第2話 武器が折れた日
「……おい、まだ着かないのか?」
先頭を歩く勇者カイルが苛立った声を上げる。
昨日、無能な荷物持ち兼鍛冶師を追い出し、晴れやかな気分で次の依頼地へ向かっていたはずだった。
そのはずなのに、仲間全員の顔に疲労が滲んでいる。
僧侶ミリアが呟く。
「……なんだか、体が重いです。魔物との戦闘も、妙に体力が削られて……」
魔法使いジンが杖を握り、問いかける。
「武器や防具が、急に軽くなったような……妙な感覚だな。前はもっと力が湧いてたはずだ。」
戦士ガロが鼻で笑った。
「気のせいだろ。あんな鍛冶屋、いなくても――」
ギチッ。
その瞬間、ガロの両手剣の鍔から、小さな亀裂が走った。
一歩踏み出して振り下ろした瞬間――
バキィン!!
刃が根本から折れ、地面に突き刺さった。
反射的に全員が息を呑む。
「お、おい……いまの見たか? オレの愛剣が……!」
ガロは両手で折れた刃を掴み、震える声を漏らす。
ジンも試しに呪文を放つ。だが杖先から出た火球は、以前の三分の一ほどの小ささだった。
ミリアの回復魔法も、浅い傷しか癒せない。
――全員が気付いてしまった。
「……まさか。」
カイルが、昨日の光景を思い出す。
焚き火の前で、レオンが無言で刃を磨き、防具を打ち直していた姿を。
光る刃。締まった革。絶妙な重量配分。
そして、自分たちがどれだけ軽々と魔物を倒せていたか……。
ミリアが顔を青ざめさせる。
「武具……全部、レオンさんの手作り……だったよね」
その瞬間、森の奥から唸り声が響いた。
――グルルル……。
姿を現したのは、筋骨隆々とした灰色の狼。
通常の三倍は優にある巨体。鋭い牙。低く垂れた耳。
「こ、こんな魔物……レオンがいれば楽に倒せたのに……!」
ジンが後ずさる。
だが、もう遅い。獣は一直線に飛びかかってきた。
勇者カイルは焦りながら剣を抜く。
軽く振れるはずの刃が重い。足が絡まる。
ガギィィン――!
衝撃が走り、カイルの剣にもひびが入った。
手の中の武器が、まるでただの鉄くずのように頼りない。
「っ……クソッ、レオン……!」
口から漏れたその名前は、怒りではなく、初めての後悔を孕んでいた。
――地獄の日々は、この日から始まった。
ここから勇者パーティは急速に転落していきます。
次回はいよいよ、レオンが新たな町で武器商を叩きのめすデビュー回になります。
そして噂が全土に広がり始める……。




