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001:「人生」はくだらない

 初めての「ファンタジー・無双系」小説の投稿ということもあり、ややジャンルのお作法や物語構成への理解が足りていない部分があるかと思います。


 読みにくい点やテンポ・展開へのご不満は、感想等でご指摘いただけるとありがたいです。



「ねぇ、〇〇。読書感想文の題材は、もう決まったの?」

「これにするよ! 先生のおすすめなんだって! 課題図書のやつ」


(なんなのだろうか? この感覚は、この声は)


「ねぇ見て見て! このぬいぐるみ、ちょーかわいくない?」

「1回200円なら、買った方が安いんじゃない? さっきの雑貨屋に似たようなの売ってたし、プレゼントするよ」


(意識が遠のいていく。指先から、だんだん力が抜けていくのが判る)


「お前って、進路希望調査はもうだしたの?」

「まぁ、就職は文系より安定するんだろ? それなら理系でもいいかなって⋯⋯」


(意外と「あっけない」ものなんだな⋯⋯)


「はい。申し訳ございません⋯⋯」

「判ってるのか? そもそもこんな奇天烈な企画が、相手様に受諾されるわけないだろ。プレゼン中に渋い顔されて、質疑もなく突っぱねられて終わるのが眼に見えてる。お前が、趣味で好きなことやってるわけじゃないんだから、もっと地に足がついたアイデアを持ってきてくれないと⋯⋯」


(――もし、次の人生があるのならば)


「ううん。お母さんは、こっちのランドセルがいいと思うなぁ。柄もいいし、〇〇も、ゴウリンジャーのソーカイブルー、好きだもんね。カッコイイじゃない!」

「――うん、そうだね。こっちにする!」


(もっと≪自由≫に生きてみたい)



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ある満月の夜のこと。鉛色の分厚い雲を突き抜けて、一筋の光が大地へと突き刺さった。


 青い草原はどこまでも広がり、雄大な山々はその体躯を四方に投げ出すようにして坐っている。

 小さな人里には『魔法』の灯りが点り、夜の闇には『魔物』の影がひしめいている。


「――これは、赤子か? 天から降り立ったようじゃが」


 深く被ったフードを捲って、老人は呟いた。


 これは「自由」を求めたある男の、《世界一くだらない冒険譚》である。


 金色の光に包まれたその男は、草原の中で微かに泣き声をあげた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「『一般魔術において生命活動は、ある一定の価値(ここでは生存や生命倫理のこと)に基づいてその社会性を定義されるが、このような人間的な通念は、魔族の倫理的価値観においては著しく《無意味・無価値》であるとされる。これが人間の魔術が本質的に⋯⋯』っと」


 村はずれのベンチに座っていたレイは、ふーっと息を吐きながら静かにページをめくる。


「おーい、レイ! こんなところで何してるんだ?」


 幼馴染のレイを見つけたドリーは、ドタバタと走りながら彼女に駆け寄った。


「ああ、ドリー。魔術倫理の本を読んでたの。こういう微風の気持ちいい日はね、気分転換にいいから」


 小さく微笑みながら、レイは小さく伸びをする。自分で訊いたにも関わらずドリーは「ふーん」と興味がなさそうに返事をして、レイの隣にドタンと腰掛けた。


「ドリーこそ何をしてたの? 胸の辺りまで泥だらけだけど⋯⋯」


 横に置いていた手提げに丁寧な手つきで本を入れると、レイは座ったままで、やんちゃに汚れたドリーと拳一つ分の距離をとった。


「山の近くの畔にさぁ、羽が濡れて飛べなくなってたリオンワシがいたんだよ。だからそいつを森まで運んでやってたの」

「ねぇ。それだけで、そんなに汚れないでしょ。確かに飛べないのは可哀そうだけど、それは自然の摂理なの。人間の自然への介入はね――」

「あー、ストップストップ。それよりさ」


 人差し指を立てながら、レイは呆れた顔でドリーを咎める。怪訝そうな顔を浮かべるレイを大声で制止したドリーは、いかにも話したいことがある様子で訊いた。


「すっごく綺麗な星空があるとしたら、見てみたいと思わないか?」

「星空? 思わないね」


 端的にそう答えたレイは、そう長く思考しないうちに、「またよからぬ企みをしているのだろう」と勘繰り、ドリーの質問を冷淡にあしらった。

 期待外れの反応に戸惑いと落胆を感じたのか、ドリーは少し言葉が荒くなった。


「そんなに即答しなくてもいいじゃん! ほんとうに、すっごく綺麗なんだぜ!」

「はぁ。ドリーはいつも、くだらないことばっかりね」


 生まれた一瞬の沈黙が、川のせせらぎをいっそう鮮やかにする。山々の隙間に顔を覗かせる茜色の空からは、夏の終わりを感じさせる涼しげな風が吹いていた。


「もう、帰るね。このあと用事あるから」


 目を細めながら小さく呟いたレイは、撓んだ手提げの紐に片腕を掛けた。


「用事ってどうせ、また勉強だろ? この前はさ、『魔法科学の勉強なんてめっちゃ嫌だ!』って文句言ってたじゃん。それならさ――」


 立ち上がろうとするレイの腕を掴んで、おどけながらドリーは言った。斜陽はゆらゆらと燃えて、レイの瞳には金色の毬が映る。レイはドリーの手を振りほどこうとして、片腕を揺すりながら目を閉じた。


(ねぇレイ。秋からは隣町の児童予備学校に通いますからね。年明けには生徒選考のための特別学習塾の入試があるから、それまでの特訓期間にしましょう)


 母のセリフが、レイの頭をよぎった。


「そうだけど⋯⋯ お母さん、心配するから」


 俯いたままでレイは答えた。小刻みに震えていた腕の強張りがだんだんと弱くなっていく。


(――ドリーと馬鹿なことして遊ぶのも、これが最後なのかな)


「なぁ、今日くらいはサボっちまおうぜ。お母さんには、リフレッシュしてきたとか言っとけばいいだろ。お前のお母さん、優しいからな!」

「でも――」


 首を小さく振ったのち、レイは顎をゆっくりと上げて、ゆらゆらとドリーのことを見つめた。一瞬の思考が通過した後に、ドリーはニコっといかにも悪い風に笑った。


「いいからいこうぜ! 善は急げって言うしな!」


 掴んでいた腕を強引に引っ張って、ドリーは勢いよく走り始めた。最初こそ踏ん張って地面を嚙んでいたレイも、ドリーの無邪気な力に押し負けて、流れに身を任せるようにドタバタと引っ張られながら走った。


(――明日から頑張るから。今日が最後かもしれないから。それでいいんだよね?)


「ちょ、ちょっと。そんなに強く掴まないで! てか、まだ何とも言ってないんだけど!」

「ごめんごめん。でも、ほんとは勉強なんかよりコッチがいいんだろ?」


 柔らかい文句を口にするレイと、適当な返事ばかりのドリーは、川沿いの小道を順に辿りながら駆けていった。足が地面を捉えるたびに軽く砂埃が舞って、また風に乗って流れて消える。


(バカで、強引で、人の気持ちなんて微塵も考えられなくて、自分勝手で。ドリーって、いっつもそう)


 しばらく走ったところで、川の堤防はフィン山の山道へと突き当たった。


 葉が揺れるたびにうねる森林のざわめきが、一匹の生き物が呼吸するように山中に響いている。

 

 アーチのように枝垂れる小枝を左腕で大きく避けたドリーは、薄暗い山道の様子を確認すると、怯えるレイを掴んで山道へと踏み出した。

 オレンジ色に照らされた地面に伸びる二人の影は、寄り添う二つの線のようになって、互いに交差しながら麓の深い緑の中へ誘われていった。


 

 ご読了ありがとうございます 


 ストックの都合から更新はゆっくりめを想定していますので、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

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