『塩鮭定食と新たな稼ぎ口』
港から戻ったショウイチは、すぐに厨房へ入った。
魚介は鮮度が命。買ってきたら即、処理するのが鉄則だ。
鯵は内臓を抜き、海水に似せた塩水に漬ける。
鯖は三枚におろし、軽く塩を振ってから干し網へ。
ガスコンロの横で、扇風機を回して風を送り、しっとりと乾かす。
「こっちは朝食向けの干物だな」
サーモンは分厚い切り身にして岩塩をまぶし、一晩寝かせる予定。
マグロは圧力鍋にオリーブオイルと香味野菜を入れ、ゆっくり煮る。
グツグツと油が小さく跳ね、マグロの赤身が淡いピンク色に変わっていく。
煮上がったら、湯煎殺菌したガラス瓶に詰め、蓋を閉める。
「ツナ缶じゃなくてツナ瓶だが、味は間違いない」
仕込みを終える頃には日も暮れ、厨房には魚と塩の香ばしい匂いが充満していた。
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夜。
衛兵たちがいつものように詰所帰りにやってきた。
今日は日頃の礼を込めて、塩鮭定食を無料で振る舞うことにした。
焼き台の上で皮がパチパチと音を立て、脂がじゅわっと滴る。
香りに耐えきれず、衛兵たちは席で身を乗り出した。
「これが塩鮭ってやつか……白いご飯に合うな」
「味噌汁もうまい!」
食後、口を拭った一人の衛兵が、声を潜めてショウイチに話しかける。
「なあ、ショウイチ。あんた、昨日の盗賊捕まえた時もそうだが……腕が立つだろ? 賞金稼ぎに興味はないか」
「賞金稼ぎ?」
「この街じゃ、指名手配犯を捕まえりゃ報奨金が出る。昨日の倍も稼げる相手もいる」
ショウイチは考える間もなく笑った。
「……やる。金になるなら、やらない理由がない」
衛兵は満足げに頷いた。
「じゃあ明日、詰所に来い。手配書を見せてやる」
こうして、まるふく商店の店主ショウイチは、
「飯屋」と「賞金稼ぎ」という二足の草鞋を履くことになった。