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台湾祓清愛哀歌ー祓清の絆  作者: シットライヌ
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第十八話:「摩天楼の残響、光と影」


台湾祓清愛哀歌:第十八話「摩天楼の残響、光と影」

1.躍動する都会、台中の光と影

山深い日月潭を後にしたカローラ・アルティスは、広々とした道路と近代的なビルが立ち並ぶ台中市へと滑り込みました。2000年代初頭の台中は、洗練されたカフェ文化が花開きつつも、一歩路地裏に入れば戦後の名残を感じさせる古いビルが「幽霊ビル(鬼屋)」として放置されている、独特なコントラストを持つ街でした。

「……都会に戻ってくると、ノイズの質が変わりますね。空気中に漂う情報の断片が、誰かの悪意と混ざり合って粘りついているみたい」

美鈴が車の窓を開け、湿り気を帯びた都会の風を感じながら眉をひそめました。

今回の依頼は、かつて火災を起こし閉鎖された商業ビルから、深夜になると「大量の電子メール」が送信され、それを受け取った市民が次々と原因不明の高熱を出して倒れるというものでした。林さんの解析によれば、そのメールには枢栄会が開発した「霊的コンピュータウイルス」が添付されており、受信者の精神に直接干渉しているというのです。

2.幽霊ビルの「サーバー」

ビルの入り口で待っていた陳巡査部長は、重々しい表情で防護マスクを渡してきました。

「佐藤さん、美鈴さん。中に入るのは我々四人だけだ。現地の警官隊には外周の封鎖を命じてある。このビル自体が、巨大な『受信アンテナ』に変えられているようだ」

一行が廃墟と化したビルの地下へ進むと、そこには場違いな最新鋭のサーバーラックが鎮座し、焼け焦げた壁を這うように無数の光ファイバーが脈打っていました。

「……見つけたわ。枢栄会は、このビルに留まっていた犠牲者たちの『最期の叫び』をデータ化し、ウイルスとして街中にばら撒いている。志豪、なんて非道なことを……!」

美鈴の叫びに応じるように、モニターから無数の「電子の腕」が這り出し、一行を飲み込もうと襲いかかってきました。

3.符術の盾、データの海を割る

「虚ろなる言葉、実体なき闇。我が法力をもって、その根源を断たん。……道法自然、破邪金剛陣はじゃこんごうじん!」

蓮は帰真剣を逆手に構え、左手で複雑な印を結びました。彼は数枚の「金剛符」を周囲の空間に貼り付け、自分たちの周囲に黄金の結界を展開します。電子の腕が結界に触れるたびに、パチパチと法力の火花が散り、ノイズが霧散していきます。

「後輩さん、ウイルスのマスターコードを書き換えろ! 俺がこの場の邪気を引き受ける!」

「了解! シャドウ、影のプロトコルを起動。敵のパケットを全て飲み込んで!」

蓮は剣先で空中に「北斗七星」を描き、最後の一喝と共に符をサーバーへと放ちました。

「急々如律令! 偽りの叫びよ、静寂の彼方へ消え去れ!」

蓮の放った法力の波動がサーバーの冷却ファンを逆回転させ、回路を内側から焼き切りました。美鈴の迅速なハッキングによって、街中に拡散されていたウイルスメールは全て自己消滅プログラムへと上書きされ、ビルの地下にはカビ臭い沈黙だけが戻ってきました。

4.エピローグ:太陽餅タイヤンピンの甘さと、発祥の茶

事件解決の翌朝、四人は台中の代名詞ともいえる「精明一街ジンミンイージェ」のオープンカフェにいました。

「……ふぅ。都会の怪異は、山の中とはまた違う疲れ方をしますね。でも、この『タピオカミルクティー(珍珠奶茶)』を飲むと、生き返る心地です」

美鈴が台中発祥と言われる大粒のタピオカをストローで吸い込み、ようやく笑顔を見せました。

「ああ。これほど甘いものが体に必要なのも珍しい。……林さん、今回のデータも保存しておいてくれ。枢栄会の手口はどんどん巧妙になっている」

蓮はそう言いながら、サクサクとした皮の中に麦芽糖の優しい甘さが詰まった「太陽餅タイヤンピン」を頬張りました。

「佐藤さん、次は台北へ戻りましょうか。陳さんも私も、今回の遠征で多くの収穫がありました」

陳巡査部長が頼もしく頷き、台中の爽やかな朝日を浴びました。

カローラは再び走り出します。

遠ざかる台中の街並みを見つめながら、蓮と美鈴は、いよいよ本格化するであろう枢栄会との決戦が近づいていることを、肌で感じていました。

【今回のグルメ備忘録】

太陽餅タイヤンピン: 台中の伝統的な菓子。何層にも重なった薄い皮と、中のしっとりした餡が特徴。

珍珠奶茶ジェンジュウナイチャ: 今や世界中で愛されるタピオカミルクティー。台中はその発祥の地の一つとされる。

次回、第19話。


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