安心していいよ」

「あの、何かできることがあれば・・・・・・」

 何もしないというのはあまりにも失礼なことだ。

「いろいろなことがあって、まだ整理がついていないでしょ?気楽にしていいから」

 どう受け止めていいのかわからず、言葉がみつからなかった。

「それと何か必要なものがあったり、したいことがあれば、遠慮なく言うんだよ」

 本当にこれでいいのだろうかと、疑問に思いながらも、少しずつでも受け止めようと決心した。

 私はかろうじて頷いてから、お礼を言った。

 まだ私は城の中がどのようになっているのか、まったく知らないので、興味がある。

「さて、これから何をしよう?少し城の中を歩く?それとも何か話でもする?」

 どうしようかな。やりたいことはいくつもあるけど、全部できないから。

「話をしたいな」

 気になったことがあるので、それを知りたい。

「いいよ。何の話がいい?」

「何で妹が欲しいと思っていたの?」

「小さい子がいたら、退屈しなさそうだし、癒されると思ったから」

 子どもは可愛いから私も好き。

 街で子どもを見かけると、手を振りたくなるからよくわかる。

「だから偶然とはいえ、フローラに会えて嬉しい」

 優しく頭を撫でられた。その心地良さに微笑んだ。

「やっぱりいいね」

 何のことだろうと、首を傾げると、ケヴィンは笑みを深めた。

「笑っていた。イーディに自慢しなきゃ。楽しみが一つ増えた」

 軽く引き寄せられ、額にキスをした。

 またキスをしてきた!

 この人、抱きしめたりキスをしたりするのが好きなのかな。

「そんなに照れなくてもいいじゃん」

「て、照れてなんかいない!」

 そうだよ。照れてるんじゃなくて、怒っているの。

「お、女の子に気軽にそういうことをしちゃだめなの!」

「ちゃんと愛情を込めてしているよ。誰にでもやるわけじゃない」

 そういえばこの人はもてるのに、彼女を見たことがない。

「恋人はいないの?」

「いるよ。フローラって女の子」

 顔が赤くなっているのがばれませんように!いつ私達はそんな関係になったの!?

「目の前に美味しそうなものがあるね」

 私はケヴィンの視線を追った。

 テーブルにあるのは紅茶とお菓子だった。

 それらに目をやると、ケヴィンが軽い咳払いをした。

「フローラ、くれる?」

 私はクッキーを一枚取って渡したが、受け取ってくれない。

「それじゃない」

 椅子から立ち上がり、私の前で膝を折った。

「俺が言っているのはこっち」

 片手で頬を包み、そのまま口付けをした。

「またやった!」

「ごちそうさま」

 うわーん!本当にどうすればいいの!?

「俺、もっとフローラのことが知りたいな。聞かせてくれる?」

 今度はこっちが質問の答えを言う番になった。

「うん、いいよ」

「花は好き?」

「花?うん。好きだよ。可愛いし、綺麗だしね」

「よかった。ここの庭園にね、薔薇がたくさん咲いているんだ。近いうちに連れて行ってあげる」

「本当?楽しみ」

 薔薇園なんて滅多に見られないから貴重だよ。

「会ったときから気になっていたのだけれど、武器を使えるんだね?ひょっとして魔法も?」

「うん。まだまだだけど、両方使うことができるよ」

「魔法って、どんな魔法ができるの?」

「黒魔法と白魔法だよ」

「俺は白魔法は無理だな」

「そうなんだ」

「もし、怪我をしたら、真っ先にフローラに治してもらおう」

「いいよ。ちゃんとやるから」

「ありがとう。頼りにしているからね」

 私は腕の中に包み込まれて、ドキドキしていると、彼から優しい香りがした。

 香水をつけているのかな?

「どうかした?」

「香水?」

「香水はつけていないよ」

 こんなにいい香りなのに。だとしたら何なの?

「お風呂もまだだし、何かな?」

「風呂ね。そういえば、昨日はご飯を食べて、少し話をしてから眠っちゃっていたね」

 そうだよ、お風呂にまだ入っていない。入りたいけど、まだケヴィンがいるし、あとにするべきだよね。

「入っておいで。俺は出るから」

 よかった、それならすぐに入ることができる。

 実はここのお風呂にはいることを密かに楽しみにしていた。

「じゃあ、またね」

「うん。それじゃ」

 見送ってから、お風呂にのんびりと浸かることにした。

 中にはシャンプー、リンス、ボディソープが置いてあった。どれも綺麗な容器で高級感がある。

 パサつきを押さえて、艶を出し、髪をサラサラにする効果がある。

 あったかくて気持ちいい。

 髪や体を洗い、タオルで拭きながら、ベッドへ戻った。

「おかえり、気持ちよかった?」

 さっき出ていったはずのケヴィンがいたので、思わず悲鳴を上げた。

「それじゃあ、不審者みたいじゃない」

 失礼だなとぶつぶつと言っているが、こっちはそれどころではない。

「こ、こ、こ!」

 なんでここにいるの!?

 思わず壁に張りついた。

「ちょうど戻ってきたんだ。ほら、髪を乾かしてあげるからおいで」

 ちょいちょいと手招きをするが、足が動かない。

「怖がらなくても何もしないよ」

 重い足を動かして、ようやく彼のところへ辿り着いた。

 座るように促されて座ると、優しく髪を拭いた。

「いいね。シャンプーの香りがしていい。それに濡れていて色っぽい」

 後ろから囁かれているので、ぞくぞくする。顔を見られていないので、安心していた。

「あれ?顔が赤いよ?」

 その一言にぎょっとした。後ろから覗きこまれていたので、急いで目をそらした。

「さ、さっき、お風呂に入ったから!」

「本当?」

「本当!」

 どこか笑いを堪えるような顔をして私を見ていた。

「まぁいいか。そういうことにしてあげる」

 私の反応を見て面白がっているから、性質が悪い人だと思った。

「さて、乾いたよ」

 あれこれ考えている間に髪はとっくに乾かしてくれていた。

「綺麗な色をしているね」

 私の茶色の髪を触りながら言った。

「ケヴィンも綺麗な黒髪だよ」

 真っ黒な髪はさらさらとしている。

「そう?ありがと」

 ちょっと眠たくなってきた。まだ時間は遅くないのに。

「眠い?」

 目を閉じかけたが、何とか耐えた。

「少し・・・・・・」

 どうしよう、本当に眠いよ。

「もう、おやすみ。また明日もここに来るから」

「うん、待っている」

 ベッドに横になり、静かに意識を放した。


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