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008:「本当」は期待外れだ




「数百年前、魔王討伐に最も近づいたとされる伝説の勇者『ウラス』が作成したとされる、魔王の強大な魔力を乱す五つの装備じゃ。伝説の勇者はこれらに自身の魔力を込めることで、五層の異なる性質の結界それぞれを破壊する装置を作ったのだ」


 シットルは古い絵画のようなものを取り出し、ドリーの正面を確かめながら画架にそれを掛けると、キャンバス上のシルエットを指さして説明した。


「じゃあその装備を見つけにいくか! さっさと終わらせようぜ。 ヒークス、レイ、押してくれ!」

「ちょっとドリー、最後まで落ち着いて聞きなよ。場所もわからないのに探しに行くのは、効率が悪いよ」


 「その装備はどこにあるんですか?」とレイはドリーを叱りながらシットルに訊いた。ヒックスは目を見開いて絵画を見つめている。


「伝説の勇者は魔王との決戦によって消息を絶つ前に、魔法の力によって、冒険で訪れた世界中の街に五装備を散らしたのだ。同時に『後世の勇者に想いを託す』といった旨の書状と、魔王討伐までの手記が中央都市に飛ばされた」


 ロール状になった地図を机の上で慣らしたシットルはさらに説明を続ける。


「芸術の街『エカフトラ』に保管されている《アリュバの弓》」


「騎士の街『オレツェ』で守られている《プロミネの剣》」


「中央都市『ルーラシア』で管理されている《フイリコルの冠》」


「からくりの街『ネジマキ』の塔の中に保存される《プルポスの杖》」


「鉱業の村『コダン』に存在するとされている《ユステの薙刀》」


 レイたちはシットルの指を目で追いながら、伝説の勇者の旅路の輪郭をなぞった。「見えないんだけど!」と不満を漏らしたドリーに、「おぬしは見ても覚えられまい! 人選ミスだったじゃろうか⋯⋯」と神が冷淡な返答をした。


「でもその五装備って、魔王軍にとっても喉から手が出るほど欲しい存在ですよね。名前の挙がった街の中には、魔物からの攻撃に耐えうる軍事力を持ってないものもありそうだと感じたのですが⋯⋯」


 地図の片端を持ったまま、レイはシットルに質問をぶつけた。


「その通りだ。やつらは五装備の破壊を企んでおる。魔王軍も五装備の在りかに目星はついておるのだろう。魔王城から遠いエカフトラとネジマキを除いて、五装備を有する町は魔物の継続的な侵攻を受けている。ルーラシア近郊の防衛拠点では人間が大きく優勢だが、オレツェは現団長が就任するまで長きに渡って苦戦を強いられていた。コダンの村は⋯⋯ 完全に魔王の手に落ちてしまったと聞いている」


 シットルは絵画を見つめながら、硬い表情を浮かべている。


「前の勇者もアホであったようじゃのぉ。『伝説』でこの程度とはな。なぜ魔王に攻め落とされるような場所に大事な装備を逃がしたんじゃ⋯⋯ まったく、略奪されている可能性があるのじゃろう? 研究に利用されて結界が高度なものに変えられておったら、二度手間じゃ!」


 神は呆れたように呟いた。ドリーが続けて、「じゃあ、五装備を集めようとしても無駄じゃんか! 新しい方法を考えないと」とレイたちに呼びかける。シットルは額縁のレリーフについた誇りを指先で払うと、咳払いを交えながら呟いた。


「まぁその可能性も大いにあるし、とっくの前に五装備は克服されている場合もありえる。じゃが、五装備を集めなければ、まずそのスタートラインにも立てぬ。五装備そのものが無意味であったとしても、冒険が無価値なことにはなるまい。手掛かりが見つかるはずじゃ」


 シットルは、「心を決めているなら早いじゃろうが、冒険に旅立つ準備にはまだまだ時間がかかるだろう。それまでに五装備や周辺地図などの情報を一冊の『心得』に纏めておく」とドリーたちへ述べ、絵画と地図を片づけ始めた。「手伝いますよ」とレイが絵画の額を背面から支える。


「ドリー少年の友人たち、あの重い台車を押しての旅路は、そなたらだけでは酷だろう」

「え? 私たちが一緒にいくんですか?」

「ボクも? 他の強い人たちじゃなくてですか?」


 レイとヒークスは驚くようにしながら訊き返した。


「当然じゃ。伝承上の勇者の多くは、神の加護を受けた際に行動を共にしていた人物たちと旅に出たのだ。これに対しては『神の望む因果の形に近いため、神の加護が強力になる』といった信仰的な理由や、『自動的に関係値が高い人物と旅立つから冒険で挫折しにくい』といった事実ベースの理由が挙げられている」

「なんだか納得できそうで、できないような⋯⋯」

「ボ、ボクに で、できるかな冒険なんて⋯⋯」


 レイは腑に落ちないような表情を浮かべながらも、熱意のある目つきをしていた。ドリーは「ヒークス! 大丈夫だって!」と励ますような声を上げ、神は「望んだ因果に近い⋯⋯ 人間は適当なことを言うものじゃな」と誰の耳にも届かぬ大きさで呟いた。


「まぁ、そなたらもじっくりと考えた上で結論を出すとよい。どちらにせよ長い間台車を押すことのできる力の強い者が必要じゃろうから⋯⋯」


 シットルは台車の引手を軽く揺らすと、窓の外を確認した。


「吾輩のもとで働いている『ニテ』という青年を村長に紹介しておく。今はろくに仕事もせず寝てばかりじゃが、昔は傭兵学校でここ周辺トップの成績を残した優秀な剣士であったから、腕っぷしに問題はないだろう。ドリー少年に万が一があれば戦闘ができるし、冒険者としての最低限の知識も保有している。ここで金食い虫をしているよりは、ずっと人の役に立つ存在になるじゃろう」


 ヒークスとレイは互いの顔を見つめて、冒険について無言のやりとりをした。


 続けて、「ドリー少年の検査は終了じゃ。今日のところはハジマへ戻りなさい」と言うと、シットルは大きくため息をついた。




(吾輩が人生を賭けて探求し、その形に一つ触れてみたいと毎夜願った存在)


「ありがとう、シットルさん! それじゃあまたね! レイ、ヒークスお願い!」

「ま、またあの階段を降りるんですよね。今度はドリーが頭をぶつけないようにしないと⋯⋯」


(父が酒樽を倒した夜も、黒く溶けたパンを左手に握り込んでいた夜も、祈りを捧げていた存在)


「台車に魔法がかかれば、浮かせて運べるかな? ドリーを台車に縛り付けて⋯⋯」

「レイ! ほんとうに頭がいいな! よし神! それならできるだろ!」


(珍妙な姿ではあるが、吾輩の目の前にそれが確かに在るのじゃ)


「我儘申すな! できぬ! 私はそもそも――」

「はいはい。積極的介入でしょ? それとも力がないーみたいなやつ? うるさいだけで、何にもできないじゃん」

「神様は、ほんとうに力がないんだと思います。『世界神フォード・ライア・ミミーは、魔王との戦闘から力を失っている』って神父さんから聞きましたよ。ボクも」

「その名前で呼ぶなとジジイに説教したばっかりだよな! おい、ガキ! 人間ごときがつけたあだ名で私を指すな!」


(神との対話を試みれば、世界の謎が解明されうる。なのに微塵も)


「ドリーが複雑な気持ちなのは判るけどさ、そもそも神様は私たちの命を救ってくれたから⋯⋯ ドリーはその姿になったけど」

「その通りじゃ! 敬語を使えよ知れ者が!」

「それはそうだけど⋯⋯ こいつ俺がウトウトしてるときも喋りだすんだぜ! うるさくて休まらねーしさ、あと事情を知らない人の前で声出すなよ! 村の人たちめっちゃ怖がってただろうが」

「おぬしはそもそも睡眠をとる必要がないじゃろ! ウトウトしてるのは脳みそが足りてないだけじゃ! あと、人民に気味悪がられるのはおぬしもじゃろうが!」


(吾輩が追い求めていたのは、真実そのものではないのかも知れぬな)


「随分、みみっちい神様だこと! あ、みみっち! これからみみっちって呼ぼうぜ」

「――フっ。みみっち」

「笑ったな! おぬし⋯⋯ そもそも『お友達を助けたぁあい~』って泣きついたのはこのアホなんじゃぞ! 私はサービスで命まで助けてやったちょー良心的な神じゃ! 慈愛の心に満ちておる!」

「それなら、封印が解けたのは俺のおかげじゃんか!」


(吾輩は、吾輩が思うよりずっと愚か者だったようじゃな)


 シットルは本棚を見つめた。本棚の下から二番目の段には、装丁が外れ、植物の紐でページを閉じている本が一冊横たわっていた。


『神は如何にして我らを救ったか』


 ドリーたちを見送ったシットルは一枚の絵画に布を被せると、倉庫に施錠をして居間から二テを呼び出した。




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