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007:「勇者」は期待外れだ





「解除魔法が反応を示さぬ⋯⋯ 妙な見た目ではあるが、神の加護に間違いないようじゃな」

「まったく、疑うような真似をしおって⋯⋯ 私が神であることくらい、声でも魔力の質でも、瞬時に解ると思っておったが」

「これは無礼なことを致しました。私も神様のお声を聞くのは初めてなものでして⋯⋯」


 茶黒い一枚板の机に分厚い本を置いたシットルは、無機質なドラム缶へ何度も頭を下げた。研究室は異様な空気に包まれている。


「村の連中は『シットル様なら!』と名を口々にしておったから、さぞかし名のある博士なのだろうと期待していたが⋯⋯ ただの浅学な老いぼれじゃな。話にならん」


 数日前にフィン山で保護されたドリーたちは、村長や神父などを始めとした村の重役の元で、山でのことの顛末を説明することとなった。

 「勇者」伝承に信仰が深かった孤児院の理事長はその事実をすんなりと受け入れたが、他の面々からは、ドリーのその奇妙な見た目と、神を自称する声に対して疑問の声が上がった。


 それから村長の提案で、歴史や伝承、神様に対しても造詣が深いシットル博士に鑑定を依頼すべく、ドリーたちは隣町のアタマイに赴いたのだった。


「神の加護に違いないということは、ドリーには勇者の素質があるということですか?」

「まあ、そうだな。ドリー少年の出自については、ハジマの村長からも聞いている。その点では、納得もできるな」


 レイの質問に対して、シットルは淡々と答えた。おもむろに椅子から離れたシットルは、曲がった腰を摩りながら、本棚を捜索している。


「ただし、『ナンデモカナン』⋯⋯ これについては吾輩も知見が全くない」


 パリパリと音をあげながら、装丁の剥がれ落ちた本のページが捲られる。一室には下半身が蛇のように鱗で覆われた美麗な骨格の女性を描いた絵画が立て掛けられていた。


「神の住む場所『オワレンド』 数百年前の戦からは魔王の根城となっている場所―― そのに存在するんじゃな?」


 零れるほどの文字を濾過するように、シットルは歴史書のようなものを滑らかに読んでいく。


「で、でも、魔王の城にあるって、とっても危険じゃないですか? 何でも願いが叶うんですよね? そんな便利なものなら、魔王に悪用されてしまっているか、魔王が存在を恐れて処分しているのではないでしょうか⋯⋯」


 村長から借りた台車の引手を掴んでいるヒークスが、不安げにそう訊いた。「魔王城にでっかい階段とかあったらどうするんだ? さっきみたいに運べないよな」と能天気な質問を口にするドリーは、台車に合わせてわずかに横揺れしている。


「その心配はない。ナンデモカナンはその気配まで神パワーで厳重に保管しているから、魔王も気づいておらぬじゃろう!」


 「ええ、神パワー?」と心配そうにヒークスが呟いたのを聞き漏らさず、神は「神を信頼できぬのか!」と尊厳もなく声を荒らげている。「ドリーが転移魔法を覚えてくれたらなぁ」とレイはドリーと雑談を始め、その場は同じドラム缶を介して二つ話題が持ち上がるという奇妙な状態となった。


「そのナンデモカナンを入手するためには、どの道オワレンドに立ち入らねばならぬのだろう? だとしたら一つ、問題があるな⋯⋯」


 「やっぱり階段?」と雑に割り込んだドリー。「やはり戦闘面ですか? 魔法に耐性がある魔物がでたらボクは⋯⋯」と最悪の場面を想定するヒークスに対して、「おぬしは神を侮辱しておるのか? あの魔法はメタ的な効果を使用しているから、耐性などはそもそも存在しなくてな。まあこんな難しい話はガキには――」と激昂する神。それに対して、「おい神様、うるせぇよ! 『積極的な介入はなんちゃらかんちゃらなのじゃ!』 じゃなかったのかよ。元気に喋れるなら、その力で転移魔法よこせよ!」と馬鹿にしたようにドリーは話した。


「話しを続けてよいか?」


 シットルの大げさなほどの咳払いが、纏まりのないじゃれあいを瞬く間に吹き飛ばした。「すみません」とレイが頭を下げる。無意識に手が伸びたのか、ドラム缶の上蓋のあたりにレイの片手がぶつかり、ごーんと鳴りのある音が響いた。


「オワレンドに入城するには、一つ問題があるのじゃ。それは《結界》じゃ」

「結界?」

「オワレンド全域を取り囲むように、全五層の強い結界が魔王によって張られているのだ。その結界は『魔王支配下の魔物と石や木材のような一般物質』以外の侵入を魔力で拒むように設計されている。結界に気づかず侵入すれば、魔法で魔王軍を消し飛ばす前にドリー少年たちが消し飛んでしまうだろう」


 シットルが本をゆっくりと閉じたと同時に、場に緊張感が走った。


「でもさ、この体なら、一般物質? ってとこになるんじゃないか? 魔王軍のやつらを騙して上手く運んでもらえば⋯⋯」

「その可能性は低いだろう。鉄の樽でのみであれば該当するじゃろうが、ドリー少年の中にはドリーの精神と神様が宿っておるし、それに目を瞑ったとしても、一般物質にしては魔力を保有しすぎている」


 ドリーの質問に対して、シットルは丁寧に答えた。少しの思考ののちに「じゃあ近くまで連れてってもらって、魔法で結界を消し飛ばしてやるよ!」とドリーが快活に提案したが、「結界や魔力などの実体のないもの、一般物質のようなものは、魔法の対象として選択できないんじゃ」と神に端的に否定された。


「――伝説の五装備。これが、魔王の結界を破壊するための、現在見つかっている唯一の方法じゃ」

「伝説の五装備⋯⋯」




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