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色熱《いろねつ》  作者: 花咲乱世
3/4

第一章 夕食

家のある駅が近くなるに連れて、今日の夕飯のおかずが気になりだす。

さっき食べた魚のムニエルみたいなのはどうだろう?オリーブオイルで塩コショウした魚を炒めて……ああ、陽子に聞いておけば良かった。


ソースは子供だからバター、あっそうかフライパンに残ったオイルにバターを加えてソース下地にすればいいのか。

それとソティーしたジャガイモやアスパラ、人参をえてバジルソースにしてもいいかな。あとサラダと卵とほうれん草のキッシュでも作ろう。


駅についた。

駅の時計を見るとまだ2時半になったところ。買い物しても3時には帰れたわね。

でも由紀人の帰りには間に合わなかったから、鍵は持たせて正解っと。

駅近くのスーパーに寄って買い物をする。

牛乳を買ったので、結構な重さになった。


最近歩いて買い物に出ることもなくなった。

自転車か車がほとんど。


そういえば新婚の頃は、帰宅時間に合わせて駅に迎えに行ったり、休みの日は手をつないで一緒に買い物に出たりもしたのに。

重いものは何も云わずにサッと持ってくれて、そんな一面にもっと好きになったり。

今じゃ、家の事と子供の事は全部、私。

お給料を入れて遅く帰ってきて、たまに夕飯の残りをつまんでお風呂に入って、休日は接待や付き合いに出かけてしまうただの同居人のよう。


話したいと思っている事の半分、ううん三分の一ほども伝えていない。

子供好きだったはずなのに、子供とのコミュニケーションも取れなくなっている。

今のあの人に、子供の事を聞いても、きっと何も答えられない。

由菜が反抗期だという事も、習い事を一つめた事も、由紀人がお父さんと遊んで欲しがっている事も。


本当にこれでいいの?

このまま何年も時が流れていくの?

もちろん夜の方も、えっと……あ…丸二ヶ月くらいないかな?

その行為も由一さんには、もう弱い所がバレているから、おざなりでササッと満足させられて、はいおしまい、みたいな……。

新婚の頃は、色々な事して楽しんだりもしたのに…まるでバカップルだったわね…ふふ。

女はまだわかるけど、男の人は、それで平気なのかしら?


やっぱり話してみた方がいいに決まってる。

ここ最近の家族の出来事や学校での事、由菜の事、それから私の事。


そう今日、気がついた、大人と話したい。

一日子供の相手はイヤ、由紀人は素直だけど、由菜では話す前に不快な思いをする。

大人と云っても、近所の知り合いや子供の友達の親御さんとじゃない。

じゃ親しい友人?綾子や陽子と?……それも少し違う。


主人と話したい、仲良くほおをつき合わせたり、腕をつついたりしながら楽しく話したい。

甘い言葉も何年も云ってくれてない。

昔は毎日、目が合うたびに

〝愛してるよ、綺麗だよ〟の連発だったのに。


いつ頃からだろう?

由菜が生まれた時は、まだ云ってくれてた。

由紀人が生まれて一年くらいは云ってくれてたと思う。

ってことは、この5~6年聞いてないということになる。

確かに私も、子育てに疲れてたし、帰宅が遅い日に起きて待っててはあげられなかったけど。

ミルクや離乳食をあげて、由菜は幼稚園の送り迎えに園でのお手伝いや行事。

夜はお風呂に入れて、寝かせつけて。

由紀人なんて今だに寝かせつけてるっていうのに。

最近よ、少し楽になったのは…由菜のおかげで心の面が楽じゃないけど。


由一さんも、わかってるから放っておいてくれたのかも知れないけど、この数年で顔をあわせて話す時間がない程、忙しくなっちゃうってどういうことよ。


一人で考えながら、ブツクサ言って歩いているうちに、我が家へと着いた。


門を開けて玄関のドアノブに手をかける。


「ただいま~」

 鍵が開けっ放しだ。

「お帰りなさ~い」

「早かったでしょ、由紀人も帰ったばかりでしょ?」

「うん、今さっき帰った」

「そう、お留守番ご苦労様。でも鍵は閉めておかないとダメよ。知らない人が入ってきたらコワイでしょ?今度からはちゃんと鍵閉めておくこと」

「うん、わかった~」

「はい、じゃ遊びに行くの?」

「うん、公園行ってくるね」

「OK、じゃ学校のかねが聞こえたら、皆と一緒に帰ること、気をつけてね」

靴を履きながら由紀人が応える。

「わかった、行ってきま~す」


由菜は、もう二時間もしないと帰ってこない。

ケーキとスーパーで買った物を冷蔵庫や戸棚へとしまい、二階の寝室へと行く。

鏡を覗くと髪のウェーブは綺麗に残り、まだ外気は薄寒いので化粧もくずれていない。

スーツを脱いで普段着に着替えると、髪を少し取り後ろにバレッタで留めた。

食べ過ぎてお腹がいっぱい。ついでに少し睡魔が襲いかかってきている。


一階に降り、台所で米をといだ。炊飯器に入れてタイマーを押す。

これで6時に炊き上がる。

スーパーで買った白身の魚を洗い、内臓近くの血のりを取って下ごしらえする。

魚のくさみが取れるまで手を洗い、居間に行く。

新聞を持ってソファに座るとTVをつけた。

ワイドショーは終わってる時間。

時々見るドラマにチャンネルを合わせて、ソファに横になる。

すぐに眠りこけてしまった。


何やらガサゴソという音で気がついた。

〝ああ、テレビつけっ放しにしちゃった。


身体もだるい、目もつむったまま無理に起きないでいる。

台所から聞こえる、冷蔵庫のドアの音、コップに何かいれる音。

由菜が帰ってきたんだ。少しすると二階へ上がる足音。

〝全く、ただいまも云わないんだから〟

そのまま再度眠りに落ちた。


「ただいま~」

由紀人の声で目が覚めた。いけないっ、寝すぎた。もうすぐ5時になる。

「おかえり~」

「宿題は?」

「うん、あるよ」

「じゃ、できるところから、やっちゃいなさい」

「うん」

 ランドセルから宿題を出して、夕方の子供向けアニメを見ながら始めた。


洗濯物を取り込んで、乾いたものをそそくさとたたむ。


「今日はね、お土産にケーキ買ってきたから、お夕飯の後に食べようね」

「やった~、イチゴ乗ってる?」

由紀人は、どんなケーキを見ても結局はイチゴが乗ったショートケーキかチョコレートケーキを選ぶ。

由菜は必ずと言うほど、チョコレートケーキ。


「うん、乗ってるよ!イチゴから食べないでね?」

「いつも迷うんだよね~」

「ふふ、そうね~。でもイチゴから食べたら、見た目が悪くなるじゃない?」

「あ~、でもイチゴの味を最初に食べたい」

「じゃ、由紀人はイチゴだけ買った方が良かったんじゃないの?」

「やだよ、ケーキがいい」

「ふふ、そっか~」


〝あ~素直で可愛い、由菜もこんな頃があったのに〟

そういえば、さくらんぼを買って“可愛いね可愛いね”って云ってたら、泣きそうな顔で“可哀想だから、食べない”なんて云ってた事もあったっけ。


「ママ、お夕飯の用意するから、宿題頑張ってね」

「うん」

まだ湿っている洗濯物は、ハンガーにかけて室内に干した。


台所に行き、夕飯の仕度を始める。

冷凍パイシートを常温解凍するため、テーブルに出す。

サラダに使う野菜を洗ってレタス、キュウリ、トマト、黄色いピーマンを切り器に盛って冷蔵庫へ、玉葱たまねぎたっぷりのドレッシングをかけよう。

 

ほうれん草をでて冷凍のパイシートをキッュ用の器に敷き、ほうれん草も敷いて具材を混ぜた溶き卵を流し込みオーブンへ入れる。

ソティ用のジャガイモ、人参、アスパラをレンジで下ごしらえして、フライパンで炒める。塩コショウだけで味をつけて皿に盛る。

炊飯器から炊けたと知らせる音が鳴った。


下ごしらえしておいた白身魚は、小麦粉をつけフライパンにオリーブ油を入れて炒め、最後にバターを落として香りをつける。

ジャガイモ類を盛り付けた皿に移すと、フライパンに残った油に、オリーブオイルを足してビン詰めのバジルソースを加える。


味見をすると結構いい味、でも子供向けだからミルクを入れたソースもいいかな?

冷蔵庫から牛乳を出してボールに入れて小麦粉も加え泡だて器でダマが消えるまで混ぜるとフライパンに入れる。

熱してくるとトロミが出てきた。


〝バジルのホワイトソースっと〟

炒めた白身魚にかける。

テーブルに並べて、サラダにドレッシングをかけ、キッシュはそのまま大き目の皿に乗せて出した。


「さ、ご飯よ~」

「は~い」

「あ、お姉ちゃん呼んできて、ご飯よって。ついでにランドセル自分の部屋に持って行きなさい」

「わかった~」


子供と三人で早めの夕食。

いつも6時から7時の間には食べ終わってしまう。

由菜と由紀人が何やら言い合いながら降りてくる。

「もう、ノックしなさいって、言ってるでしょ。何回云われたらわかるのよ」

後半は私の口癖をそのまま使ってる。

「ごめんってば」

「だから男っていやなんだよ、キモイし」

どこをどうすれば男がいやという結論に辿たどり着くのか?その上キモイまでつけて。

由紀人は由菜が恐いらしく、いつも云われるまま。


「ほらほら、いいじゃないそんなこと。お腹空いてるとイライラしちゃうから、早く食べましょ」

「ちっとも、そんなこと、じゃないし」

「……」

由紀人はもう泣きべそ気味だ。

「さ、由紀人食べよう。由菜もお夕飯終わったらケーキあるのよ」

ご飯をよそって渡す。


「いただきま~す」

「由紀人、必ずノックしてよね!」

「わかったよ……」

「いただきま~」

私も

「いただきます」


「ママ、美味しいよ、この魚のやつ」

「あら本当?由菜は?」

「うん、なかなか美味しいかも」


〝かも?それは余計でしょ〟


「そう?また作るわね」

キッシュを切り分けて皿にのせてやる。


「由菜、宿題終わったの?」

「まだ……寝るまでにやるから」

「お風呂掃除してあるから、9時になったらお湯入れてね」

「え~由紀人にやらせれば~」

「お風呂掃除と用意は由菜のお手伝いでしょ。なら、明日からお夕飯のお手伝いにかえる?」

「どっちもイヤだし……」


「でも家族なんだから、やらないとね。それに大人になってから家のことが、何もできない人になっちゃうわよ」

「はいはい」

「小学校3年になったら、由紀人にやってもらうから」

「はいはい」

〝ハイは、一度でいいのに……でもこれ以上云うとまた口論に発展しかねないから、我慢我慢〟


「さっきケーキ見たよ、私、チョコケーキね」

「え?ふふふ、そういうのは目ざといのね」

「うん♪」

「わかった、お風呂入れてくれたらケーキにしましょ」

「ごちそうさま~」

「由紀人、おかわりは?」

「もう無理」

「宿題できたの?」

「うん、できた。TV見るね」

「お風呂上がったら、明日の準備してね」

「は~い」

「由菜も遅くならないように、明日の準備までしちゃうのよ」

「はいはい……ごちそうさま~」

〝はぁ~せめて毎日、この程度でも由菜と会話になれば……今日はかなり機嫌が良かったに違いない〟

 

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