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009:「奴」は期待外れだ




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



(《消去》と《変更》が復活している? 奴が力を行使したの?)


 金の装飾がふんだんに施された玉座に腰掛け、魔王は円形に並べられた七つの魔法石を見つめていた。


(昨日まではただの石のように光を失っていたのに⋯⋯)


 緑色に光る魔法石を手に取った魔王は、首を傾げて訝しげな顔を浮かべている。


(やはり『権利』が重複しているのかしら⋯⋯ このようなケースは聞いたことがない)


 真球に限りなく近く削られた魔法石に、鱗のような皮膚が反射する。


(一度に膨大な量の編集を行った影響で、世界の制度に何かしらの不具合が生じたんでしょうか)


「魔王様! 転生者を観測したとの報告が、南方のハジマ付近で休暇を取得していた六十四番隊から上がりました。報告書によると、『部隊長は転生者と見られる少年に殺害された』『どの体系にも属さない光魔法を使用する』『魔王支配下の工業工場で使用されているドラム缶と酷似した姿に変化する』とのこと」


 黒く分厚い嘴の魔物が魔王の前で膝をつき、報告書を読み上げた。魔王は「報告ありがとうございます。詳細な情報を集めるように周囲の偵察隊に頼んでください」と微笑みながら簡潔に返事をした。


(――部隊長を殺害する程の光。《消去》による影響で間違いなさそうね。ドラム缶は《変更》を使用したのだろうけど、数ある物の中からなぜドラム缶を? 転生者を介して奴は復活を試みているのでしょうか)


 嘴の魔物が深く一礼し、魔王の前をあとにする。魔王は肘掛を人差し指でリズムよく叩きながら思考を続けていた。


(《消去》の誤用への過負荷から世界を庇った後遺症で、奴の体はほとんど力を失っている⋯⋯ マイルが足りなかったと簡単に解釈することも可能だけれど⋯⋯)


「魔王様! 管理部から伝達でございます。転生者の脅威度が比較的高いことから、敵の魔力探知を抑えつつ捜索を実行するために、コンテナによる兵站輸送を検討しているとのことです。許可のほどはいかがでございますか?」


「コンテナ輸送は許可できません。もちろん船も最新型のものはダメですよ。人間は適応力が高いオブジェクトですから、コンテナに限らず、人間文明のライブラリにない道具を観測させることはできるだけ避けてください。観測によって文明全体にどのような影響があるか予想が困難ですし、適応があった場合に魔王軍を脅かす何かが開発される可能性もありますから」


 「そう伝えておきます」と蛙のような四つ足の魔物が頭を下げる。


(この状態では転生者に目星をつけることも難しい。かといって《変更》を使えばツールを私の管理下に置けなくなる。《強化》で魔王軍の研究を促進させる手もあるけれど、世界の均衡を大きく壊してしまう可能性もあってリスクが高すぎる)


 魔王の微笑みが水色の魔法石に反射する。


(復活しているケースだったとしても、奴は力もツールも失っている。《強化》を使用すれば丸腰の奴に武器を渡してしまうことにもなる)


 「それに私もルールを完全に理解できていないし」と小さく呟いた魔王は、魔法石を机に並べなおすと、腕を薙ぎ払うようにして机を目の前から消した。


 魔王は顔に掌を当てて大きく項垂れると、小さな声で呟いた。


「そもそも私があんなドジしなかったら~~」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ハジマから離れた人里の遠い森の中に、炎魔法を腕に纏わせたドリーの姿があった。


「やはりこの少年は転生者で間違いなかったようじゃが、転生者の特異体質というのは魂の方に宿っているものなんじゃなぁ。私に掛かった魔法を錯乱させたのも、転生者が神の理を超える特殊な性質を持っておるからじゃろが、あれも肉体ではなく魂の影響か」


 全身を隠すほど高く立ち昇った火柱が、獣の見た目をした数匹の魔物を照らしている。


「じゃが一つ儲けたな。魔道具の効果は一度きりかと思っておったが、あのアホは今も魔法を保有した状態になっておる。まだ解明できていぬ部分はあるものの、あれは私の肉体では無理だったじゃろうな。とっさの決断だったが、運がよかった」


 針のように生えた肢の毛に炎が燃え移り、魔物が瞬く間に焦げていく。背後から迫る二匹の魔物の攻撃をくるりと宙に飛び上がりながら躱すと、ドリーの腕からはさらに出力の高い炎魔法が舞い上がった。


「酷いケガの肉体じゃったが、虫どもを撃退したおかげで大方回復しきったな。魔物を撃退するとわずかに私の力も戻っていくようじゃ」


 腰のあたりについた砂埃が、腕の動きに合わせてはらりと落ちていく。


「ちまちまと魔力を稼いでも、やはり魔道具がなければ何も出来ぬな。奴らを強化することも叶わん。足を手に入れた私が直接城に赴くこともできるが、この肉体の魔法のセンスじゃ限界があるじゃろうし、何より魔王軍の文明レベルは高いから、魔物を狩るだけでは現状のレベルを把握しかねる。私が殺されればそれで終わりの挑戦は、リスクが高すぎるな」


 獣の魔物の頭が力なく地面にぶつかり、煤の混じった風が夜の闇に消える。


「初期の想定通り、あのアホに城を奪還させよう。まあ無意識的に何かを持っているのじゃろうが、あやつには転生前の記憶がない。何かを悟って歯向かわれる心配も少ないじゃろう。足を捥ぐ形になってしまったのは失敗じゃったが、脳を見た感じではあの魔法は当分使えそうじゃし、まあ許容できる範囲じゃろうな」


 魔物の骨に腰掛けるドリーの微笑んだ顔が、炎に透かされて揺らいでいた。



 設定に矛盾が起きていないか心配です。至らぬ点ばかりで申し訳ないです。

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