『初仕事』
翌日、ショウイチは約束通り衛兵詰所を訪れた。
壁には何枚もの手配書が貼られ、乱暴そうな顔や、胡散臭い笑みの似顔絵が並んでいる。
衛兵の上官が、一枚を指差した。
「こいつだ。名前はブルーグ。身長二メートル近くある大男だが、中身はただの粗暴なチンピラだ」
「罪状は?」
「無銭飲食の常習犯だな。しかも注意すれば暴れて店を壊す。手に負えん」
ショウイチは軽く鼻で笑った。
「……じゃあ、さっさと片付けてくる」
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その足で店に戻ったショウイチは、陳列棚から一着の防刃ベストを取り出した。
黒くて厚みがあり、腹部までしっかり覆う本格仕様だ。
「売れ残りも、こういう時は役に立つな」
ベストを着込み、腰には自作のスタン警棒。準備は整った。
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標的のブルーグはすぐに見つかった。
港近くの酒場で、肉の塊をかじりながら酔っ払っている。
「金? そんなもんねぇよ!」と怒鳴り、テーブルを蹴り飛ばした瞬間、ショウイチは背後から歩み寄った。
「ブルーグだな」
大男は振り返る。
確かに背は高いが、肩幅は意外と狭く、腹はわずかにたるんでいる。
酔いで足元もふらついていた。
「誰だテメ──」
その言葉が終わる前に、ショウイチの腕が首に回る。
絞め技は柔道仕込み、呼吸の逃げ場を一瞬で塞ぐ。
「ぐ……っ」
膝が崩れ、わずか十秒で大男は意識を手放した。
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詰所に引きずっていくと、衛兵たちは唖然とした。
「……お、お前、早すぎだろ」
「いや、こいつただの酔っぱらいじゃねぇか」
上官は笑いながら袋を差し出した。
「報奨金だ。これに懲りたら、もうちょっと歯ごたえのある奴を選べ」
袋の重みを確かめながら、ショウイチはにやりと笑った。
「……この世界、本当にチョロいな」