人気者とお茶会
何だかとても心地がいい。もう起きたくないな。
「フローラ」
やめて、私はまだ眠たいの。
「起きて、フローラ」
布団は好き。私の癒しなのだから。
「フローラ」
ちょっと黙って。
「ご飯だよ」
ご飯?何だかいい匂いがする。
片手を天井に向けて上げると、ゆっくりと引っ張られた。
「おはよう」
頬に柔らかいものをつけられた。
少し冷たい?
小さな欠伸をしながら、瞼を開けると、ケヴィンとイーディがいた。
「やっと起きた」
「いえ、まだ瞼がきちんと開いていないわ」
「起きているよ、おはよう」
「おはよう。もう夜だけど、いいか。汗を少し掻いているけど、外へ行っていたの?」
私が口を開いたとき、空腹を知らせる音が鳴った。二人はクスクスと笑っている。
「食べよう」
「うん、そうしよう」
食事のときは会話をせず、食べてばかりだった。
普段と様子が違っていたので、二人は少しキョトンとしていた。
「それで?」
「うん?」
「その辺を走っていたの?」
「違う。ステラの店の手伝いをしていたの」
「ステラの?」
「うん。今日、買い物に出かけていて、そのときにステラの店に食べに来る人達がたくさんいたから手伝った」
「そうだったんだ」
「あんなに動き回ったのは久々だったから、ちょっと疲れた」
「今日はゆっくり休んで」
「俺が添い寝して・・・・・・」
続けて話そうとしたところをイーディが口を挟んだ。
「ここに不審者がいるわね。通報しなくちゃ」
「冗談だって。ほんの少し」
「ほぼ本気ってことよね?」
毎回飽きずに言えるね。
思い出したことがあって、話題を変えた。
「あ!そうだ、カレン・カーティスっていう人を知っている?」
「カレン様?もちろん知っているわ」
「今日、その人と会ったの。偶然」
「王都で?」
「うん、助けてもらったの」
「何かあった?」
二人は顔を引き締めて私の話を聞いた。
「令嬢の方達に目をつけられて・・・・・・」
イーディの表情が変わった。ケヴィンもそれを見ていた。
「前にあなたのことを話していたの」
「どんな?」
「ほとんどのお嬢様やメイド達はあなたを羨ましがっていたわ。ケヴィン様の傍にいられるんて他の人ではできないことだから」
ちらっとケヴィンを見ると、ケヴィンもこっちを見ていた。
「でも中には嫉妬している人もいたわ」
「うん。それで私もときどき話をしているわ」
「ケヴィンは昔からもてるから、私も嫌なことを言われたことはあるのよ」
「俺は他の人達には興味はない」
「でしょうね」
「嫌な思いをさせてごめんね、フローラ」
「そんな、ケヴィンは悪くないよ」
勝手に嫉妬をしてきたあの人達が悪いんだから。
「また近いうちに会えるわ」
「それは用事で?」
「いえ」
「もう少ししたら、また開かれるんでしょ?お茶会」
「えぇ、そのときにも参加されるでしょうね」
そんな話をして、二人が戻っていったあとにステラに手紙を送り、日記を書いた。
「また会ってみたいな」
お茶会は十日後に行われた。私は部屋で本を読んでいると、足音が聞こえたので、ドアを開けた。
「び、びっくりした!」
「どうしたの?イーディ、お茶会しているよね?」
「そうなの、だから来て!」
「ちょ、ちょっと!」
腕を引っ張られながらついていくと、お茶会が行われている薔薇園に辿り着いた。
「カレン!?」
「ありがとう、イーディ」
「いえ」
「また会えたわね、フローラ」
「あの、どうして?」
私をここへ呼んだの?
「前から思っていたの。あなたともお茶をしたいって」
「私、貴族じゃないよ。参加したらまずいのでは?」
「気軽なお茶会だから大丈夫よ。座って」
どうしよう、かなり緊張してきた。紅茶を飲んで気分を落ち着かせよう。
紅茶を一口飲んで、その温かさに緊張がほぐれた。
「フローラ様がカレン様を呼び捨てに・・・・・・」
「私がそうしてって言ったの。敬語も使わない約束を守ってくれて嬉しいわ」
「カレンはずっと城に住んでいるの?」
「フローラ様、何をおっしゃるのですか!?」
「カレン様は姫様なのですよ!」
姫?姫様!?私は失礼なことを数々としてしまった。
「あの、申し訳・・・・・・」
「謝る必要なんてないわ。もう、簡単にばらすからフローラが謝罪しようとしたじゃない」
今度は姫様と言ったメイドさんが謝った。
「気を取り直してこの時間を楽しみましょう」
みなさん笑顔で賛成した。もちろん私も。
それから私はケヴィンのことで質問攻めにされ続けていた。
「フローラ様、いつもケヴィン様とどのような話をされているの?」
「いつも一緒にいられて本当に羨ましい」
「いつだって視線はフローラ様に向けられているもの」
貴族のお嬢様やメイドさん達は話しながら、溜息を吐かれている。
「あなたはケヴィン様と交際をしているの?」
「いいえ、違います!仲良くしていますけど、そんなんじゃ・・・・・・」
いつもされている抱擁やキスを思い出し、顔が熱くなった。
「何その表情?」
「真っ赤な林檎みたいよ。何を考えているの?」
「いえ・・・・・・」
「気になりますわ。普段は何をされているの?」
「逞しい腕に抱きしめられているとか?」
危うく紅茶をこぼしそうになった私を見て、その場にいる人達はそうされていると確信した。
「いいな」
「ケヴィン様の特別なのね」
「恋人同士ではないってことはあなたはどんな男性が好みなの?」
「えっと、そうですね。頼りがいがあって、強い精神の持ち主がいいですね」
そのことにみんな肯定の意味として頷いてくれた。
お茶会はどんどん賑やかになっていき、私もそれに溶け込んでいった。
やはり女性だからか、恋愛の話が大好きみたい。
「イーディ、あなたから見てフローラはどんな方なの?」
「私から見てですか」
イーディ、どんなことを言うつもりなのかな。
「フローラ様は可愛くて、困っている人を見ると、手を差し伸べる優しい方です。それに人を惹きつける力を持っております」
「イーディ、褒め過ぎよ」
「私は本当のことを言っただけです」
「それじゃあケヴィン様が夢中になるのも無理ないわね」
「何人か使用人がフローラ様に好意を寄せているみたいよ」
「それは本当?」
「フローラは人気者ね」
「そんなことはないよ」
空を眺めると、澄み切った青空で気分がさっきよりもっと良くなった。




