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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

弟が訪ねてきたけど私は居留守を使いたい

作者: 枷月

先に短編『お姫様は呪われてるらしいけど私は早く家に帰りたい』を読むことをオススメします。より楽しめます。若干残酷な描写があります。




『姉さん姉さん姉さん! 今日こそここを開けてよ姉さん!』


 ドン、ドン、ドンと規則的に叩かれる扉。

 普通ならここで外聞を気にして開けるんでしょうね、普通、なら。


「セリア様」


 生憎ここは森の中。

 誰がどんなに叫ぼうが問題ない。


「開けなくていいわ、私には何も聞こえない聞こえない聞こえない……」


 私がそう言うとアレンは扉と私を交互に見てから何も言わずに椅子に座り直した。

 それを見てまた食事を再開する。

 今は、食事に集中したかった。


『……姉さん、やっぱりそいつに脅されてるの? 開けたら殺すって言われてるんだ……だから開けられない、でしょ? 大丈夫、僕は姉さんなら死体でも愛せるから安心して開けて?』


 安心出来るわけない。

 内心そう思いながらも知らないフリを続ける。


「セリア様、私はセリア様なら例え骨でも愛せます」


 朝食の鳥の唐揚げの骨を恍惚とした表情で皿の上に乗せるアレンに背筋がぞくりとした。


「アレン、対抗しなくていいのよ?」


 というか怖いわ。

 死体だとか骨だとか、食事中の会話じゃないでしょう絶対に。


「本心、ですよ……?」


 この前──私が解呪士として城に行きアレンが迎えに来た日から、何だかよくわからないけれどアレンの雰囲気が変わった気がする。

 まあ、こう毎日毎日続けばピリピリもするわよね。

 無理矢理納得して、扉に視線を送る。


『やっと見付けたのに、どうして返事もしてくれないの? 家から出て行った姉さんを捜していくつもの国を蹂躙してきたのに。色んなお土産があるよ、だから開けて?』


 その『家』が嫌で、『お土産』が扉を開けたくない主な理由なのだと察して欲しい。

 ……察してたら私を捜したりしないだろうけれど。


『クーレヘン王国にしか生えない毒草に、アバルカス帝国でしか咲かない毒花、リリティア共和国にしかいない毒蝶の翅だよ!』


 弟──ユアンは呪術士や解呪士……まとめて言うところの『魔法使い』の才能がこれっぽっちもなかった代わりに、様々な種類の毒や毒や薬の類いを、まるで呪術士が呪いをかけるように操ることが出来る才能を持っていた。


「わざわざ遠くの国を選んだのに……どうやって見付けたのかしら」

「セリア様、ちょっと掃除しに行ってきますね」

「え? 駄目よ。これ以上家のものを壊されたら……ねえ、アレン、掃除にフォークは必要ないでしょう」


 ピタリと動きを止めたアレンに、私は『掃除』の意味を勘違いしていたのだと悟った。


「必要です。抉ったり突いたりするのに重宝します……敵の眼球を」


 有無を言わせないような笑みにズキッと身体に痛みが走った。

 胸がときめいたのか胃が痛くなったのか。

 恐らく後者だ。

 確かにアレンは害虫だとか害獣を一撃で仕留めることに関しては並外れていた。

 けれど私は、いくら煩わしいとはいえ弟を始末して欲しいなどというまで人でなしじゃない。


「落ち着いてアレン。扉の前にいるのは敵じゃなくて私の弟なのよ?」

「セリア様を煩わせるものはすべて敵です」

『姉さん姉さん姉さん姉さん開けてよ姉さん』


 そろそろ開けないと、無理矢理扉を破って入ってくるかもしれない。

 食事を続ける気はとっくになくなっていた。

 無視し続けて帰ってくれるならそれが一番(面倒じゃない)と思ったんだけど……。


「ユアン」

『な、に、姉さん!』


 返事が貰えたことに喜ぶユアンの声に、嫌だったとはいえ懐かしいものを感じて顔が綻ぶ。

 それを見たアレンは目を見開いてフォークを握り締めていたけど。


「約束して。お土産は私の前に出さないこと」

『でも』

「後、アレンは私の弟子だから毒を盛らないこと」

『……わかった。お土産は今度にする』


 小さく溜め息を吐いて立ち上がる。

 ユアンが答えたのはお土産に関することだけだったけど、万が一毒を盛られてもアレンならばそう簡単には死なないだろうし。


「アレン、扉から離れていて」

「……はい」


 渋々ながらも扉から一番遠い場所まで移動したアレンを見届けてから扉に掛かっていた鍵を開ける。

 と、同時に物凄い勢いで扉が引かれた。


「姉さんっ!」


 黒髪に濃い青の瞳。

 私と同じ色彩を持ち同じ血をわけた弟。

 最後に顔を合わせた……三年前はまだ私よりも背が低かったのに、今では私よりも頭一つ分高い。


「ユアン……何するの」


 ガバッと抱き着いてきたことはまだ許容範囲。

 だけど額から始まり頬に、鼻先に、口付けを落とすのはどうかと思う。

 そう思ったのに、ユアンは小さく首を傾げた。


「挨拶だよ──っと、危ないなぁ」


 私とユアンの間を通って何かが横切った。

 トスッと音を立てて壁に刺さったのは、銀色の──フォーク。


「セリア様から離れてください」

「お前が姉さんをたぶらかした──フフ、家に帰ったら? ただの弟子の分際で家族の感動の再会を邪魔しないでよ」


 ピリピリとした空気が漂う。

 この二人は私の胃を破壊したいの?


「……ユアン、大人しく出来ないなら追い出すわよ」

「姉さんは僕よりあの男を選ぶの? あんなの、ただの家出王子なのに!」

「……王子?」


 王子、アレンが、王子。

 思い返してみれば、そうなんじゃないかと思ったこともあった。

 銀髪で、家事が壊滅的で、美形だったりもして。


「『弟』というのは、いつもいつも私の邪魔ばかりする生き物なんですね」

「第一王子アレンリード=ハイン=リベンダルともあろう人間がこんなとこで何してるわけ? 姉さんはあげないから」

「セリア様は物じゃないんですよ?」

「弟子とか言ってるけど『面倒だからまぁいっか』とか姉さんに思わせて何となくいるだけのくせに」

「逃げられた姉の痕跡を追って、その姉がいた国を蹂躙して玩具にするような人でなしには言われたくありませんよ」

「姉さんと一緒に寝たことないくせに」

「セリア様の手料理を食べたことはあるんですか?」

「「く……っ」」


 ──若干意識が飛びかけた。何なのこれは。

 私を挟んだまま、二人は不敵な笑みを浮かべて言い争った。

 その内容は段々と幼稚なものに変わっていった。

 最後には、『ばーかばーか』『馬鹿って言うほうが馬鹿なんですよこのシスコン』になった。

 ……心配して損したわ。

 アレンとユアンは、舌戦ではなく肉弾戦をし始めるんじゃないかと思っていた。

 アレンが王子だという件については『知らなかった』ことにしようと心に決める。

 私は、何だかんだでここでの生活を気に入っていた。


「ユアン、取り敢えず座ったらどうかしら。アレンも」


 ユアンと、アレンと、言い争う様子を見ているとまるで兄弟喧嘩でもしているように見える。


 久し振りに自分が姉であることを実感して、知らぬ間に笑みを溢していた私を襲う更なる『弟』の襲来を、私はまだ知らなかった。

 そしてそれは、また別の話。



「兄上……いい加減戻ってきて下さらないと父上の髪が……」

 アレンの素性が暴露されましたが、セリアは知らないフリをするそうです。何故なら今さら王子様扱いに切り替えるのが面倒だからです。ちなみに二人目の弟とは例の……。

 ユアンはあれでも姉としてセリアを好いています。

 アレンは弟子→傍にいると安心する→恋人→離れると落ち着かないとセリアの感情をコントロールしようとしていましたが、ユアンの乱入で見事恋愛すっとばして家族ポジションに。セリアだけは、ほのぼのします。頭上をナイフやフォークが飛び、たまにアレンの飲み物にだけ毒物が混入しますが。

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