『侯爵家の晩餐会への招待』
ある静かな午後、まるふく商店の扉が静かに叩かれた。
店の前に立っていたのは、侯爵家の使者と名乗る執事風の男。
彼は上品な袴を整えながら、畏まってこう告げた。
「ショウイチ様、侯爵家より正式な招待状をお預かりしております」
手渡された羊皮紙には、濃紺の紋章と金色の文字でこう記されていた。
『三日後、当侯爵家にて夕食をご用意願います。貴殿の腕前をお借りしたく存じます』
ショウイチは読み終えると、無意識に笑みが浮かんだ。
(まさか、まるふくがここまで来るとはな……)
その夜、頭の中はメニューのことでいっぱいだった。
「インスタントラーメンに、サーモンのムニエル、混ぜ込みご飯……あとはあのインスタントデザートか」
冷凍庫には港で手に入れたキノコが眠っている。
それを使ってリゾット風にできれば、料理の幅も広がる。
「……まあ、どうにかなるだろ」
三日後。
準備を整えたショウイチは、大きな包みを背負い、重厚な鉄の門をくぐった。
石畳の庭園を抜け、燭台が灯る豪奢なホールへと足を踏み入れる。
侯爵家の屋敷は、異世界でも屈指の格式を誇っていた。
だがショウイチは、いつもの雑貨屋のオーナーそのままの自分でいた。
(ここで腕を振るうチャンスだ。ここからさらに、この世界を掌握する)
彼は背筋を伸ばし、深呼吸をしてキッチンへと向かった。
侯爵家の厨房は広く、石造りの壁に古びた調理器具が並んでいる。
調理台は重厚な木製で、清潔感が漂う。
ショウイチは持参した材料を広げる。
インスタントラーメンの袋、サーモンの切り身、冷凍キノコ、米、インスタントデザートの粉。
まずはサーモンのムニエルから着手。
彼は冷凍キノコを解凍し、細かく刻んでバターでソテー。
フライパンを熱し、塩コショウだけのシンプルな下味を付けたサーモンを投入。
油がはじける音と香ばしい匂いが厨房に満ちる。
焦げ目がついたら裏返し、丁寧に火を通す。
続いて混ぜ込みご飯。
炊いた米にキノコのソテーを混ぜ込み、醤油とバターで風味を整える。
インスタントラーメンは、異世界の水道水でもしっかり煮えた。
麺がほぐれたらスープの素を加え、ショウイチ特製の味噌と醤油をブレンド。
最後にインスタントデザート。
水に溶かして冷蔵庫で冷やすだけの簡単調理だが、これも甘みと酸味のバランスが絶妙だ。
---
準備が整い、晩餐会の会場へ運ばれる。
長テーブルに並べられた料理を前に、侯爵家の貴族たちは興味深そうに箸をつける。
「これは……実に繊細な味わいだ」
「特にサーモンの火の通り方は完璧。バターの香りとキノコの旨味が絶妙に絡み合っている」
「混ぜ込みご飯も、香り高くて食欲をそそるな」
「麺のスープは、懐かしい味だ。どこの国のレシピだ?」
ショウイチは静かに答える。
「異世界から来た者の、母の味です」
宴は大成功。侯爵家の主は満足げにグラスを掲げた。
「ショウイチ、君の腕は我が家の宝だ。今後も我々に料理を振る舞ってほしい」
歓談の中で、ショウイチの名はさらに街中に轟いた。