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手紙と手伝い

 数日後に手紙が届いた。ただの手紙ではない。

 魔法具で手紙を書いたあとは白い一輪の花に変わって、送りたい人へ届くようになっている。無事に受け取ったという印に送った人にピンクの一輪の花が届くという可愛らしい決まりになっている。

 相手はステラだった。内容は妹にしてくれたことの感謝や教えた店がどうだったか、また会いたいなどといったことが書かれていた。

「私も返事を書かなきゃ」

 でも、手紙を持っていない。

 どうしよう、朝食を済ませたら買いに行くことにしよう。

 そう決めたとき、イーディとケヴィンが来た。

「おはよう、フローラ」

「イーディ、おはよう」

「ケヴィン、眠いの?」

 いつもすっきりとした顔をしているが、この日は違っていた。

 少しうとうととしているみたいだけど、大丈夫かな。

「目が少し充血している」

「本当。遅くまで仕事をしているからよ」

「うーん・・・・・・」

 いつもなら言い返すのに今日は言い返さない。こんな姿を見るとは思わなかった。

 鞄の中に目薬があるので、それをケヴィンに渡した。

「これを使って。そんなんじゃ、仕事ができないでしょう?」

 だけど押し返されてしまった。

「いらないの?」

「やって」

「何て?」

「フローラがやって」

 私が目薬をさすの!?本気でやらなきゃいけないのかな。

 ケヴィンは椅子に座って上を向いている。

「さ、さすよ?」

「お願いします」

 少し力を込めて、目薬を出すと、ずれることなく入った。

 清潔なガーゼで拭いたら、ケヴィンが顔を下げた。

「ありがとう、すっとした」

「よかった」

「ケヴィン、それくらい自分でできるでしょ?」

「あっちがよかったかな?」

 視線の先はベッドだった。

「ここで大丈夫だったよ?」

「だってフローラのぬくもりがあるベッドだとより安心・・・・・・」

 イーディは容赦なく、叩いていた。

「イーディ、だめだよ」

「だって騎士とは思えない発言よ!いえ、関係ないわ。そんなことを言うなんて不謹慎よ!」

 ケヴィンは顔を歪めながら頭をさすっている。

「そろそろ朝食を食べよう。ね?」

 今日の朝食はクロワッサン、ソーセージ、スクランブルエッグ、フルーツヨーグルトにオレンジジュースだった。

「やっぱりフローラが来てから料理が美味しく感じる」

「それはいつも一人で食べていたから味気なかったのよ、きっと」

 そっか、私と出会う前は一人で食事をしていたんだ。それは私も同じ。ここに来る前は誰とも食事をすることがなかった。

「私も前より美味しいし、楽しい!」

 やっぱり一人よりこうして複数で食べると明るくなる。

「あとで抱きしめていい?」

 ケヴィンにはいつも抱きつかれる。猫がじゃれるような感じで。

「どうして?」

「そうしたいと思ったから」

「またこの男はこんなことを言う。フローラ、だめよ。簡単に許すものではないから」

「朝食を運んでくれてありがとう、イーディ。仕事に戻っていいよ」

「これも仕事よ!」

 喧嘩になりそうだったので、ジュースを一気飲みして、イーディにコップを差し出した。

「イーディ、ジュースのおかわりをもらっていい?」

「えぇ、すぐに」

 朝食後、ケヴィンを見送ってから私は手紙を買いに出かけた。イーディもついていこうとしたが、仕事の手伝いを頼まれてそちらに行った。

 もう少しで街に入ることができたのに、複数の令嬢達に道を塞がれてしまった。

「間違いない?」

「うん、この子よ」

 どの令嬢を見ても、好意で見られていない、悪意で満ちている。関わると厄介になるのは見えているが、通れない以上は声をかけて道を譲ってもらうしかない。

「通してもらえますか?」

「あなた何様!?」

 いや、そこを通してほしいだけ。もう、こんなところで時間を無駄にしたくない!

「ケヴィン様に近づいて何をするつもり?」

「汚らわしい。ただの一般人じゃない」

「さっさと家へ帰りなさいよ」

 家。私の家はもうない。帰るとしたら、ケヴィンのところ。ん?ケヴィン?何でケヴィンのところって思ったのかな。一緒にいる時間が多いけど、それはイーディだってそう。

 考え込んでいると、一人の令嬢に強く肩を掴まれた。

「黙っていないでなんか言いなさいよ!」

「やめなさい!」

 遠くから女の子の声がした。誰だろう?

「女の子をいじめるなんて恥を知ったらどうなの!」

「カレン様!?」

「どうしてここに・・・・・・」

 どこかで聞いたことがある名前。

「今すぐこの場から立ち去りなさい!」

 令嬢達はさっきと態度を変えて、すぐに逃げ出していった。

「大丈夫?」

「はい、あの、ありがとうございました。カレン・・・・・・様?」

「私はカレン・カーティス。カレンと呼んで?あなたはフローラね?」

「は、はい。そうです!私のことを知っているのですか?」

「城であなたの話題をよく聞くから」

 にっこりと微笑みながら教えてくれた。今まで城で綺麗な人達をたくさん見てきたが、彼女はさらに綺麗な人だ。

「急ぎの用事だったの?」

「いえ、買い物に行こうと思っていたのです」

「あら、そうだったの」

「はい」

「またお会いしましょう。次からは敬語は駄目よ?」

「はい、いつかまた」

 今日は少し嫌なことがあったけど、気を取り直して買い物をしよう。

 すぐに手紙を買って、階段を上っていくと、何やら賑やかな声に包まれている。

 どうしたのかな?今日はイベントでもあったっけ?

 歩いていくと、ステラの店が長蛇の列で並んでいる。近くの人に理由を教えてもらおう。

「あの、今日なんでこんなに並んでいるのですか?」

「前にこの店の人が取材を受けていて、それを知った人達がこうして食べに来ているんだよ。どれだけ美味しいのか知るためにね」

「そうだったんですか」

 遠くから店を覗くと、店の人達は忙しそうに店内を動き回っている。

「ステラ!」

 飲み物を運んでいるステラを発見した。向こうも気づいて笑っていたが、足を引っ掛けて転んでしまった。

「ありゃりゃ、やっちゃったね」

 私は無意識に店の中へ入っていった。

「ステラ、大丈夫?」

「フローラお姉ちゃん、飲み物を台無しにしちゃった・・・・・・」

「私も手伝う」

「でも・・・・・・」

「待たせたらだめでしょ!」

 ステラにエプロンを借りて、床を掃除した。ステラは新しく飲み物を入れて、持って行った。

 それから数時間、店の手伝いをした。

「ありがとう、お姉ちゃん。本当に助かった」

「さすがに疲れた」

「今日ね、いつも働いてくれている人がたまたま三人も抜けていて、大変だったよ」

「店の手伝いをしてくれてありがとう。あなたがフローラね」

「はい、えっと・・・・・・」

「お母さんだよ!」

 疲れた顔をしていた。慌てて笑顔で挨拶をした。

「はじめまして、フローラ・モーガンといいます」

「はじめまして。今日もありがとう。これ、どうぞ」

「いいんですか?」

「もちろん。遠慮しないで」

「何だか、いつもお姉ちゃんに助けてもらっているね」

「そんなことないよ」

 アイスティーを飲みながら言った。

「そうだ、手紙を送ってくれてありがとう」

「無事に届いてよかった」

「返事はこれから書くからもう少しだけ待っていて」

 ステラは笑顔で頷いた。

「今日はフローラお姉ちゃん、一人なの?」

「うん、そうだよ。手紙を買うために来たの」

「そうだったの」

 それからしばらくの間、時間を忘れてステラと楽しく喋っていた。

 内容は学校のことや店のこと、好みのもの、家族のことなど、他にもいくつもある。

「もうこんな時間!そろそろ戻らないと!」

「私、送るよ!」

「気持ちはありがたいけど、いいよ。外が少し暗いし、危ないから」

「いいの?」

「うん。それに武器を持っているから」

 ステラはしぶしぶながら頷き、店の外まで送ってくれた。

「じゃあ、また来るね」

「待っているからね!」

 急いで自分の部屋へ戻ると、誰もいなかったので、安堵の溜息を吐き、荷物を置いて、ベッドに横になった。


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