衛兵御用達の飲食店
ショウイチは衛兵の視線を気にせず、黙って炊飯器を開けた。
湯気がふわりと立ち上り、炊き立ての香りが鼻をくすぐる。
次にサバ味噌缶をパカッと開け、温めた味噌ダレを白飯にたっぷりとかけた。
「……食うか?」
衛兵二人は顔を見合わせた。
「いや、我々は勤務中で――」
「代金はいらねぇ。味見だ。俺の“火を吐く台”で作った飯が、毒かどうか確かめりゃいい」
その言葉に押され、一人が恐る恐る箸(割り箸)を手に取った。
口に入れた瞬間、目を見開き、無言で二口、三口と食べ進める。
もう一人も黙って席につき、気付けば二人とも皿を空にしていた。
「……上に報告はするが、毒ではないな」
「むしろ、こんな旨い飯は初めてだ」
数日後。
昼時に鎧の擦れる音と共に、見覚えのある衛兵二人が現れた。
その後ろには、胸に金色の紋章を付けた上官らしき男が立っている。
「こいつか? 例の“鉄の箱”を持つ商人は」
「はい、隊長。とりあえず食ってみりゃ分かります」
隊長は眉をひそめつつも席に座り、ショウイチは無言でカレーライスを出した。
スパイスの香りが漂うと、隊長の表情がわずかに和らぐ。
一口、二口……気付けば皿は空になっていた。
「……よし。特に害はない。だが火の管理と煙の処理は気を付けろ」
「ありがとよ」
それからというもの、昼時になると衛兵たちが隊列を組んでやって来るようになった。
鎧を脱ぎ、剣を壁に立てかけ、木のテーブルに座って飯を待つ姿は、もはや常連客そのものだ。
ある日、飯を出しながらショウイチは何気なく聞いた。
「そういや、この街ってどんなとこなんだ?」
若い衛兵が口を開く。
「ここはヴェルンの城下町だ。人口は二千ちょっと。物価は……麦一袋で銅貨十枚、酒一樽で銀貨二枚ってとこだな」
隣の衛兵が付け足す。
「北は山で、南は港だ。交易が盛んだが、最近は盗賊が増えて物資が高くなってる」
ショウイチは心の中で頷いた。
――港があるなら、魚は手に入るかもしれねぇ。盗賊がいるなら、腕っぷしの出番もある。
この街で生き残る道筋が、少しずつ見えてきた。